↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/122

66 公爵夫人―――陥落


 学園が休みとなる週末、フローラとララは迎えに来てくれたアンダーソン家の馬車に乗り王都にあるレオのタウンハウスへと向かっていた。

 

 ティアの祝福の話だけならばまだしも、今回はレオの守護についての話もしなければならないので事情を知らないアリアはお留守だ。

 留守番を伝えるとアリアは最後まで駄々をこねていたが、ララに神経毒が塗られた吹き矢をスッと出されて大人しく引き下がるという経緯があった。






 学園から馬車に揺られること十五分…お城と見間違うほどの白亜の豪邸の前に一度止まるも、門が音もなく開くと馬車は玄関まで天然石が敷き詰められたアプローチをそのままカッポカッポと進む。


 え、まさかこれがお家…?広すぎね………?


 二人はポカンと口を開けて馬車の中から窓の外を恐々と眺める。


 王都のタウンハウスでこれほどの規模はきっと異常だ。それともフローラが知らないだけで高位貴族とはみんなこのような、隠れんぼをしたら三日は見つけてもらえなさそうな家に住んでいるのだろうか……小さいがれっきとした川が流れていてフローラはおもわず二度見してしまった。 


 長すぎるアプローチを経てやっと馬車が止まり、御者が扉を開けてくれたので手を借りつつ降りると笑顔のレオが待ち構えていた。



「フローラ!それにララも。よく来たね、週末も会えるなんて嬉しいよ」


「レオ様。本日はお招き頂き、ありがとうござい、ます」

 

 フローラはカーテシーをしてララはその後ろで深く頭を下げる。


 どこか他人行儀な理由は、レオの隣に立つ高貴な雰囲気を漂わせた夫人が扇で口元を隠し冷ややかな目でこちらを見ているからだ。

 二人の外見はよく似ているのでおそらく母親だろうとあたりをつける。 


 まったく気にはしていないがフローラは自身に流れる悪評はきちんと把握しているので、二人の男を手玉に取る悪女(?)が、自分の息子の友人としてわざわざ週末に遊びに来たとなれば内心穏やかではないだろうなぁと他人事のように思った。



「貴女がフローラ・ブラウンさんね。わたくしはシャーロット・アンダーソンです」 


「フローラ・ブラウンと申し、ます。お目にかかれて光栄に、ございます、公爵夫人」


 一応挨拶は済ませたものの夫人に笑顔は一切なく、冷え冷えとした空気が場を支配し沈黙が落ちる。



「はぁ。母さん、そうやってフローラを威嚇するのはやめてくれ。挨拶がしたいというから同席を許可したけれど違う意味合いがあるのならもう行くから」


 レオは母親にそう告げるとフローラの肩を抱き玄関をくぐろうとする。

 そんなレオの態度にシャーロットは内心ひどく驚いていた。




 シャーロットは自慢の息子に流れる悪意ある噂に心を痛めない日はなかった。

 祝福発表会に参加した日に騒がれたなんの根拠もない巫山戯た戯言に対し、出来うる限りの報復はしたつもりだったが、いまだ「呪われている」という不名誉な噂が落ちないシミのようにこびりついていることを思えばあの時の制裁はまだまだ生ぬるかったようだ。


 レオも噂を気にしてかあの日以降周りに人を寄せ付けなくなり、誰に対しても、親である私達に対してでさえも本当の意味で心を開くことなどなかったというのに。そんなあの子が親しげに話し、さらには肩に触れるなんて…。


 この際お相手の爵位や容姿は関係ないし、王太子殿下の婚約者だとしてもレオが本気で望むのならばいくらでも手立てはあるのだが、やはり婚約者のいる身でフラフラと違う男に目移りするような不誠実な女は息子には相応しくない。


 レオとフローラの親しげな様子を見てシャーロットの決意は一瞬ぐらつくも、だが、性根の腐った人間だけはだめだと思い直す。

 息子の目を早く覚まさなければ!と、シャーロットはフローラを追い返す気満々だった。

 



「あの…よろしければ、こちらをどうぞ」


 公爵夫人が自分を追い返そうとしていることなど知らないフローラは、ララから受け取ったまあまあでかい木箱をシャーロットにそっと差し出すものだから、レオはギョッとした視線を木箱に注ぐ。



「まぁ…。なにかしらね。頂くわ」


 シャーロットはなんの装飾もされていないみすぼらしい木箱を一瞥し、側に控える執事に受け取るよう目配せをする。


 田舎の男爵家の小娘の手土産など処理に困るだけなのだが?

 家格の違いも理解出来ない阿呆か、公爵家に喜んでもらえる手土産を用意出来ると自惚れた阿呆か、そのどちらかなのだろう。



 本当にレオったらどうしたのかしら…?とシャーロットが息子の女の見る目のなさを心の中で盛大に嘆いていると、執事が「こ、これは……!?」と声を荒げたので訝しく思い振り返る。


 扇で口元を隠しつつ執事の横から木箱の中を覗き込んだシャーロットは驚愕の声を上げた。


「えぇ!?フクチョウじゃない!!え、ま、まさか、この二羽は………番!!?」



 フクチョウとは大の大人が両手でやっとかかえられるほどの大きさの鳥で、畑を荒らしたり豚や鶏などの家畜を狩る獰猛でやっかいな存在なので、国によって害鳥指定されている種だ。


 獰猛すぎて自分達で狩ることも出来ず家畜はやられっぱなし…と、フクチョウは平民達には大層嫌われているが、その肉は頬が蕩けるほど美味な上、色鮮やかで美しい羽はドレスや小物の装飾に使われたりと貴族界隈には大変な人気となっている。


 フクチョウは警戒心が強くとてもすばしっこい、そしてその生態も詳しくは分かっておらず狩るのは至難の業であるがゆえ、いくら人気があろうとも力のある貴族ですら中々手することは出来ない。

 しかも番となったフクチョウ二羽など―――王家に献上せねばならぬほど貴重で、未だかつて目にした者がいるのかどうか分からないというほどの幻の品だ。



 一説では番となったフクチョウの羽は変化する、と言われている。


 オスの羽は緑・青・藍 ・紫色に、メスの羽は赤・橙・黃色に変化し、仲睦まじく隣り合う二羽の姿は虹色になるのではとまことしやかに囁かれていた。


 今まで番を見つけたフクチョウの目撃情報はチラホラあったが、オスだけだったりメスだけだったりと二羽揃ったところを見た者はおらず、番同士の羽は幻のティアカラーと呼ばれているのだ。



 その、幻のティアカラーが目の前に………??



 シャーロットはおそらく生まれて初めて頭が真っ白になる、という経験をした。



「今朝、狩ってきま、した。血抜きをした後、すぐに冷やしたので、新鮮です」

「ももももしかして貴女が狩ったの!?」


 扇をかなぐり捨てたシャーロットは我を忘れてフローラに詰め寄り、レオはそんな母親の肩を掴んでなんとか押し留めようとする。



「?はい。鳥を狩る予定ではなかった、ので、弓矢は持っていなかった、のですが、ちょうど獲物を狩ろうとしている、フクチョウを見つけたので、背後に周って、ジャガーで首を、裂きました。おかげで胴体は綺麗な状態、かと」

「ジャガーナイフでぇ!?獲物を狩ろうとしてるフクチョウなんて一番警戒心が強いじゃない!!ナイフが届く距離まで背後に近づくことなんて可能なの!? え、そもそも王都にフクチョウっている!?」 


「はい。わりと、ごろごろ」

「ご、ごろごろ!!?」


 シャーロットはどこに驚けばいいのか分からず、はぁはぁと酸欠状態に陥った。


「母さん、気持ちは分かるけど少し落ち着いて…」

「これが落ち着いていられますか!!フクチョウを王都で狩ることが出来るだなんて!!!狩人の血が騒ぐわ!!」


「貴女は公爵夫人であって狩人ではないのですよ…」



 普段の厳格で品行方正なシャーロットの姿を知る人が見れば、貴女誰ですか?と言わざるを得ないほど取り乱した母親の姿にレオはうんざり顔だ。



 シャーロットは王女を祖母に持つ由緒正しき家柄に生まれた深窓のご令嬢……のはずなのだが、深窓とはほど遠いごりごりの武闘派令嬢だった。

 武術は一通り嗜んでいるし、弓を使った狩りはシャーロットの一番得意とするところで大物を仕留めたことも何度だってある。

 だが、フクチョウだけはどうしても狩れなかったのだ。フクチョウを狩ることはすべての狩人の憧れと言っても過言ではないだろう。


 シャーロットはなんとしてもレオと別れさせてみせると意気込んでいたことなどすっかり忘れ、尊敬と憧れに塗れたキラキラとした眼差しをフローラへと向けた。

 そんなシャーロットを見たフローラは「ちゃんと心得ている」とばかりに笑顔で一度頷く。


 夫人のあの目はフクチョウを仕留めた時に興奮しながら手を叩いていてこちらを見ていたララとアリアの目とまったく同じだったので、フローラは二人に言ったことと同じセリフを夫人に伝えることにした。


「今度、一緒に狩りに、行きましょう。ただし、命の保証が出来なくなる、ので、立場やプライドは捨て、狩場では、わたくしの指示に、必ず従うことが、絶対条件となり、ます」


 フローラがフクチョウを仕留めたのは公爵夫人を絶対に連れて行ってはにいけないかなり危険な場所だったので、狩場で許可なく勝手なことをしてはいけないとはっきり伝える。



「分かったわ!絶対に指示に従う!!いつ行くの?明日?明後日!??」 


「母さん……。頼むから父さんに相談してから行って…」 


 ここはまだ玄関なんだが?とレオは頭を抱える。

 難攻不落の母を一瞬で堕としたフローラの手腕には本当に驚かされるばかりだ。


 それにしても……いいって言ったのに……本当に手土産として獣を、しかも幻の鳥を狩ってくるなんて……と、堪えきれなくなったレオはついに吹き出す。


「くっ、はは、あはは!フローラって本当にすごいよね、ありがとう!」


「! どういたし、まして」


 レオの爆笑は珍しい。楽しそうでなにより、とフローラは満足げに頷く。


 シャーロットは笑い合う二人を見て自身の考えを改めた。



 フローラはどう見てもこちら側(脳筋)だわ、あちらこちらにいい顔を出来るタイプの人間ではなさそうね。

 そして彼女に流れる悪女の噂に関しても、レオならばすぐに消すことが出来るというのに動きがないということは何かしらの思惑があり裏で手を引いている可能性が高い。


 公爵夫人である自分にもはっきりと意見を述べて命が惜しければ指示に従えと命令する潔さは、物事の優先順位を知っている聡明な者の証。


 気に入ったわ…。どんな手を使っても殿下から奪い取りましょう。



 レオとシャーロットの思考はまったく同じであり、間違いなく同じ血が流れる親子なのだと思わせる。



「フローラちゃん」


「? はい、公爵夫人」


「いやだわ、シャーロットと呼んで。学園があるものね、貴女の都合に合わせるから狩りの日程が決まったら連絡してちょうだい。それにいつでも遊びに来ていいから。

 ふふ、それじゃあ邪魔者は去るわね。ごゆっくり」


 最初に会った時には考えられないほどにこやかにシャーロットは立ち去って行った。



「シャーロット様って気さくな人だべな〜」


「その感想が出るあたり、フローラって本当にただ者じゃないよね」


 レオが呆れた声で返事をし、ハラハラと様子を窺っていたララはうんうんと同意した。

お読み頂きありがとうございます!! どのような評価でも構いませんので広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、 ポイントを入れてくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。