プロローグ
「こらっ!聞いてるんですか!」
澄んだ鈴の音色のように凛とした声が響き渡る。
今ではすっかり聞き慣れたその声。
頭上からかけられたその声の方を向くと、予想した通りの相手がいた。
亜麻色の髪を黒色のゴムひもで結びポニーテールにしている。
少し視線を降ろせばぱっちりした目に、すっと通った鼻梁、ふっくらとした唇がある。
だが、さらに目線を下げていくと13歳という年齢を考慮しても少し、いやけっこう慎ましい胸の美少女、天戸 日那がいた。
「あぁ、悪いな。全く聞いてなかった」
そんな美少女に怒られてるのは、呑土 交《てんと こう》。
15歳という年齢の割には小柄な体格に中性的な顔立ち、それに少し長めにしてある髪のせいか、やけに女性に間違えられることが多い。
そんな見た目は普通の男子だった。
「もうっ!怒られてる時くらいはしっかり話を聞いてください」
「いや、そんなことを言われてもだな。正直言うと何がまずかったのか、分からないんだが」
「そうでしょうね、分かってやってたら先輩はとんでもない変態ですよ」
「?・・・・というかだな、その先輩ってのやめてくれないか?正直違和感しかなくて嫌なんだけど」
「いえ、私は13歳で先輩は15歳、年上を敬うのは当然のことですから」
そう、この美少女天戸 日那《あまと ひな》は交より年下なのだ。
若干13歳でありながらその能力の高さで中学を飛び級して高校へときている。
そして首席合格を成し遂げた完璧超人である。
今彼らが居るのは極東退魔学園愛知支部、通称極魔学園の敷地にある天照寮、須佐之男寮、月読寮の3つある寮のうちの月読寮にある交の部屋である。
「はぁ。あのなあ、俺より大きいししっかりしてるし勉強もできるのにかそれ言うのか?それはもう嫌みになってるぞ」
「うっ、そ、それはそうかもしれませんが......」
(いやー、そこは普通フォローするとこだろ。事実だけど)
実際交は身長162cm程しかなく、逆に日那は165cmはあり、交はそもそも高校まで学校自体行かずに独学で勉強していたのでそちらも比べるまでもなく、さらに交は問題児で日那は生徒会の書記だ。
そんな二人には普通ならば関係などできるはずがないのだ。
それに、今さらだがこの二人は現在同じ部屋にいる。
たとえ肩書きや成績やらなんやらを全て無くしたとしても違和感があった。
なぜか。その答えは明白だ。
かたや年頃の女子、かたや年頃の男子。
ようするに、常識的に考えてもっとも避けるべき一つの部屋に年頃の男女二人だけ、という状況だからだ。だかこの二人にはそのことを気にしている素振りは欠片もなかった。
「まあその件はあまりよくはないが良いとして、なぜ天戸がここにいる?」
「えっ?先輩に説教するためですよ?」
「違うわ!いや違わないけど!そこじゃないんだよ、言いたいことは!なぜ首を傾げる!.....天戸が以前いっていただろ、こんな密室に男と二人きりはダメなんじゃなかったのか?」
「へ?あっ!」
「どした?」
「ご、ごめんなさーい!」
気にしている素振りを見せなかったのではなく気づいていないだけだった。
まあ交は気づいていたが。そして顔を朱色に染めて走り去っていった日那。
交は、その後ろ姿を廊下の先の曲がり角に消えるまで見届けると、この学園に来るきっかけとなった、家族会議を思い出していた。




