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プロローグ
初投稿です。ゆっくり更新していきます。
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今日、私は王位を息子に継承した。まだ譲位した実感はあまりない。ただ、堂々とした息子の姿には、胸にこみ上げるものがあった。私が戴冠した時とはまるで違う。その時のことを思い出すと、気恥ずかしさに、思わず笑いが漏れる。
「ずいぶん楽しそうですわね」
「……昔を思い出していた」
手元のカップの淵を指先でなぞる。何度も触れた小さな欠けが引っかかる。
――私と同じだ。
玉座を埋めるためだけの存在だと思っていた。身代わりの王として、どれだけ守れただろう。どれほどが、この手からすり抜けていっただろう。
風に吹かれて髪が頬に触れる。棚の中央にピンク色のダリアが揺れている。唯一名前を覚えている――妻に初めて贈った花だ。
お茶を口に含むと、ほのかにリンゴのような甘さが広がる。後に残るスッと抜ける爽やかな香りで心が落ち着く。何度この香りに触れてきただろう。妻が淹れるハーブティーは、いつ私のそばにいた。
そっと目を閉じる。蘇るのは――教会の鐘の音、国民の歓声、振りまかれる色とりどりの花びら――欠けた私には、別世界の景色だった。




