表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/24

第23話 眠る過去

 ノックする音と共に、扉が開かれる。レヴィアスは、手に羊皮紙や紙の束を抱えて入ってきた。

 それを、まとめて机の上に置く。

「ご報告です」

 ハルが、手元の書類から顔を上げた。目の前に、丸められた羊皮紙が差し出されている。羊皮紙を広げながら、目を通していく。

「交易権委任案は、議会を通過しました」

 羊皮紙は、元の形に戻して机に置かれる。すぐに、レヴィアスから紙の束が差し出される。

「公爵領では、すでに準備が始まっているようです」

 ハルは、黙ったまま紙の束をめくっていく。レヴィアスは、その手の動きを見ながら、続ける。

「食料流通も正常化しております。南端地区への供給も回復しました。市場価格も落ち着いています」

 レヴィアスの言葉が途切れると、紙をめくる音だけになった。

「和平反対派も沈静化しました」

 ハルの手が止まる。小さく息を吐いた。口元が少し緩む。

「そうか」

「もう1件ございます」

 レヴィアスの手は握られ、指先が小さく動いている。その声は、少し低くなる。

「南域回送組合代表、バルガス・ボンドの遺体が発見されました……事故とのことです」

 部屋の中を静寂が覆った。

「……そうか」

 二人の表情に変化はなかった。ただ、静かな時間が過ぎていく。やがて、レヴィアスは一礼すると静かに執務室を後にした。


 

 ある日の昼下がり、ハルは執務室の窓から外を眺めていた。後ろからレヴィアスに声をかけられる。

「何かございましたか」

「いや、何もない。街道を走る荷馬車の数が増えたな」

「そうですね。最近では、陳情書の数もかなり減りました」

「……ああ、そうだな」

 二人の静かな声が重なっていく。

「陛下」

 ハルは振り返る。レヴィアスが、一冊の本を差し出す。

「これは?」

「王立図書館の整理中に発見されたものです」

 ハルは受け取り、表紙に視線を落とす。

「題名は……擦り切れて見えないな」

「はい。学者たちも価値が分からないそうですが……王室の関係する記述があるようです」

 本を開く。波打った羊皮紙は固くなっている。湿った土臭い匂いが広がる。所々に染みができている。

 ハルは、古い文字を目で追っていく。ページをめくったところで手が止まる。

「……フィンレイ王国……賢者の始祖……」

 ハルは小さく呟き、顔を上げる。レヴィアスは、小さく首を傾げている。

「何だ、これは」

「分かりません……学者たちも内容が解読できないようです」


 その日の夜、温室でいつもの椅子に腰を下ろしていた。机の上には、昼間の本が置かれている。表紙を開けると、見慣れない紋章が描かれている。青く輝く石が中心にある。そっと指でなぞっている。

「ずいぶんと古い本ですのね」

 顔を上げると、イリシアが立っていた。イリシアは、隣にイスを持ってきて腰を下ろす。ハルが、本に視線を戻す。視界の端に、覗き込むイリシアの姿が映る。

「なんて書いてありますの?」

「古い文字ですべては読めない。このフィンレイ王国というのだけは分かる」

「あまり聞かない国ですわね」

「幼い頃に、おとぎ話で聞いた名前のような気がする」


 温室には、静かな時間が流れる。ハルは、再び本に視線を落とす。

 古びた頁の奥で、遠い昔の物語が眠っていた。



第1部 完結

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

これにて第1部完結いたします。

第2部準備のため、しばらく休載させていただきます。

またお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ