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女神の寵愛を受けた男爵令嬢と受難の日々  作者: ひなゆき


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60/122

60 侍女達の会話


 国王との緊張する(?)晩餐を終え、リアムにも「お前は案外やればちゃんと出来るんだな…」というお褒めの言葉をもらったフローラは夜遅く寮に帰ってきていた。


 普段の就寝時間はとっくに過ぎていたが王宮にもう一泊するのも面倒だったし、ララも「用が済んだならとっとと帰りましょう!一秒でも早く!!」とフローラに訴えてきたし、それにアレクのことも気になっていた。

 森でアレクと別れてしまったがどうしていたのか…。王宮で気配はしなかったので一人で先に寮の部屋に帰ってくれていればいいのだが。






「っはぁ〜〜〜〜!なんか疲れただぁ〜〜!!」


 二日以上ぶりの寮の自室に入るなりフローラはベッドにダイブした。



「フローラ様、おねむなのは分かりますがお着替えは致しましょう?」 


 そんなフローラに優しく声をかけるララは侍女というよりもはやデロ甘な母親だ。



「フローラ様おかえりなさいませぇ」

「っ、誰だ!!」


 突如聞こえた女の声に驚いたララはバッと振り向く。

 その手にはいつの間にか峨嵋刺が装着されていて、フローラは声の主の存在に気づいていたので驚きはしなかったが、それよりもララの暗器の物騒さに目を丸くした。



「アリアでーす」


 そこには学園の侍女の制服を身に纏った一人の妖艶な銀髪ボブヘアの美女が―――。


 キレ長で涼しげな灰色の瞳が冷たそうな印象を与えるが、ぽってりした唇は常に弧を描き愛らしさを演出している。



「アレク!!おめぇ化けたなぁ〜!」


「ふふっ、私はこれでも影の頭目を務めておりましたのでこの程度の変装技術は持ち得ていますわ。まぁ、以前の私の顔では難しかったのでもっぱら誰かを変装させる専門でしたけど〜」


 なんと森で別れたアレクが侍女に化けてフローラの部屋に待機していた。

 女性にしては長身であるが文句無しに可愛いだけでなく声や喋り方まで可憐なうえ、胸がでかい。

 一体どうやってるんだべ?とフローラは自身のぺったんこの胸と二回見比べる。

 とにかく目の前にいる侍女が男であるなんて誰も思わない出来栄えだった。



「…フローラ様に火傷の跡を癒して頂いたおかげで誰も本来の私の顔を知りません。例え公爵から追ってがかかったとしても見つかることはないでしょう。

 ………私は…俺は、アレクとして、新しい人生を歩むことが出来ます…っ。このご恩は一生忘れません。


 ………とりあえずフローラ様が学園を卒業するまではアリアとしてお側に侍り真心を込めてお世話させて頂きますわぁ〜」



 「アリア」の中に本心が見え隠れするアレクの言葉にフローラは不満顔だ。


「え〜、わたすがお世話したくて連れて帰ってきたのになんか思ってたのと違うだぁ〜」


「細かいことはお気になさらずっ。ささ、湯あみを致しましょう!わたくしが頭のてっぺんから足の爪先まで綺麗に磨いて差し上げ…おわぁ!!あっぶ……!!」



 フローラに不埒な手を伸ばそうとしたアレクにララの峨嵋刺が炸裂した。すんでのところでフローラから離れ鋭い刃を避ける。


「調子に乗るな駄犬が!!次にいやらしい視線をフローラ様に向けたら目玉を潰すからな!!

 犬は犬らしくそこらへん一生走り回ってろ!!!」


「え〜〜ひっどぉい、そんなつもりなかったのにぃ」


「二人とも喧嘩しちゃだめだど。それに湯あみは王宮で済ませたから今日はいらね。アレク…アリアはララと同じ部屋に住めばいいだ。もう寝るだ、おやすみ。 くーくー…」



 二日連続日付けをまわる夜更かしに睡魔の限界を迎えていたフローラは、言いたいことだけ言うと学園の制服姿のまま秒で寝てしまう。

 ちなみに血まみれとなって死んだフローラの制服はリアムが新調してくれた。太っ腹なことだ。



「あっフローラ様ぁ〜お着替え…」


「えっ、もう寝たの?早くね?」



 素の声を出すアリアをララはギロリと睨見つける。


「侍女としてフローラ様のお側にいると決めたならばきちんとアリアを全うしなさい。男を出さない!!

 まったく…こんな中途半端な人間、何の役に立つというのかしら?いざという時の肉壁?鍛錬用のサンドバッグ?新薬の実験体?」


「ひどいですぅ〜!私だってフローラ様のお役に立ってみせますからっ。

 昨日だって一応王宮まではついて行ったんですよ!

 さすがに王宮の影達を一人で相手取るのは骨が折れるのですぐに引き返しましたけどぉ〜」 


「はぁ!?王宮まで来ていたのならフローラ様を奪還しなさいよ!!あんたのせいでフローラ様の秘密がクソ王子にバレたと言って過言じゃないわ!」


 ララは自分が騎士団に連行されたことをまるっと棚に上げアリアを責め立てる。


 筋肉だるまの騎士団長に服の中に仕込んだ暗器に気づかれてしまい話を聞かせてほしいと騎士団本部に連れて行かれたが、幸い(?)所持していた暗器が痺れ薬と睡眠薬を仕込んだ吹矢だけだった事と、途中でこっそり入手した水を混ぜて薬の効果を薄ませたので「護身用です!」と言い張りなんとか信じてもらえたという経緯があった。

 


「あっ、でもでもぉ私ちゃんと仕事しましたよ!」


 アリアは口元に妖艶な笑みを浮かべ得意げに話す。


「フローラ様が王宮から帰ってくる少し前に、王宮の影が一人部屋に張り付いたので追い返しておきましたぁ〜。一度見たことがあるので王宮の手の者で間違いないですっ」


「なんですって…!?あんのクソ王子っ…、口ではフローラ様の礎になると豪語しておきながらどういうつもりなの…!」


 クソ王子はフローラ様の平穏に暮らしたいという願いを叶えると約束したはず。

 だから祝福について詳細を教えたというのに…まさか約束を反故にし王家で囲おうとでも言うつもりか…!と話が違うとララは憤る。


 そして明日フローラ様が起きたらすぐに報告してクソ王子にクレームを入れてもらわなければと心のメモ帳にしっかりと書き付けた。




「というかぁ、枕元でこれだけ騒いでも起きないって…フローラ様大丈夫なんです?なんか無防備すぎないですかぁ?」


 アリアは起きる気配を一切見せずにスヤスヤと眠る主の顔を見下ろす。



「フローラ様は基本的に一度眠ると起きないわ。ただし異変を察知した時は別よ。

 私が気付いた時にはすでに全部終わっているだけではなく後処理をした後にまたぐっすり眠っていらっしゃるほどだもの。

 まぁ、賊の力量を測って私達で処理出来ると判断なされば獲物は回して下さるけどね。全部フローラ様にお任せっきりでは私達の腕が鈍ってしまうし」


「え〜……それって気付いた時には全部終わってる通り越して最初から何もなかった状態ってことぉ?ってか、フローラ様のお側ってそんなに何かあるんですかぁ?」


「領地では日常茶飯事よ。それが嫌なら今すぐ消えなさい」


「まさか!私を生かしたのはフローラ様ですもの、優良な飼い主たるもの拾った生き物は最後まできちんと面倒を見て頂かないと、ね?」


「ちっ」


 あわよくばアリアを放逐したいララの思惑は外れた。

 一度でもフローラの魅力に触れた者が簡単に彼女の側を離れられるわけはないのだ。

 誰よりもそれを理解しているララはリ(・)ア(・)ム(・)という新たなフローラ信奉者予備軍の存在にため息をつく。




「ララ先輩〜、フローラ様も眠ってしまいましたし私達も寝ましょう?こっちの部屋ですよね、失礼しまぁす」


「はぁ?あんた男でしょ。どっかそこらへんで寝なさいよ」


「え〜!今はアリアですよぅ、先輩だってアリアに徹しろって言ったじゃないですかぁ。

 さすがに着替えの時とかは席を外しますけどぉ、同じ部屋で寝泊まりしたからと言って男には戻りませんからご安心をっ!

 それにフローラ様の隣のこの部屋にいた方が異変にすぐ気づけますし?私、荒事に関してはララ先輩よりも経験値高いですよ〜」 


 大き胸を張り、「ふふんっ」とでも言いたげなアリアのドヤ顔にララのイライラはピークに達する。



 戦闘に関する力不足はララが常に感じていることだ。八歳からフローラの側に侍り身体能力を高めるべく努力してきたが、いかんせんフローラが強すぎてその足元にも遠く遠く及ばない。


 影として様々な任務をこなしてきたアリアにも当然敵わないだろう…悔しいがフローラの安全のためにもアリアとの同室を認めることにした。


「いやらしいことしたらもぐから!!」


「物騒ですね!?」



 こうして侍女が一人増えさらににぎやかとなった夜は更けていく。

 

峨嵋刺(がびし)…護身具として優秀な単兵器。三十センチほどの鉄の棒の先端を尖らせ真ん中に指を通すための穴がつけられてるよ!敵の刃を受けたり、急所を突いたり、手裏剣のように投げることも出来る優れもの。

ララの暗器のほとんどはフローラの愛がこもった渾身の創作物☆

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