15日目 貴方の御陰で今の私がいる。
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私は、人を殺してしまったのです。
入院していた藤咲さん。
60歳前半のおばあちゃん。新人の私に対しても、見下したりせず優しく接してくれた藤咲さん。
私がインスリンを間違って注射してしまったらしく、彼女は死んでしまった。
確かに指示された別の薬品を注射した記憶があるのだが、彼女が死んでしまった原因がそれ以外思い浮かばなかったので、訴える事は出来なかった。
退職処分をうけ、アパートでうなだれてる時、無音だった私の部屋に着信音が流れ始めた。
……が、無視した。
もう、私は生きてる価値ないとの思いで。
(そうだ、どうせ死ぬなら綺麗に死にたい。)ふと、そう思った。
学生の時は、勉強で手一杯だったので、彼氏を作ることや、友達と遊びに行くのも、お洒落する時間すら惜しんで来た。
だから最後くらいは……そう思って、私は立ち上がった。
就職祝いと称して、母がくれた可愛い服…
1度も着ることのなかった服を棚の奥から出して着て、化粧して、髪型を整えた。
普段使う事のない身長と同じくらいの大きさがある姿見から見た自分は、いままで見た事のない程綺麗だった。まるで別人の様な自分の姿に言葉を失っていた。
そしてそれから何分経ったとき、自殺する道具が無いことに気が付き、そのままの格好で近くのドラッグストアに行き、調達する事にした。
いろんな人の視線を感じ、少々気恥ずかしく感じながら、でも最後だからとしっかりと胸を張って買い物を済ませてきた。
家に帰り、もう1度鏡のまえに立つと、背後に藤咲さんが見えたので、思わず涙が溢れ出してきた。
「藤咲さん……殺してしまってごめんなさい。貴方の人生を終わらしてしまってごめんなさい。」
鏡に映る藤咲さんは睨みつけるように目を細めながら、首を横に振った。
「そうですよね……許してもらえるとは思っていません。死んでお詫びします……藤咲さんが楽になると……いいなぁ。」
そう言いながら袋の中身を漁り、ビンのフタを開けようとするが、中々あかない。
鏡の方を見ると、藤咲さんが私を睨みつけていた。
「死ぬなってこと?」
藤咲さんの表情に疑問に感じて、手を止めていると同時にまた着信音が響き渡る。
「……はい、もしもし…。」
電話に出て内容に驚いた。
藤咲さんの死に疑問を持った親族が、藤咲さんの死体を別の病院に調べさせた結果、死因がインスリンによる低血糖が原因じゃなくて、病院側が繰り返し同じ針を使ってたせいで、細菌が入り、死に至ったという。
つまり死因は感染症だった。
それが分かったあと顔を上げると、藤咲さんは死ぬ前日と同じ優しげに微笑んでから消えてしまいました。
それからもう1年がたって現在私は、ドラッグストアで大量に薬を買っていた時に話しかけてきた男性とお付き合いして、幸せな日々を過ごしています。
止めてくれた藤咲さんの御陰で、今の私がいると思い、感謝をしながら。
フィクションです。




