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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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75 国王、参戦


「今日フローラちゃんが遊びに来てたんだって?リアム君にその話を聞きたくて探してたんだけどジョージの執務室にいたんだね〜」


「……そんなくだらない理由で共もつけずにウロウロしないで下さい」


「えー、全然くだらなくなんてないのに〜!でもそれを言うならリアム君だって一人でよく王宮をあちこち歩き回ってるし!」 


「俺はいいんです、貴方より遥かに危機管理能力が高いので」


「え……?ジョージ、今の聞いた?リアム君が安定の辛辣さなんだけど…」




 国王は相変わらずの能天気さでリアムはそんな父を地面を這うダンゴムシを見るかのような目で一瞥するのがお約束だったが、本当の祝福を知った今となってはすべての行動に裏があるのではと穿った見方をしてしまう。

 何も考えていなさそうなぽわぽわした顔をしながら、家族すら欺き祝福を偽り続けて平然としている胆力・精神力を持ち合わせているのだ、決して油断はならない。




「陛下、ちょうどいいところに来て下さいました。フローラ嬢が陛下に是非献上したいとリアム様に託した物があるのですが」


「え〜!なになに!?」



 ジョージが先ほどのリアムの話を伝えると、国王は驚いたり興奮したり小瓶の中身をキラキラした目で確認したりと子どものようにはしゃぎ出す。


 リアムはそんな父を尻目にフローラから聞き出した国王の祝福内容を思い返していた。







『父の祝福にはなにかルールがあるのか?』


『んだ。国王様は触れるだけで他の人の祝福を模倣出来て、次に誰かに触れるまではずっとその祝福が使える状態だ。この祝福のすごいところは、模倣した人が祝福を使いこなすためにした努力込みの力を模倣出来るところだべ』


『……例えば剣の扱いが上手になる祝福を授かった人間はさらなる研鑽を積み祝福の力をより高めるが、父は

触れるだけでその努力まで模倣する……つまり剣など握ったことはなくともオリジナルの人間と同様に剣を扱えるようになるということか……。確かにすごい祝福だな。

 そういえば…今思い返してみるとうざいくらいに絡んでくるくせに、俺はあまり父と触れ合った記憶がない』


『国王様は保持しておきたい祝福でもあるんでねーか?

 まぁ触れるだけでいいお手軽さだべ、自分の周りに利用出来そうな祝福持ちの人間を配置しておけばいつでも模倣し放題だ』


『なんか嫌な言い方だな…』





 国王の祝福を理解した上でよくよく考えてみれば、国王の側近達の祝福は外交に使えそうな祝福持ちや戦闘系の祝福持ち、頭脳系の祝福持ちとバラエティに富んでいる。必要な時に必要な祝福を模倣し利用しているということなのだろう。

 国王が自身の本当の祝福を徹底的に秘匿する理由は特殊すぎるからというより、模倣される側の人間の反感を買わないようにという理由が大きいような気がする。自分の大切な祝福を努力ごといとも簡単に奪われる忌避感は絶対にあるはずだ。






「―――ね、リアム君聞いてる?」


「聞いてません」


「え、そんなはっきりと……」


 リアムが思考に没頭している間に国王がなにやら話しかけていたようだ。



「だから、今の話は本当なの?これって本当の本当に御伽話に出てくるような伝説のエリクサーなの??」


「だから本当ですよ。信じるかは、……っ!!」



 ―――パシンッ



 静まり返った室内に、リアムが国王の手を振り払う音がやけに響いた。

 




 ―――しまった…………っ!





 国王の祝福について考えていたせいでリアムは無意識のうちに恐れてしまったのだ―――もし今国王に触れられたら自分の祝福を模倣され、ついた嘘がバレてしまうなと。


 だから不意に伸びてきた国王の手を咄嗟に振り払った。


 これは絶対にやってはいけない悪手であり、リアムは珍しくその場を取り繕うことも出来ずに青褪めた顔で固まる。

 

 


 この事態に国王とジョージも勿論驚いていた。



 まさかと思いつつここまでリアムを誘導してきたが……これは考えていた中で最悪の展開だ。



 ゆっくりと伸ばされた国王の手に驚いたということもないだろうし、たとえリアムが国王の手を無意識に振り払ったとしても「急になんですか、触らないで下さい気持ち悪い」くらいは平気で言うので、あそこまで動揺する必要はないはずだ。それにあれは完全に国王を警戒している者の目。



 これの意味するところは、リアムは国王の本当の祝福を知っていて自身の祝福の模倣を恐れたということ。



 国王の周囲から秘密が漏れることは絶対にない。よってこのタイミングでリアムが国王の秘密を知り得たということは―――異質な祝福を持っているフローラを介して情報を得た可能性が高い。


 


 ジョージは国王に協力を仰ぎリアムを追い詰める計画を立てていた。


 最終的に国王がリアムの「嘘を見抜く祝福」を模倣すれば簡単に真実が判明するだろうと高を括っていたのだが、まさか別の真実が釣れるとは。




「………リアム様、もうやめましょう。これ以上フローラ嬢の祝福を隠して何になるというのです?  

 これまでのことを鑑みるに彼女の祝福はかなり異質なのでしょう。であるならばリアム様お一人が抱える必要はないかと。王家でしっかりと管理する手筈を整えますから私達にお話し下さい」



 ジョージが諭すように話し掛けるも、何も知らぬ人間の戯言だと一蹴するリアムにはまったく響かない。



 神に等しい力を王家如きが管理出来るはずもないというのに何をほざいている?


 仮に運良くフローラを手中に収めることが出来たとしても、有能な彼女に抱く欲は際限なく膨らみ、いずれその野心が王家を滅ぼすだろう。


 一度でも彼女の力を目の当たりにし、その類まれな恩恵を受けてしまったのならば、もう以前の常識には戻れない。


 フローラの力ありきで国を繁栄させて何の意味があるというのか。彼女だって人間である以上、いつか死を迎える。


 彼女の死と共に築き上げた繁栄を一瞬にして失うくらいならば、いっそ最初から何も知らない方が幸せだし健全だ。



 リアムはやはりフローラの祝福を国王に伝えるわけにはいかない、とあらためて決意する。




「……何のことを言っているのか分からない。以前伝えたフローラの祝福に偽りはないし、これは本当にエリクサーだ」



 そう言って徐ろに立ち上がったリアムは執務机に置かれていた金属製のペーパーナイフを手に取ったかと思えば、バンッ!と机に置いた左手目掛けて振り下ろした。



「っ、!」


「リアム君!?」


「リアム様!!なんてことを!!」



 国王とジョージはすぐさま立ち上がりリアムの側へと駆け寄る。

 ペーパーナイフとはいえ切れ味を重視した鋭い形状のそれは立派な凶器で、勢いよく振り下ろされたナイフはリアムの手の甲を貫通している。



「ぐぅっ、はぁ、…見てろ……」



 痛みを堪えナイフを抜き取るとすぐに血がダラダラと流れてきたが、リアムは小瓶のコルクを口に咥えて外し、中に入っていた小指の爪の先ほどの物体をナイフによる穴が空いた左手の上にポトリと落とした。



 弾力性のある物体がぽよよんっと左手に触れた瞬間、それは虹色に強く光り輝き、そして瞬き一つの間にリアムの怪我は癒えた。


 不思議なことに流れた出た血液すら跡形もなく消え去っている。




「………これは、このエリクサーの正体は、アンプリスの山地にある一本の大樹の葉に溜まった朝露だ。

 拾った眼鏡に導かれるように辿り着いた先で一枚だけ黄金色の葉を見つけ、陽の光を受けてキラキラと輝く葉と雫の美しさに、おもわず小瓶に入れて持ち帰ったそうだ。

 手に入れた朝露は二滴。

 影の火傷跡を癒したのと、今、俺の怪我を治すために使ってしまったからもう存在しない。残念だったな。

 でもこれでエリクサーの存在は証明されただろう」

   

「リアム君……そこまでして……」



 強い痛みや違和感は傷が癒えた瞬間に綺麗さっぱりなくなったが、自分の手に自ら刃を突き立てるという恐ろしい行為をしたせいで震える左手を右手で強く抑え、リアムは国王の返事を待つ。




 アンプリスで採取した朝露がエリクサーうんぬんの話はもちろん作り話で、嘘の話に信憑性を持たせるため用意したのが、フローラが創造の力で創った「万能薬」だ。


 フローラがあらゆる怪我や病を癒せる薬を…と願い出来たものが小瓶におさまる一滴のぷるぷるだった。

 


 フローラが想像したものを無限に創り出すことが出来るのが『創造』の力だと理解していても、まさかこんなものまで創れるとは思っておらず、改めてフローラの力は世に出してはいけないと強く思ったものだ。



 本来はエリクサーをこんなところで使う予定はなく、本物か偽物か確かめる術もないまま一応宝物庫に仕舞われる結末を予想したというのに、まさか自分の身を以てその効果を確かめるはめになるとは…あまりの計算違いにリアムは頭を抱えたくなったが、自分の左手一つでフローラには治癒の祝福はないと証明出来るのならば安いものだと考え直す。

 

  

 あとは国王とジョージがどう判断するのか、だ。

 

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― 新着の感想 ―
面倒臭いですね。全員魅了してしまえばいいのに。
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