67 くまのぬいぐるみとドラゴン
公爵夫人の思惑を意図せず華麗に退けたフローラはレオの部屋で美味しいお菓子を頂きつつ、自身の祝福についてリアム達に説明したことと同じ内容をレオにも話した。親友に隠し事をしてはいけないのだ。
フローラが話している間のララは諦め顔で佇んでいる。これ以上フローラ信奉者は作りたくはないが、どうせレオは元から信者だ。
「……思った以上にフローラの力がすごすぎて困惑している…。でもこれで殿下がフローラに執着する理由が分かったな。
殿下はフローラの力を恐れているから側に置いて監視したいし、あわよくば利用したいと考えているんだろう」
レオは困惑しているわりにしっかりとリアムを落とすことは怠らない。
フローラはレオのその言葉に胸がちくりと痛んだ気がして首を傾げるも、ティアに頼まれていた事があったのだと思い出す。
「昨日の夢の中でティア様に頼まれたけんど、レオ様にはイアフス様をこの世界に結びつけてほしいそうだべ」
「え、イアフス様を?」
フローラはティアから聞いた話として、イアフスがティアの世界に干渉するという禁忌を犯した罰として今は精神体となっていること、レオに守護を与えた理由を聞いたが曖昧な存在となってしまったため長時間の会話が出来ず分からなかったこと、自身の力を分け与えたレオならば精神体でしかないイアフスをこの世に呼べるはずだとティアが予測を立てたことなどをレオに伝えた。
「フローラがティア神と会話出来ることにも驚いてるところなんだけど……私がイアフス様をこの世界に結びつける?」
「んだ。ティア様は依り代が必要だって言ってたべ…
あ、これなんてちょうどいいんじゃないけ?」
フローラは棚に飾られていた、幼児並にでかいくまのぬいぐるみを指さす。
「え、これにイアフス様を憑依させるってこと?」
こんなファンシーなぬいぐるみを依り代にするなんて…と躊躇うも、かといって代わりになるようなものもない。
このくまのぬいぐるみは父がレオの十一歳の誕生日に、祝福の儀を境に人と接することを止めてしまったレオを心配して買ってきたくれたものだ。
不器用な父が口に出してそう言ったわけではないけれど、親に心配をかけてしまっていると申し訳なく思う気持ちと、こんな歳になってぬいぐるみを貰い気恥ずかしくも父の気遣いを嬉しく感じたことをよく覚えている。
だんだんこのくまのぬいぐるみがイアフス様をお迎えするに相応しい依り代に思えてきたレオは心を決めた。
「とうしたらいい?やり方を教えてほしい」
「んだ、ティア様の話ではレオ様の力を依り代に分け与えればいいらしいべ」
「分け与える…?」
フローラのざっくりとした説明に一瞬悩むも、自分の力は近くで話したり触れたりすると発動するのでもしかしたらと思い、そっとくまのぬいぐるみを抱き締めた。
身体のでかい男が大きなくまのぬいぐるみを両手で抱き締めるというシュールな光景に「ふっ」とララが鼻で笑い、レオは恥ずかしくなるも(イアフス様……)と心の中で呼び掛けつつぬいぐるみを抱える腕にギュッと力を込めると―――
「―――れお、くるしいよ」
「「「!!」」」
可愛いらしいくまのぬいぐるみから成人男性の惚れ惚れするような艶のある声が舌足らずな喋り方で聞こえるという怪奇現象が起き、ギョッとしたレオは思わずぬいぐるみを落としそうになった。
「もしかして、イアフス様、け?」
「うん、そうだよ。はじめまして、フローラ」
フローラの問い掛けにイアフスはくまの腕を上げて応える。
「しゃ、喋ったし、動いた……!?」
三人はレオの腕の中のぬいぐるみを見下ろすがこんな見た目でも中身はれっきとした神様だったと、フローラとララは慌てて膝をつき祈りの姿勢を取る。
「ふたりとも。かまわないよ。わたしはこの世界の神ではないのだから。
それよりもよんでもらえて助かったよ。レオに守護を与えたまではよかったけれど、すぐに肉体を滅ぼされてしまったから、誰にも現状を伝えることができずにこまっていたんだ」
くまのぬいぐるみがこてんと首をかしげて「ありがとう」とお辞儀する姿は悶絶するほど可愛いらしい。
レオが抱いている間はぬいぐるみに憑依し続けられるということだったので、三人はソファに座りイアフスから話を聞くことにした。
「イアフス様はなんで禁忌を犯してまでレオ様に守護を与えたんだべ?」
フローラは一番気になっていることを早速尋ねる。人生を狂わされたといっても過言ではないレオにとっても一番気になるところだろう。
「そうだね…。どこからはなそうかな。
わたしはね、神々がつくった世界を監視する仕事をになっていたんだけど」
「監視?」
「そう。神達が世界をつくる理由はさまざまだけれど、一番はやはり、かんぺきな世界をつくってこそ一人前、という慣習というか風習が天界にはあってね。
だからみんなこぞっておもいおもいの世界をつくるのだけれど、神個人の意思が反映されすぎた世界は、そこに生きる人間も含めた生き物たちにとって住めないほど過酷だったり、逆に快適すぎて自堕落な生き物をうんでしまったりと、あまりのぞましくない結果に終わることがおおい」
どうやらイアフスは神々が正常な世界を創れるように手助けしたりアドバイスしたりする役目を負っていたようで、その仕事柄、多少の干渉は許されていたらしい。
レオに守護を与えてたのはやり過ぎだったようだが。
「だからわたしのだいじな仕事のうちのひとつは、神の意思と世界の意思の調整役もになう神獣たちのこころのケアをすること」
「? 神獣、とはなんですか?」
聞き慣れない言葉にレオが疑問を口にする。
「神獣とは、神がつくりし世界をまもる使徒のことだよ」
神が世界を創ったとして、その神がずっと世界を見守り続けるわけではない。
神とは悠久の時を生きるからか飽き性な質の者が多く、非常にいい加減で世界を創ったら創りっぱなしという者も決して珍しくはない。
ティアも例に漏れず世界を創ったまではいいが常にほったらかし、気が向いたらちょっと観察する程度で
その頻度は数百年に一度という驚きの放置具合だった。フローラが生まれてからは舐めるように世界に齧りつき観察していたが。
しかし創ったばかりの世界は非常に不安定で、ちょっとしたことですぐに崩壊してしまう。
神々がお遊び感覚で世界を創った挙句崩壊させ、そこに生きるもの達を死なせることは御法度であり、だからこそ神に代わってずっと世界を見守り続ける者が必要となる―――その役目を担うのが神の使徒である神獣というわけだ。
ティアの世界の神獣は、なんと純白のドラゴンだという。
「ルルーシュ様は…ドラゴン…」
ドラゴンとは絵本や物語に出てくる空想上の生物で、鱗に覆われた爬虫類を思わせる体に鋭い爪と牙を具え、しばしば口や鼻から炎や毒の息を吐く。
大きな身体に見合った翼で大空を舞う姿は雄大で、生き物大好きフローラにしてみれば憧れの存在そのもののドラゴンが実在したなんて…と、キラキラと目を輝かせる。
だが、ティアの話ではフローラが愛し子になったせいでルルーシュが悲しむらしい。
「ルルーシュはね、ティアのことが大すきでティアの世界をまもるため何千年も一人で尽力してきたんだ。
ティアはそんなルルーシュを顧みることはなかったけれど、他の神々のように自分の世界に愛し子をつくらなかったからルルーシュは自分だけが頼りなんだとおもって、それをこころの拠り所にしてずっと頑張ってきた」
神が特別気に入った人間に加護を与えることが稀にある、それが愛し子だ。
特別な力を手に入れた愛し子はその力を世界のために使うことが多く、その結果が神獣の負担を減らすことに繋がっていたので、本来であれば神獣側としても神が愛し子を認定することは歓迎されるべきことなのだが。
今回ティアは過剰なほどの祝福の力をフローラに与えてしまった。
これはティアが世界を創ってから初めての事であり、何千年も一人で頑張ってきたルルーシュを裏切る行為と言ってもいいだろう。
ルルーシュは酷使されていてもそれを喜びとしてずっとティアに尽くしてきたというのに…。
イアフスは仕事の一環でルルーシュともよく会っているのでよく知っているのだが、その性格は責任感がとても強く、一途で思い込みが激しく気性も荒い。
イアフスはそんなルルーシュが、ティアが愛し子をつくったと知れば間違いなく荒れ狂うと予想した―――それすなわち世界の崩壊を意味する。
過去に世界を面白半分で崩壊させた神が、そいつは存在を抹消された。神獣の暴走とはいえ、創造主であるティアにもその責任は必ず及ぶ。
最悪の事態を避けるためイアフスはティアにルルーシュをもっと慮るよう伝えたが聞く耳を持たないし、
せめて過剰すぎる祝福をフローラに与えることはやめてほしいと言っても無駄だった。
だからイアフスは最後の手段として、ルルーシュに愛し子の存在を隠すことを決めたのだ。
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