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grace 5  #ルート:S





一日の中に何度も体の中を探られるような気持ち悪さを感じる。


そのたびに頭痛が増して、上手く呼吸が出来なくなるんだ。


あたしの状態は国王の方にも話が行ってて、カルナークの捜索が続けられることとなった。


『今日も収穫はナシ。ごめんね、いい話を聞かせられなくて』


『すまんな、陽向。今日は食欲はどうだ? ミルクでも温めてもらうか?』


あの後から、起き上がるのも難しくなってしまったあたしのところに、日課のように報告に来てくれる。


カルナークのことがあるから、必ず誰かしらがここに来てくれているんだけど、忙しい二人の代わりにシファが来ていることが多い。


シファとは念話は出来ないから、お互いに黙って一緒にいるだけのようなもの。


とはいえ、お互いコミュ障気味なもので、悲しいかな…一人での過ごし方には慣れていたり、なにか話さなきゃという圧をかけあわないので心地がいい方なんじゃないだろうか。


頭痛と時々出る熱のために、シファが調剤してくれたものを飲む。


それと体力も落ちてしまったので、じようきょうそうとかよくわからないけど、元気を維持する煎じ茶も。


禁書庫に行って以降、浄化には光属性の魔法が必要だということで、ナーヴくんに内密に動いてもらっていたりする。


あたしの魔法だけじゃなく、ナーヴくんの魔法がなきゃ聖女の魔法だけじゃ次の浄化までの周期が早まるとも言われているだけに、属性持ちがあるなら頼みこむしかない。


光属性をどう使うことが必要なのか、今回の浄化に必要な光属性の魔力があたしと上手く馴染むか、必要なだけの魔力や魔法がナーヴくんに取得出来ているのか…など。


本人との確認事項が多いのにもかかわらず、瘴気を溜め込むあたしと瘴気に耐性がないナーヴくんとではその作業すら進められない。


今回こういった事態に陥ったことについて、ナーヴくんからは、「お前のせいじゃないんだったら責めようがない」って伝言があった。


本当はあの時みたいに、責めたいんだろうな……。自分の生死がかかってるんだから。


(でも、あたしも今は、ナーヴくんとは違う意味合いで生死がかかった事態になっている)


アレックスの念話はシファにも明かすことになり、シファ経由でナーヴくんに必要な光属性の力について確認をしてもらう日々。


伝言ゲームをやっているみたいで、どこかもどかしい。


直接やりとりが出来た方がもっとずっと早く進められるのにさ。


「…あ……っく、ぅ……っ」


いきなり来る痛みは毎日続けば慣れるものだなと思うのに、だからって耐えられるかというと別の話。


体の中を(まさぐ)られている感覚と、頭がポー―ッとなってくるのに痛いんだよね。


痛くて、寂しくて、アツくて、切なくて。


体と心を触れるか触れないかくらいの微妙な触れ具合で、かなり長い時間弄られてしまう。


その最中のあたしは顔が熱く…頬を紅潮させて、その辛さにシファを見つめると照れくさくて目をそらしてしまうような状態なんだとか。


「女の子に免疫がない俺には、刺激が多すぎる」だそうな。


どういう表情しているのか想像したら、恥ずかしくなってきたので退室してもらいたいくらい。


けれど、その最中というのが一番カルナークの魔力を感知できるチャンスなので、誰かがそばにいて状態を見ていてもらっていた方がいいわけでもある。


ここでも、本来ならばナーヴくんの力があったら…となるのに、異変が起きているタイミングで即時即対応してもらえない。


そこでナーヴくんが試行錯誤し、例の魔方陣を描いた紙を介して対応してくれることになった。


それでも、声をあげられないのでその場にいる誰かが、あたしに異変があったら魔方陣でコンタクトをとって別の魔方陣で必要な魔法をかけてもらう。


カルナークの魔力を追うのに、本来であればあたしに触れて感知してもらわなければならないはずが、あたしにはわからない謎理論で作り上げた魔法をナーヴくんは使う。


「光は速さだから」とか「光は通信」とか、何の説明なのかさっぱりなんだけど。


シファの話では、魔力の強さだけでいえばカルナークよりもナーヴくんの方が上なんだっていう。


瘴気のことがあるから安定感があるとは言い切れないみたいだけど、これまでカルナークと魔法の勝負をして勝敗は大差ないとか。


カルナークは魔力の操作に関しては一番だから、そこで勝てないことが時々あったみたい。


最後に勝負したのは、ナーヴくんが瘴気で体調を崩しがちになる前の話。


思ったよりも前のことだったとかで、シファの話ではナーヴくんの魔力の使い方がいわゆるコスパな感じ。


効果は同じなのに、使う魔力の量は少なめ。だから、ナーヴくんの体にかかる負担も少なめで回数多めが可能。


体にかかる負担と自分の体の状態とを考えて、試行錯誤してそのやり方にたどり着いたとかなんとか。


あたしにはその過程はよくわからないんだけど、あたしだったら地面にめり込みそうな日々の中でも、自分が持っている武器の活かし方を改良なんて思考が停止しちゃいそう。


(そういう人は生かすべき、だよね。ほんと)


このままいけば瘴気で満たされて、その先がどうなるのかわからないあたし。


聖女ですらなくなってしまうかもしれない選択肢も、今後の道の中に出来てしまったあたしには、ナーヴくんのがんばりがまぶしく感じられちゃうよ。


こんなことになって、みんなのお荷物な聖女は棄てられちゃうんじゃないかな。役立たずって。


痛みや体のアツさに、心が引っ張っていかれてしまいそうになる。


カルナークからの要望がまだなにもない。


ただ、あたしのことを好きだって言っていっただけみたいなものだ。


ふうふう言いながら、シファが飲ませてくれる水をなんとか飲むだけ。


水を飲みながら、カルナークが作って持ってきてくれた水分補給用の水が、なんだか懐かしく感じられてしまう。


つい最近まで飲んでいたのに、すごく昔のことみたい。


(どうしてこんなことになっちゃったんだろう)


「カル…」


涙があふれてしまって、カルナークのことを呼んでしまった。


あたしの体に起きている異変にだってすぐ気づいて、なにかとお世話してくれたのに。


下着姿を見られたのは嬉しくなかったけど、水やスープを持ってきて一緒に過ごした時間は嫌いじゃなかったのに。


「ど、して…? カルナ…ァク」


好きな人はジーク。そこはブレる気はない。


なのに……なのに…さ。急に冷たくされたようで、胸が苦しい。嫌いになりきれない、カルナークのことを。


こんなことされているのに、突き放せたらいいってわかってるのに。


「カル…の水…」


飲みたいよ。ほしいよ。もっかい戻ってよ、元のカルナークに。


「うぇ…ん……あ…ひ、っく…っっ」


子どもみたいに泣いてるのわかるんだ。今はそんな場合じゃないってことも。


「カルナ…クの、ばかぁ……」


この声が聞こえてるなら、飛んできて一緒に悩んでよ。違う未来を選んで?


「うぁあ……ん」


シファがオロオロしながら、何度も涙をタオルでとんとんと拭ってくれるのに。


「カルぅ…」


一緒にいられなくなった彼の名を何度も呼ぶだけのあたし。


痛みとアツさで、どこで倒れるかわからない状態のあたし。心身ともにどうすることも出来ない負荷がかかって、浄化が出来るのか不安しかない。


不安を抱えれば抱えるだけ、瘴気は集まりやすくなってしまうのに。


「……あぁっっ!!!!」


堪えきれないほどの痛みが襲う。頭の先に大きな杭でも打たれたような、一瞬で頭から全身を突き抜けるような激しい痛み。


「い…やぁああああっっ!」


どうにかなりそうだ。


壊れてしまう…。このままじゃ、あたしが壊れて……。


もうダメだと思った刹那に、まるですぐそばで囁かれたように。


「さあ、浄化のタイミングだ。……俺なら陽向を助けられるよ?」


カルナークの声がした。


「カ…ル」


彼の名をそう呼んだ刹那、一番痛い頭の先から真っ黒なモヤがあふれだしてあたしの全身を包み込んだ。


シファはそれを見て、すぐさま廊下へ駆けていき大声を出してみんなを呼ぶ。


みんなが来るまでの間、あたしは意識を飛ばし、モヤに包まれたまま。


みんなが到着したのを確かめたかのようなタイミングで、あたしを包み込んでいたモヤが晴れて。


「……ひな?」


あたしの姿が、変化していた。


髪も服も真っ黒で、そして一番の変化はもうすぐ16になるあたしが大人の女性になっていて。


「さぁ、迎えに来たよ」


そう告げて姿を現わしたカルナークと一緒に、どこかに消えてしまったんだ。


――どうしてその時のことをあたしが話せているかって?


だって…体が大人になったあたしの中に、もう一人のあたしが中から見ていたから。


中からどれだけ叫んでも、誰にも声は届かず、あたしの変わってしまった姿を見てカルナーク以外は茫然としていた。


言葉を失うほどに……。


カルナークに連れていかれたところは、まわりに何もない白い空間で。


でもまわりの光景は見えていて。


大きくなったあたしは、カルナークに膝枕をして彼の髪を指先で梳いている。


どうすれば自分の中から出られるのか、元に戻れるのか。何一つわからないままに、カルナークが話すことに耳を傾けるだけ。


彼は言う。


「もうすぐ、浄化の時間だよ」


って。


どうすれば浄化が出来るのか、まだ決まっていなかったはずなのに…と不安を抱えて中にいるあたしの心を見透かしたかのように、カルナークは膝からあたしを見上げて。


「エンディングは悲しい方が印象に残るんだよ? 陽向」


そう告げて、クスリと笑った。



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