grace 1 #ルート:S
『どうして、なんのために、なにをするために…産まれたの? 人は』
『聖女は浄化のためだけにしか生まれていないの?』
『あたしじゃなきゃいけなかった理由は、あたしの中のどこにあるの?』
『理由なく生きているのは、罪になるの?』
心の奥の奥に、引っかかり続けたこと。
あっちの世界でも、こっちの世界でも、あたしだからそばにいてほしいって誰かに思われたがってた。
頭の中と口から出ていく言葉の量が違いすぎて、待ってくれないまわりに何も言えないままかかわることを諦めて。
柊也兄ちゃんに髪を切ってもらって、軽くなったのは髪だけで、結局学校にはその後行かないことの方が増えて。
高校になんとか合格したものの、形から自分を変えようとした直後にここに召喚され。
みんながあたしの言葉を待ってくれるのも話を聞いてくれるのも、聖女だからなんだろうなと諦めたことを思う反面、こころのどこかで諦めきれなくて。
いざ好意を剝き出しにされても、信じられず。
信じてみたら、こんなことになっているという。
「……だからね、アレックス。カルナークとの訓練はもう終わりにしたいの。それとね」
ジークとの話を経て、あたしたち二人でアレックスの部屋へと向かった。
何でも相談してくれと、頼ってほしいと言ってくれた人。アレックス。
ジークの部屋で発動させた認識阻害の魔法は、ここでは使わない。
あえて聞かせるつもりで、ここでこんな話をしているのだから。
嫌だよとあたしに訴えてきたカルナークに、見ないで聞かないでとお願いをしたけれど、きっとカルナークはやめないと思ってた。
認識阻害の魔法は、スキルは無関係で。ジークの人物鑑定には影響なく、あの場であたしの状態を書き留めることが出来たんだ。
だから、盗聴と盗撮を試みようとしたことについて、実は知っている。
ジークが鑑定をしている最中に、何度か眉間にしわを寄せて「あの野郎」って呟いていたから。
あたしがその声に気づかなかったと思っているのか、ジークからは特に何の話もなかったから黙ったままだけど。
でも認識阻害の魔法を使っておいたことで、こっちの話は聞かれずにすんだよう。
今あえて話をしているのは、カルナークがこれまでにあたしとの訓練の最中にしてきたことの意味と、それで起きてしまった弊害ともいえることを説明したから。
と言っても、この話を本人がちゃんと聞けている精神状態なのかまではわからないものね。
「それと、ジークが鑑定してくれたあたしのステータスについての報告と相談なの」
スッとアレックスの机の上に、さっきの紙を二枚置く。
あたしをチラッと見てから、黙って順に読み進めていくアレックス。
時々目を見張り、あたしを見て、紙へ視線を戻し。……の往復を何度かしてから、大きくため息を吐いた。
「……ジーク。お前、どういうつもりだ。こんな大事なことをずっと黙ったままで」
低く重い声が、静かな部屋に響く。
静かに怒っている、アレックスが。
「そのままにして、その瞬間が来てからじゃ遅いだろう。お前は何を優先したんだ。何を一番…護りたかった。取捨選択するにしても、これは悪手だろう。……それにそんなに俺は、頼りにならないのか?」
ジークが視線を落とし、体の横にあった手がぎゅっとこぶしへと形を変える。
「…………わかってる。間違ってた、って」
眉間にしわを寄せて重く吐き出したその言葉は、心の底からの思いに聞こえた。
「……はあ。とりあえずは、訓練の中止だな。それと、禁書庫だったか、ひな」
「あ、うん。そう聞こえたの、なんでか脳内に」
あたしがそう返すと、ジークとアレックスが互いに視線を交わしうなずく。
「その時期が来たら、聖女だけに伝わると言っていたそのままだな」
「そうだね」
「????」
二人の会話がよくわからない。
「ああ、置き去りにしてすまないな。陽向。今の話についての説明は、出来れば後からにさせてくれ。今は話せないんだ」
アレックスがそういいながら、机を探っているよう。小さくカタカタと何度か音がした。
「鍵は、これだ。ジーク、案内はお前でいいよな? 俺の方でカルナークの方に話をつける」
そう言うアレックスの顔は、笑っているのにどこか怖い。
「バカなことをしたもんだな、カルナークは。…あ、ジーク、アレは持っているのか? 案内するにしても」
「あ、もちろん。常に携帯してるから問題ないよ」
またよくわからない会話が横で交わされているけれど、きっとこれも今はまだ教えてもらえないんだろう。
「それじゃ、やるべきことをやろう。お互いに」
「うん」
「ああ」
三人揃って部屋を出る。
あたしとジークは左に、アレックスは右へ。
別れる前に、アレックスが頭を撫でて謝ってきた。
「俺には足りない能力のせいで、いろいろ気づけてやれなくてすまないな。…俺は陽向のパパなのになぁ」
っていいながら。
「ちょ…、待ってよ! ジークの前でやめて!」
と、アレックスの口を手のひらでふさごうとしたけれど、身長が高いアレックスの口はちょっとジャンプしても届かない位置。
「陽向は小さくて可愛い、俺の大事な娘だ」
って、おかしな誤解を生みそうなセリフを吐いて消えていく。
「……いつ、親子関係に昇格? 降格? したのさ。アレクは」
アレックスがいなくなった後に、禁書庫までの案内中はずっと説明させられて。
「へぇーーーーーーーーー」
怒ってるのか呆れているのかどうなのかわからない返しに、視線を窓の方へ向けながら歩いていた。
「こっち向かないの? ひな」
なんて言われても、どんな顔して向けばいいのかわからなかった。




