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第11話 影

 黒装束に身を包んだ、各国からの使節を見送る。最後の馬車が出ると、ハルは一礼をし、小さく息を吐き出した。空を覆う雲の隙間から、細い光が降りている。上の高台には、礼拝堂のステンドグラスが反射しているのが見える。

 向きを変えて歩き出す。城とは違う方向に足が向いている。

 「陛下、どちらに」

 後ろからレヴィアスが、ついてくる。

 「……少し一人にしてくれ」

 振り向かずに答える。後ろのレヴィアスの足音は、変わらずついてくる。

 草木の間に敷かれた、石畳の上を歩いていく。湿った土の匂いが漂っている。奥に向かうにつれて、木が多くなり、匂いが強くなる。一番奥まで行くと、石レンガの通路があった。両側には、石の灯火台が立っている。その中で、小さな灯りが揺れていた。ハルは立ち止まり、火を眺めている。視線を前に戻し、足を踏み出す。頭上から、葉擦れの音が耳に入ってくる。後ろのレヴィアスの気配は、遠ざかっていく。

 突き当りの石碑には、木の影が落ちている。ハルは、石碑の前で頭を垂れて目を閉じる。ゆっくり目を開け、横に立つ石板へ視線を向ける。視線を落とし、足を向ける。石板の前に立つと、ハルは手袋を外す。指先で一番下に刻まれた名をなぞる。指先が、まだ刻まれていない場所へ移る。そのまま、目を閉じる。

 気が付くと、辺りは薄暗くなっていた。

 外した手袋を握りしめる。背筋を伸ばし、身を翻し歩き出す。白いマントが風になびいていた。

 灯火台まで戻ってくると、レヴィアスが下を向いて佇んでた。レヴィアスの視線が上がる。ハルは小さく頷き、振り返ることなく歩き出した。



 執務室で、レヴィアスの声が響く。落ち着いているが、一段低い。机の前に立ち、まっすぐにハルを見ている。

「私は賛成できません」

 ハルは視線を落としたまま動かない。

 レヴィアスの声が続く。

「陛下の影になる部隊を作るなど……露見した場合、責任はすべて陛下に返ります」

「分かっている」

「それならなぜ……騎士団がいるではありませんか」

「それでは守れない……内側から漏れている」

 静寂が室内を包む。ハルは顔を上げる。視線を窓に向ける。窓からは月が見える。

 レヴィアスに視線を向けると、俯いたまま手で顎を触っている。そのままの姿勢で口を開く。

「誰にやらせるおつもりですか」

「第1騎士団にいた男だ。ヴォルガの推薦だ。たしかだろう」

 レヴィアスが小さくため息をつく。開きかけた口は、何も音を発することなく閉じた。

「お前も来るか」

「当然です」

 レヴィアスの目が鋭くなる。ハルは、レヴィアスから視線を外して、向きを変える。

 扉を開けると、湿った空気が入ってくる。地下道へ続く螺旋階段を降りていく。二人の足音だけが響いている。ハルは、いくつかの分岐を迷うことのない足取りで進んでいった。

 ひとつの鉄の扉の前で足を止める。ハルが扉を叩くと、中から重い音を立てながら開かれる。ハルは何も言わずに、扉の中に入る。レヴィアスの足音が遅れて聞こえる。

 部屋の中では、机の上でランタンの灯りが揺れている。机の両側に椅子が一脚ずつ置いてある。

 ハルは、男の前を素通りし、椅子に腰かける。レヴィアスはハルの後ろに立つ。中にいた男は、椅子を引く音を響かせて座った。男は、まっすぐにハルを見る。その目からは、何の感情も感じられなかった。

「サイラス・ヴォルフェインと申します。第1騎士団に所属しておりました。騎士団長より命を受け、こちらへ参りました」

 その話し方は、抑揚の少ないものだった。ハルは机の上で手を組み口を開く。

「私は、自分の影となる部隊――暗部――を編成しようと考えている。私の目となり手になる存在だ。暗部は表舞台に立つことのない組織となる。どんな功績を上げても、誰にも知られることなく、名誉になることもない。お前はやってくれるか」

「……承知しました」

「お前が使える者を、あと十名ほど集めておけ。人選は任せる」

「出自は問わないのですか」

「問わない。結果だけを見る」

「陛下」

 レヴィアスの声が響く。ハルは、その声には反応せず、サイラスを見ている。

「任務は、私から直接お前に伝達する。やり方はお前に任せる」

「かしこまりました。準備しておきます」


 来た道を同じように戻っていく。螺旋階段を上がると、ほのかに温かい空気が肌を包む。扉を開けると、シャンデリアの灯りが通路まで広がる。

 執務室の扉が閉まると同時に、レヴィアスの声が背中にぶつけられる。

「陛下、あれはどういうことですか。人選も任務の遂行方法も任せるなど……危険すぎます」

 ハルは、椅子に座りながらレヴィアスに視線を向ける。

「だから表には出さないと言っただろう」

「そういう問題ではありません」

「レヴィアス、これはもう決めたことだ。私はこれ以上、失わない」

 レヴィアスは唇を噛む。手は固く拳が握られている。口を開かぬまま佇んでいた。


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