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立花山の姫と、まだ見ぬ婿

こんにちは! あまはる です!

この物語を手に取っていただきありがとうございます!

本作は史実を元にしたフィクションです。

実在人物を題材にしていますが、人物描写・会話・逸話などに独自解釈と創作を多く含みます。

生暖かい目で見てください。


 ――時は西暦一五八二年。


 九州・筑前の国。

 博多の北東にそびえる、立花山城。

 山そのものが城だった。

 尾根を削り、曲輪を重ね、石を積み、柵を巡らせる。

 険しい山道の先に築かれたその城は、九州でも屈指の堅城として知られていた。

 眼下には博多湾。

 遠くには町と海が見える。

 風が吹けば木々が鳴り、鳥の声が谷へ落ちる。

 ここは、“戦うための山”だった。


 その山道を、一人の少女がずんずん登っていく。

 両肩には薪束。

 年頃の姫君が持つには、明らかに多すぎる量だった。

 しかし当の本人は平然としている。

 額に汗は浮かんでいるものの、息は乱れていない。

 むしろ足取りは軽く、鼻歌まで聞こえそうな勢いだった。


「よいしょっと」


 誾千代(ぎんちよ)は薪束を抱え直しながら坂を登る。

 立花家当主・立花道雪の娘。

 そして、将来この立花家を継ぐ姫。

 普通ならば侍女に囲まれ、奥で静かに育てられていてもおかしくない立場だった。

 だが彼女は違う。

 簡素な小袖姿。

 袖はたすき掛けされ、草履には土がついている。

 白い肌。

 濡れ羽色の長い髪。

 大きな黒い瞳。

 その瞳がころころ動くたび、周囲の空気まで明るくなる。

 誰が見ても、美しい娘だった。


 ――動いていなければ。


「姫様、そこまでなさらずとも……!」


 城兵が慌てて駆け寄ってくる。


 誾千代(ぎんちよ)はきょとんとした。


「え? でも人手足りてないんでしょ?」


「それはそうですが!」


「じゃあ運んだ方が早いじゃん」


 理屈は単純だった。

 誾千代(ぎんちよ)はそのままずんずん坂を登る。

 兵たちは顔を見合わせた。


「……うわさには聞いていたが」


「男より力あるぞ……」


「この前なんて、一人で米俵二つ持ち上げてた」


「しかも笑顔でな……」


「恐ろしい姫様だ……」


 そんな声も、誾千代(ぎんちよ)の耳には入っている。

 だが本人は気にしない。

 むしろ誇らしげだった。


「力ある方が便利でしょ?」


「姫様は、もう少し姫らしさというものを……」


「姫らしさってなに?」


 真顔で聞き返され、兵たちは黙った。

 彼らにも説明できなかった。

 立花家では、誾千代(ぎんちよ)がこうして動き回る姿は珍しくない。

 道雪自身が武断の人であり、家中も実力主義だ。

 だから姫が兵より重い荷を運んでいても、最終的には、


 ――まぁ姫様だしな。


 で終わる。

 その時だった。


「姫様ーーー!!」


 山道の下から悲鳴のような声が響いた。

 侍女の“たま”である。

 たまは裾を乱しながら坂を駆け上がってきた。

 息が切れ、肩で呼吸している。


「はぁ……っ、はぁ……っ……!」


 誾千代(ぎんちよ)は振り返った。


「どうしたの?」


 たまは薪束を抱えた姿を見て、一瞬固まる。


「……姫様、それは何をしておられるのですか」


「薪運び」


「見れば分かります!!」


 即答だった。

 周囲の兵が吹き出す。

 たまはぎろりと睨んだ。


「笑っている場合ではありません!」


 兵たちはすぐに背筋を伸ばす。

 誾千代(ぎんちよ)は不思議そうに首を傾げた。


「そんな急いで、何かあった?」


「ありましたとも!」


 たまは呼吸を整えながら言う。


「本日は、姫様の旦那様となられる方とのお顔合わせの日でございます!」


 一瞬。


 風が止まったように感じた。

 誾千代(ぎんちよ)は薪束を抱えたまま固まる。


「……旦那?」


「そうでございます!」


 誾千代(ぎんちよ)はしばらく考え込んだ。

 そして。


「いらなーい」


「即答なさらないでください!!」


 たまの悲鳴が山に響いた。

 鳥が一斉に飛び立つ。

 誾千代(ぎんちよ)は本気で不思議そうだった。


「だってさ、私より強くないと結婚したくない」


「姫様より強い方など滅多におりません!」


「じゃあ結婚しない」


「そういう話ではありません!」


 たまは頭を抱える。

 立花家の姫君・誾千代(ぎんちよ)は、美しく、武芸にも優れる。

 そこまでは良い。

 問題は、本人にまるで姫らしい自覚がないことだった。

 幼い頃から槍を振り回し、木登りをし、兵たちに混じって山を駆け回っていた。

 道雪も止めなかった。


 むしろ。

『好きにやれ』

 で終わる。


 結果、こうなった。


「姫様」


 たまは真剣な顔を作る。


「今回のお話は、ただの婚姻ではございません」


「うん?」


「立花家の未来に関わる、大切なお話でございます」


 誾千代(ぎんちよ)は少しだけ表情を改めた。


 立花家。


 それは父・道雪が命を懸けて守ってきた家だ。

 九州は今、戦乱のただ中にある。


 島津。

 大友。

 龍造寺。


 数多の勢力が争い、昨日の味方が今日の敵になる。

 立花家もまた、その渦中にいた。


「……強い?」


 誾千代(ぎんちよ)がぽつりと聞く。

 たまは勢いよく頷いた。


「はい! 宗茂様は大変お強いお方だとか!」


「へぇ」


「武勇に優れ、知略にも長け、しかも大層お顔立ちが良いとの噂でございます!」


 誾千代(ぎんちよ)は即座に鼻で笑った。


「そんな完璧な人いるわけないじゃん」


「おります!」


「絶対盛ってるって」


 薪束を持ち直しながら、誾千代(ぎんちよ)は肩をすくめる。


「だいたい噂なんて、会ったら違うやつだし」


「ですが――」


「前に“九州一の豪傑”って言われてた人いたけど、実際会ったら猫怖がってたよ?」


「それはその方が悪いのです!」


「しかも小さい猫」


「姫様!」


 誾千代(ぎんちよ)はけらけら笑った。

 だがその時。

 城の方から別の兵が駆けてくる。


「姫様! 道雪様がお呼びです!」


 その一言で、空気が少し変わった。

 誾千代(ぎんちよ)も表情を改める。


 父――立花道雪。

 雷神と恐れられる名将。

 一度戦場に立てば、鬼神のごとく敵を討つ男。


「じゃ、行こっか」


「まずはお着替えを!」


「えー」


「えーではありません!」


 結局。

 誾千代(ぎんちよ)はたまに引きずられるようにして、城へ戻ることになった。

 山の上を風が吹き抜ける。

 戦乱の時代の風。


 そして。


 後に“西国最強夫婦”と呼ばれる二人は、

 まだこの時、お互いの顔すら知らない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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