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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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61 蛇に睨まれた蛙


 前日も夜更かししてしまったがこれ以上授業を休むわけにはいかない、とフローラは眠い目を擦りつつなんとか起床し登校した。



「二股悪女」の噂が流れてからはフローラにすり寄ってきていた下級貴族の女子達も潮が引くように素早く去って行ったので静かなものだ。

 だが、いつもと同じ朝…かと思いきや変わったところもある。



 今日からアリアもララと共に学園に付き従っているのだ。

 侍女がまた一人増えたぞという批判的な視線が突き刺さる中、アリアは騒がしい一角へと艶めかしい視線をツ…と送る。


 役に徹しきったアリアの妖艶さは尋常じゃない。

 その破壊的なまでの色気は、幼少からの貴族教育の賜物で十五歳とはいえ大人びた子息達を真っ赤にし狼狽えさせるほど。



「…アリア、やり過ぎよ。色気に当てられて興奮した相手がおっさんだったなんて知ったらあいつら気絶するんじゃない?」 


「ララ先輩ひどぉいっ、私はまだピチピチの二十一歳ですよぉ!鬱陶しい視線を寄越して来る奴らから主をお守りするのが私の仕事なんですからこれでいいんですぅっ。

 それにフローラ様は特別な御方……その御身をお守りするのにやり過ぎなんてことはありませんわぁ」

  

 アリアはうっとりとした視線をフローラへと向ける。





 今朝、フローラが創造の力でララの部屋にもう一つシングルベッドを創るとアリアは腰を抜かして驚いた。


 人間離れした力を持つ虹色の瞳の乙女など女神以外にあり得ないと思ったのだがフローラに人間だと否定されたので一度は納得したものの、今朝何もないところからベッドが現れるのを目撃したアリアは「主はやはり女神だった…!」と認識を再度改め祈りを捧げる。



「こら、祈るのやめれ。これは祝福の力だ、なんか足りないものがあれば言ってけれ」


 ペットは大切な家族の一員なのでフローラはアリアにも自身の祝福を隠さない。家族の前で気を抜けないなんてしんどいではないか。

 なので自身の祝福についてリアム達に説明したことと同じ内容を、アリアにも簡単に教えてあげた。



「我が主がこれほどに特別な御方だったとは……!!

 分かりました…人間は仮初めのお姿、誰にもその正体を見破られるわけにはいかないのですね…。

 このアリアにお任せ下さいっ!フローラ様がいつか天界にお帰りになるその日まで必ずその秘密を誰にも悟られることなく御身を守ってみせますわぁ!!」


「だからわたすは人間だべ。勝手に天界にやらないでほしいだ…」



 という朝の一幕を経て、アリアは立派なフローラ信奉者となった。




 そしてもう一つ変わったところと言えば―――



 高位貴族の女子達が集まる華やかな一角、その中心にいるアマンダとフローラの目がバチリと合った。


「…っ!」 


 ヒュッと息を呑みアマンダの顔が引き攣る。



 アマンダはどうやらお父様にアレクの死を報告して無事魅了状態が解けたようだ。

「屋敷で見聞きしたことを忘れる」という暗示内容だったのでフローラのあれやこれやは記憶していないはずだが、アマンダの様子にはどこか怯えが滲む。


 フローラを痛めつけてやろうと影を差し向け自身も屋敷に赴いたところまでは覚えているのだが、次に記憶しているのは父に「お前はなにを勝手なことしているんだ!!」と叱咤されている場面だった。


 ちなみに公爵の執務室から笛を盗み出したアマンダの侍女は鞭打ちの刑の後、碌な治療も受けさせてもらえぬまま公爵家から放逐されている。



 記憶がなくなっているだけでも怖いのにフローラが何事もなかったかのように登校して来たのを見れば、幽霊にでも遭遇したのかという顔にもなるだろう。

 もしくは記憶はなくともフローラの恐ろしさを潜在的に植え付けられてしまったのか…。


 どちらにしてもフローラには関係のないことだ。


 些細なことに興味のないフローラはすぐにアマンダから視線を外した。








***


「フローラ」


「レオ様!」


「心配してたんだよ、大丈夫?何かあった?」


 どこからどう見ても健康優良児であるフローラが二日も学園を休んだことを心配したレオが教室まで会いに来てくれた。



「わたすは大丈夫だ。大したことじゃなかったけんどちょっと色々あったでな」


 フローラにかかれば誘拐も、祝福を巡る攻防も、王との初対面ですら「大したことない」の一言で片付く。

 ちょうどお昼の時間だったのでそのままレオとランチを一緒に食べることにしてフローラ達は教室を出た。





 広大な学園の敷地内には立派な公園がある。


 百種類以上の植物が植えられ四季折々の花々が咲き乱れる花の庭園はいつ訪れても見応えがあり、さすが王都一伝統あるイルドランの一言に尽きる。 


 東屋がいくつも設置されているので人けの少ない場所を四人で陣取った。

 今日は毎日持参しているお弁当だけでなく、食堂のランチメニューをバスケットに詰めて持ってきているのでかなり豪華な内容となっている。


 テーブルに料理を並べると四人は椅子に座り、いただきますをしてから各々好きな物を皿に取り始めた。

 まずの話題は急に増えた侍女、アリアについて。



「一人、増えてるね」


「んだ」


「アンダーソン公爵子息様はじめまして、私はアリアと申します〜お会いできて光栄ですわっ。

 フローラ様に命を救って頂いたご縁で侍女としてお側に侍ることになりましたのぉ。以後お見知り置きを」


「……」


 温厚なレオにしては珍しいことに、挨拶に返事もせずアリアの顔を無表情にじっと見つめている。



「……フローラ、アリアは男だよね?それに普通の職種の人間じゃないはずだ。()()はどこで拾ってきたの?護衛が欲しいならうちにはもっと優秀な女性の影もいるよ」


「は、はぁぁ!?」

 

 「そういうところが駄目なのよ。アリアに徹しろって言ったでしょ」


 レオの聞き捨てならない言葉にアリアは一瞬で素に戻ってしまい、そんなアリアを見るララの目も冷たい。

 まさかこんなにもすぐ変装を見破られるとは思っておらず、アリアはつい狼狽えてしまったのだ。



「え〜〜ん、お二人に苛められましたぁ、フローラ様ぁ〜〜〜」


 アリアは内心の動揺を隠すようにおどけた調子でフローラに泣きつく。

 


「アリアは気配を消し過ぎだから呼吸法を変えた方がいいだ、それに足音はちゃんと立てた方がいいべ。

 あと初対面の人に無意識に殺気を向けるのはやめれ。ちょっと人見知りが過ぎるど?

 身体の動きに無駄がなさ過ぎるのも不自然でどうかと思うし、火傷跡があったから自分では変装・潜入をしてこなかったみてぇだけんど今後はそういうところが課題だべなぁ」


「……はい。すみません」


 ガチの指摘を受けたアリアは本気でヘコみ項垂れる。



「レオ様もありがとう、アリアはわたすのペッ……家族の一員として迎えた子だからこれからちゃんと教育していくだ」


「ペッ…?なんか不穏な感じがするんだけど……。何か困ったことがあれば言ってね?」


「んだ!」


「それとアリア。フローラに何かしたら…………分かってるね?君がどこに所属してたのかは知らないけれどアンダーソンの手の者に勝てると思わないことだ」



 フローラの手前、明言は避けたがレオの目は完全に「フローラに何かしたら殺す」と言っている。



 アリアはアンダーソンと同様の公爵家に仕えていたが、その格は天と地ほどの差がある。

 王家の血筋を脈々と受け継ぎ国の中枢に食い込む役職を代々務めるアンダーソンと、二代前の当主の功績で侯爵から公爵へと格上げされた歴史の浅いウィルソンとでは影のレベル一つ取ってみても比べるまでもない。 それに目の前に座る男、レオにしたってとてつもなく強いことは経験上すぐに分かった。


 長身のがっしりとした身体には必要な筋肉が必要なだけついており、やや小柄なアリアでは純粋な力勝負でまず負けるし、それでなくともアリアの正体を見破る洞察力や剣を握り続けたと思われる分厚い掌を見ればその戦闘力の高さはうかがい知れるというもの。



「……もちろんですアンダーソン様!私がフローラ様に何かするなどあり得ませんっ、むしろこの身を盾にしてお守り致しますわぁ!」


 長いものには巻かれろ、付和雷同、敵前逃亡上等の精神でこれまでを生き抜いてきたアリアの返事は実に潔かった。



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