エピローグ︰もう落ちなくていい世界で
戦いが終わってから、しばらく経った。
王都はすっかり元通り……とはいかないが、
まあ、俺が壊した分はだいたい直ったらしい。
「“だいたい”って何だよ」
「お前が言うな」
リーナが呆れた顔で言う。
最近の俺はというと――
「平和だな」
城の屋上で、ぼんやり空を見ていた。
青い。
あの日と同じ空。
でも、もう違う。
落ちて死ぬこともなければ、
意味もなく空に放り出されることもない。
普通に歩いて、
普通に飯を食って、
普通に生きている。
「……普通って何だっけ」
「それを今考えるな」
リーナが隣に立つ。
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「なあ」
俺は空を見たまま言う。
「もう、落ちなくていいんだよな」
「当たり前だろ」
即答だった。
「これ以上落ちたら今度こそ国が消える」
「そこまでか?」
「そこまでだ」
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少しの沈黙。
風が吹く。
心地いい。
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「……でもさ」
ぽつりと呟く。
「ちょっと寂しくない?」
「は?」
「いや、ほら」
指で空を指す。
「あの高さ」
「あの理不尽」
「あのどうしようもなさ」
リーナが真顔になる。
「お前、頭大丈夫か?」
「いや、わかるだろ」
「わからん」
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苦笑する。
まあ、普通はそうだ。
でも――
「100回もやるとさ」
「ちょっとクセになるんだよ」
「最悪だなお前」
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その時だった。
空が、ほんの少しだけ歪んだ。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
「……今の」
リーナも気づいた。
「見たか?」
「ああ」
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静寂。
何も起きない。
ただの空に戻る。
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俺は少しだけ笑った。
「……まあいいか」
「何がだ」
「もしまた落ちてもさ」
肩をすくめる。
「今度はちゃんと着地できるし」
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リーナはため息をついた。
「絶対やるなよ」
「やらんやらん」
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その直後。
足元の石につまずいた。
「あ」
バランスを崩す。
体が傾く。
そのまま――
屋上の縁から、
すーっと落ちる。
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「ちょ、おまっ――!!」
リーナの叫び。
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数秒後。
ドゴン!!
地面に着地。
無傷。
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「……やっちまった」
上を見上げる。
リーナが頭を抱えている。
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「お前はああああああああ!!」
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俺は笑った。
青空を見ながら。
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まあ、
悪くない。
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落ちるのも、人生だ。




