38日目 マノンちゃん
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夏休みもとっくに終わっており、何時もなら娘は学校に行っているような時間なのだが、今週はずる休み。夫がやっと長日休暇を取ることが出来たので、私と夫と娘の3人で海外へ旅行に来ていた。娘は、学校を休んだことに負い目を感じる事なく、むしろ皆で旅行に行けたことを純粋に喜んでいた。
フランスに来て1.2日は、パリにあるホテルで泊まって町中を散歩した。花の街と呼ばれる事あって、お花屋さんは沢山あるし華やかで綺麗な町並みを堪能したのでした。
3日目フランスに住んでいる友達の家でお世話になった。2年ぶりの再会になったので、子供の話等で盛り上がっていた。昼間からワインを楽しむ大人達を横目に、娘と友達の子供たちは庭で遊んでた。
本日4日目、最終日であるその日は、空港に向かう時間になるまで、お土産を買うことにしたのでした。
「あ…かわいい!」
娘のその言葉に、私は振り返った。見ると、そこには可愛いとは思えないが、綺麗なフリルを沢山つけた女の子の人形が置いてあった。
「その人形が欲しいの?」
「うん!お母さん、買って!」
「〇〇は、こう言うのが好きなんだ〜。お父さん、これだって」
「ん?それか?」
フランス語を喋れる夫に頼んで、値段を聞いてもらった。しかし、その人形は売り物じゃないらしく、売れないと言われたそうだ。
それを聞いた娘は、私の服の袖を強く引っ張り、大粒の涙を流し大声を出して駄々をこね始めた。
「嫌だァ!!この娘がいいの!欲しいの!!」
もう少し小さい頃からも、聞き分けのいい子だったのに、今回はよっぽど気に入ったのか、まるで赤ん坊のように泣きじゃくり始めた。
他の客に迷惑だろうと止めたが、結局店主から許可を得て何とか、譲って貰えることになった。店主が言うには、売り物じゃないからお金は受け取れないらしい。
気に入った人形を手に入れた途端、娘は泣きやみ素敵な笑顔を見せたのでした。
「この子ね、マノンちゃんって言うんだって~。」
飛行機に乗った時には既に、人形の名前を決めたらしく、嬉しそうに私に名前を教えてくれた。
それから娘は、まるで妹のように大事に人形を扱った。流石にお風呂には入れなかったが、寝る時も一緒の布団に。家でご飯を食べる時は、小さい頃使っていた椅子にお行儀よく座らせて、小皿に自分の食べ物を少し分けてあげたり。
大事にしているのは良いが、人形にやる事じゃないので何度も注意したが、娘はいつも注意を聞き流す。怒った私は、娘に反省してもらうために、人形を取り上げて娘が届かない場所に隠した。しかし、娘は何故か直ぐに見つけ出して、人形を大切に大切に抱きしめた。
最終手段。娘が学校に行っている間に、大人げないとは思うが私は鍵をかけられるタンスの中に人形をしまった。
「ただいま~。」
「おかえりなさ……」
しかし、帰って来た娘が抱きしめていたものを見て、私は絶句することとなった。
「マノンちゃんがね~。お迎えに来てくれたの。」
私は、鍋に火をかけたまま、急いでタンスの方へ向かった。タンスの戸を動かして見る。
「鍵……掛かってる……。」
「お母さん。」
いつの間にか後ろにいた娘に驚いて、私はタンスの角に足をぶつけて、痛くてしゃがみ込む。そんな私を、娘は真顔で見下ろす。そして
「お母さんマノンちゃんを虐めちゃダメだよ?マノンちゃん暗いところ嫌いなんだって。今度やったら許さないって言ってたよ。」
そう言って、ほほ笑んだ。私は悪寒を感じて、娘が手に持っている人形に視線を下す。人形は買った時と変わらず、ほほ笑んでいる。
正直言ってあそこまでしたのは、娘があそこまで意固地になったことが不気味に感じたからだ。今回人形を閉じ込めたのに出てきたので私はやっと、この人形が普通の人形じゃないって気が付いた。
店主はあれは売り物とは言ってなかったし、あの人形を譲り受けたようなものだった。今さらになって私は、あの人形は普通の人形じゃなかったんじゃなかったんだと、初めて気が付いたのだ。
やばい……これはヤバい。そう思った私は、夫と相談した。すると、夫も娘の変わりように動揺していたようで、すぐに話を分かってくれた。で、相談結果、夫の知り合いに人形を譲った。
すると娘はその日の晩から、うなされながら熱を出して寝込んでしまったが、2日たつと何事もなかったかのように元気になった。
あとから人形の事を聞いたが、娘は何の事だか思い出せないようだった。それからは特に変な事は無く、今日も元気に学校に通っている。
人に譲り渡したことにより、人形は帰って来る事は無かったのだが、インターネットでフランス人形って普通はいくらするんだろうと気になって検索していた時、見つけたのだが、どうやらヤ○オクと言うネット通販で売りだされていた。
一円と言う値を付けられていたせいか分からないが、次見た時には売り切れていたのでした。
フィクションです。




