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「それでも、アイシテル」 8  #ルート:S  end





~ジークムント視点~



「そんなわけないじゃん」


俺がひなを嫌うわけないのに、バカだなぁ。怖がる必要なんかどこにあるのさ。


「俺の方が、以前(まえ)と同じような好意を寄せてもらえないって思ってたのに」


本音だ。俺が抱えていた不安のひとつ。


「ひなと出逢ってから、一度だってひなを嫌いになることなかったのに」


本当のことだ。軽いと言われがちで、本音が見えないと言われてきた俺の。


「……こんなに好きになった女の子なんて、今までもこれからもひなだけ」


本気だよ。こうやって自分の想いを相手に伝わってほしいと願いながら話すのも、ひなだけ。


俺らしくなく、すこし震えてる。


心臓の音は不思議なくらい穏やかなのに、自分の想いを伝える怖さを今…知っていく。


これ以上の誤解は、お互いにしたくない。


ひながたどたどしくも伝えてくれた、まっすぐな想い。それが俺の胸を打った。


カルも選ばれた。それは現実であって、どうしようもないけど事実なんだ。


ただ、選ばれた理由とそれぞれに向けられた(じょう)の形が違っただけの話だったと知らされた。


たった今ひなの口から直接伝えられたことを、頭の中で高速で整理してみる。


「ようするに、さ」


その言葉を頭につけて、ひなの話を要約して確認する俺。


「結果的にひなだけの決断で、アイツを切り離せなかったから、俺に力を借りた。……でしょ?」


ひながいう“残酷なこと”の真意は、きっとそういうことなんだろう。


上手く伝えられていないだけで、俺にカルとの縁を切らせたと取れた。別離(わかれ)られるように、と。


あぁ、俺が好きになった女の子は可愛くて、いい匂いがして、やわらかくて。


そして、「ひなは、ホントに残酷だけど…」と思うのに、それはアイツじゃなく俺が選ばれたことで背負う荷物の一つなんだと思うんだ。


「それでも…アイシテルよ。ひな」


残酷な、俺の大切な人。


カルへの気持ちはアッチのひなが持って行ったんだとしても、ゼロに出来るわけがないんだから。


そんな不安も丸ごと一緒に抱えて、これからの時間を過ごしたい。


「ひなが聖女でも聖女じゃなくても、俺を好きだからとかじゃなく、ひながひなだから…愛してるよ」


心の奥にひなが抱えているいろんな不安も、俺とだったら抱えていけるって思ってほしい。信じさせたい。


未来の話をしたあの日。


もしかしたらひなが消えちゃうかもしれない不安を抱えていても、予定と書かれたステータスを変えたくて、重ねられた手のぬくもりを失くしたくなくて、二人で闘おうと決めていた。


結果的に、二人で闘えた。向き合えた。二人はこのまま幸せに暮らしましたとさって、絵本のエンディングみたいになっていくんだ。これから。


ほんわかした絵本みたいな話じゃなかったけど、最後にはこうして抱き合って、真っ赤になったり泣き出す愛しい子を見つめられている。


他に何を望む?


もう、なんもいらないじゃん。


「…ひなは? もう一回、言ってよ」


あわあわしてるのがハッキリわかって、思いきり笑いだしたいくらいだけどね。


でもね、ひな。それっくらいの意趣返しをしても、いいでしょ? 恨んでるわけじゃないけど、なんだか悔しいんだから。


「あ、でもひなは、俺がひなのこと好きっていうから好きなんだったっけ?」


意地悪なこと、言わせてよ。


「俺がひなのことを望まなかったら、好きになってもらえなかったの?」


それくらい、残酷なことをしたんだからさ。


「俺の心の傷が癒えたら、いなくなるんだったっけ?」


さっきのひなの言葉で、新たに抱えた不安をついでに解消させてよ。


「……結局俺だけが、ずっとひなを想い続けるんでしょ? ひながひなであれば、俺は(・・)好きだから…ずっと想いつづけてるけどね」


揚げ足を取る俺が、たとえ子どもみたいだって思われたっていいよ。


腕の中であの時のカルみたいに、顔色を赤くしたり青くしたりで忙しそうなひな。


最後の最後には、今にも泣きだしそうになるのにそれを堪えるから、顔が別な意味で赤くなってる。


(ほんと、飽きないね。ひなを見てると)


顔が自然とゆるんでしまう。笑ったら、からかってるのがバレちゃうのに。


「……あ!」


と、笑顔の俺を見て真意に気づいたのかちょっと怒ったかと思えば、すぐにいつもの顔になった。


(俺が好きな…ひなの顔だ)


まっすぐに俺を見て、好きだよって表情だけでわかるアレだ。


「そんなことないからね! ジークだから…好きなの。たとえあたしがつけちゃった傷が治っても、くっついてぶら下がって…離れないんだから」


「…くっついて……ぶら下がって……」


その言葉を想像して、プハッとふき出す。


どこかにいた動物みたいで、その姿がひなで。


「あははははは。いいよ! ひながぶら下がってても、俺だって離さないよ。だからさ、ひな」


散々笑ってから、ひなをまっすぐ見つめ返して頬に手を添える。


「ずっと…一緒にいようね」


聖女の色を失くした真っ黒な瞳が、そっと閉じられる。


俺の中に増えた、好きな色。


おそろいの髪色も、きっとこれから好きになるんだろう。


二人で荷物を分けあって、胸の中はいつも軽くして、笑顔で過ごせる日々を約束するよ。


カルに告げたように、ひなは俺のものだから。


ずっと、離す気はないからね。もう、誰にも渡さない。――渡せないよ。







******



~もうひとりのひな視点~



「陽向! 陽向! 今日はどっちがいい?」


「そうだね…。鶏肉がいいかも」


「わかったよ! じゃあ、楽しみに待っててね」


「…ふふ。カルナークが作るご飯は何でも美味しいから、楽しみー」


あたしの言葉に、カルナークがはねるように去っていく。


あたしたち二人がいる場所は不思議な場所で、元いた世界の家に近い広さだ。


冷蔵庫があって、レンジがあって。テレビはなくて、外に出ることもなくて。


あの後に、あたしの体は元の大きさへと戻っていき、カルナークよりもすこし小さいあたしのまんまになった。


ナーヴに仕込んでもらっていたものの中に、カルナークが望むあたしの姿を投影し続けるのがあったけど、この姿はカルナークが望む姿なんだろうか。


大人だったあたしに、甘えたようにすりよってきたカルナークは可愛かったし、ベッタベタに甘やかしたくなった。


(そんなことを思う時点で、本当にカルナークへの気持ちに特化したあたしなんだと感じた)


とはいえ、だ。


髪の長さは長いままで、色は銀に近いグレーだ。


(ジークの髪色みたい)


この場所に来てから何度も思った。


瘴気が抜け落ちたとかじゃなく、もしかしたらこの色はあたしの中にわずかでも残っている彼への心残りなんじゃ? って。


同じ体だったから、なんとなくわかる。


アッチのひなも、カルナークへの感情を完全には消せなかっただろうな……って。


ただ、カルナークがそのことに気づけば、きっと寂しがるのでしょ?


また負の感情を抱かせてしまい、国の方よりも先にカルナークの浄化が必要になったら大変。


指先に魔力をまとわせて、何もない場所にトンと触れる。


指先になにかが当たった感触の後に、小さなモニターが出た。


瘴気がなくなった国は、至って平和そう。


ナーヴも普通に外に出て、シファルと一緒に笑って歩いている。


短期間でかなり無茶な数のお願いを強いてしまったから、ナーヴが生きやすくできたことで帳消ししてくれていたらいいな。


――この世界は広くて、狭い。本当にたった二人きりで。


モニターを見下ろして、カルナークに内緒で小さなため息をつく。


(すこしだけ寂しいな)


答えを出しきれなかった代償だ、これは。


それとカルナークが向けてくる愛情を受け入れたいと思ったのも、嘘じゃないから。


「陽向ぁーーーーー」


元気な声で、あたしを呼ぶいつもの声に。


「はぁーい」


と、あたしも元気に返す。


モニターは、こっそり消して。


この場所は便利で、元いた世界の調味料が使えちゃう。


カルナークは、元いた世界のいろんなご飯を試行錯誤しながら作ってくれる。


「これかな? 唐揚げってやつ」


アツアツの山盛りになった、きつね色をした肥りそうな危険なやつがある。


「絶対…気づいたら食べきっちゃいそう」


「そのために作ったんだから、一緒に食べよう! 次は何を作ろうかな。陽向が好きなモノ、なんでも作るから!」


カルナークが向けてくる愛情は、まぶしいほどにまっすぐだ。


あたしの心の端っこにある想いは、絶対に気づかせちゃいけないモノだ。


(この髪色だけは、このままでいても…いいよね? ジーク)


カルナークに誘われるままに、一緒に手を合わせて箸をつける。


「ふわぁあああああ……。思った通りの破壊力! すっごくおいふぃ!」


最後は嚙みながらで、言葉になってないし。


「はい。ちゃんとお水も飲んで」


「ふぁい」


一緒に食べるご飯が美味しいや。


都合よすぎなエンディングかもしれないけど、どっちもと笑っていたかったのは本当だ。


(……だから、お願いね。ひな)


心の中で、届かないだろう想いを呟く。


(大切なあの彼(ジーク)を、愛しつづけてね)


まだまだしばらくは瘴気で悩まされることも、浄化が必要になることもないだろう。


カルナークに料理を教えて、時々、すぐに赤くなったり青くなる彼をからかいながら、いちゃつくことにも挑戦しよう。


恋愛経験値も人付き合いの経験値も、かなり少なめのあたしだけど。


「おかわりは?」


「おねがい!」


ゆっくり経験していこう。彼と一緒なら、きっと楽しいはずだから。


「はい、ごはんのおかわり」


「うん。ありがと、カルナーク」


おかわりを渡してきたついでに、まるであいさつのように。


「陽向、今日も大好きだよ」


あたしの顔色を赤くするのが楽しそうな彼に、


「…あたしも、カルナーク…好きだよ」


負けじと返す。真っ赤な顔のままで。


愛してるとはまだ言えないけれど、いつかきっと言える日が来る気がしてる。


どんな関係から始まった二人でも、ずっと愛しあえるよね?


いつかの言葉を、目の前の彼は待っててくれるんだろうな。きっと。


好きだという気持ちを、体中で表現しながら。ずっと。






Sigmund route



end







こちらで、ジークとの話は終わりです。


『抱えられるもの、抱えられないこと 2』から分岐扱いで、トータル60話になりました。


本編が44話だったのに、IFルートの方が長編になるという…。


個人的にチャラくて純愛…みたいなのは好きなんだと、書きながら知った次第です。


ジークには、大人でチャラくみえちゃうからこそ、カッコつけた言葉じゃなくて、素朴な言葉で愛を伝えてほしかったところがあります。


というか、そうしたかった! 本来は不器用なところもある人だと思うので…。


最後には、カルナークと分け合うような感じになってしまいましたが、


誰かと一人を想いあえば、全員が満たされるようなことにはなれないでしょう…。


ハーレムルートとかにでもならない限りですし、ひなはそれを喜ぶようなキャラでもないし。


ただ、無自覚でみんなをほっこりさせては、好意を抱かれていそうではありますが。


なんにせよ、ひなは王族に嫁ぐことになるので、いつかその時の話を番外編として書けたらなとは思います。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。





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