祈りに近いモノ、その名は 8 #ルート:S
ジークと手をつなぐ。
ソファーに隣り合って、離していることは今までになく深刻な話なのに、つないだ手のぬくもり一つでこんなに穏やかになれる。
――死ぬかもしれないのに。
ジークに、召喚された時と現在のステータスの状態を書いてもらう。
視認化した方がいいよねって、書いてくれた。
「絶対にごまかさないでね」と念押ししたら、「さすがにここまで来て、ひなに隠そうとか嘘つこうとか思わないよ」と言ってきた。
「それじゃ、お願い」とジークと見つめ合う格好になったら、ふ…と視線が肩のあたりに移った。
どの辺に出ているのか、視線の先を追えばわかってしまうね。肩から始まって、ボディラインをなぞるように視線が動いていく。
「…って、そんなに体のまわりにいっぱいステータス画面出てるの?」
思ったよりもアチコチに視線が動くもんだから、気になって仕方がない。というか、落ち着かない。
「まぁ、ね。召喚されてすぐよりも、今の方が項目が多くて……これはなかなか…多いな。改めて鑑定してみると」
多いなと愚痴る割に、書くのが早いのか目の前の紙がどんどん文字で埋まっていく。
書くのを込みで、多分30分前後かな。ようやっと書き終えて、ジークは自分が淹れた紅茶を一気にあおる。
「異世界から来たからなのか、こっちの人にない項目がとにかく多いんだよ」
紅茶を飲みきって、ジークはおかわりの紅茶を淹れに立ち上がる。
ジークに渡された紙を見比べて、現在の方に見られない箇所が多いことに気づく。
項目に矢印がつけられ、ちょっとした注釈っていうの? 説明みたいなのがついたものも多いや。
読み進めていく中で、大きく丸で囲んである項目から目を背けるわけにはいかない。
『未来:死亡予定三か月以内』が、来た頃のもので、『未来:死亡予定一か月~一か月半以内』が今だ。
予定……、予定は未定って聞いたことあるよね。死亡という言葉だけで終わってないなら、シファが言うように抗えるのかな。
しかも、半月くらいの前後がある。長引くか早まるか。それが何を理由にして、それが決まるのか。
シファとの話を思い出して、自分の頭の先をそっと撫でた。
(それと、こっちの項目がきっとその理由というか原因のひとつになるよね)
あたしが持ち合わせている魔法の属性の項目だ。
聖属性魔法は、ジークが言うようにどんなものにせよ聖女だよと言うのなら、持っていないとダメな属性。
持っていたことに、内心ホッとする。もしかしたら、役に立たない聖女なんじゃと思ってたもん。
ただ、問題なのがそれじゃない。
『闇属性:中級』
シファがいう、あたしの体内に在るという瘴気がこれなんだろうか。
ここに来た時ばかりの方にはない項目だから、こっちに来てからの変化…で間違いないよね。
聖属性だけじゃなく、ほぼ全属性持ちで、聖属性だけが特化しているよう。
(これがいわゆる、異世界人あるあるのチートってやつ?)
一つだけ持っていないのが、光属性。
あたしにはないけれど、ナーヴくんは持っている……っと。
魔法に関しては、特別どの属性とか狙って勉強してこなかった。
むしろ、してこなかったようなもので、カルナークと魔力の感知とコントロールに特化した訓練ばかりだったから。
だから不思議なんだよね、光属性以外の魔法がどうして取得出来ているのか。
(こんなにあるなら、それのどれかがあたしやこの国を護る後押しになればいいのにな)
ジークが書いてくれたものを読み終え、紅茶を淹れているジークの姿を遠く眺める。
背中が広いなとか、アッシュグレーの髪の中にわずかなんだけど他に髪色が混ざってるんだなとか。
右に体重をかけて立つのが癖なのかな? とか、肩までの髪を耳に掛ける時は左が先なんだなとか。
時々目にしていても、気にかけていたようでかけていなかったのかもね。
魔力操作や感知の訓練は、もうあと少し。感覚でなんとなくそんな気がしている。
ただ、カルナークとの訓練に時々変な感じもあって、進んでいるようで立ち止まっている感じもあった。
シファの膝で眠って目が覚めて、妙だと思えるほどに体がスッキリしていたんだ。
シファに頼んで、その場で自力で魔力感知を試してみた。
その時のあたしの状態を、シファに聞かせてもらうのもお願いをして……。
今まで出来ずにいたはずの感知が、思いのほか短時間で出来、その上…自分の中にある魔力に触れることも出来た。
あたしが魔力操作と感知を試している間は、体全体がほのかなピンクに発光していてまわりに風でも吹いているみたいに髪が揺れていたらしい。
紅茶を淹れてきたジークに、ひとつお願いをする。
「ジーク。今からジークの前で魔力操作と感知の練習するところ、見ててもらってもいい?」
「……いいけど、話はその後で大丈夫?」
心配そうに聞いてきたけれど、今はこっちの方が先だろう。
「うん。その練習の結果次第で、今後について相談もしたいの」
優先順位を間違えるわけにいかない。シファとたくさん話をして、確認もして、誰を味方にすべきかも考えた。
「だから、見守っててくれる…でしょ?」
ちゃんと笑えてるかな、あたし。
「……わかったよ。ただ、何かあっても、俺はカルほど魔法に精通しているわけじゃないから、何も出来ないかもしれないけど、本当に大丈夫なの?」
見守るその目は、あたしを大切に想ってくれている人の目だ。
(安心する。……シファもジークも…みんな……守るために、今は背中を押しててね)
練習の前に、心の中でそっとお願いをして。
「じゃあ、始めるね」
ジークの手が、あたしの太ももに置かれたのを感じ、ゆっくりと目を閉じる。
深く…深く潜っていく、あたしの中へ。
凪いだ湖の中に、トプンと波も立てずに入り込むように。
音もなく静かな空間の中、かすかに心音が響いてそれをカウントがわりにして奥へ奥へと潜っていく。
血の流れに沿うように、自分の中の魔力が流れるままに身を任せる。
(スムーズだ。さっきシファと一緒にいた時と変わらない)
ほのかに発光するピンクの光に触れて、その光と一緒に流れていく。
(……やっぱり間違いないや)
確信したことも、ジークに伝えなきゃいけない。それが、これからにとって重要なことの一つでもあるから。
パチリと目を開けて、太ももに乗ったままのジークの手にあたしの手を重ね。
「それじゃ、未来の話をしようか。ジーク」
静かに微笑む彼の肩に、ことんと寄りかかって。
「……うん。聞くよ、最後まで」
まるで他愛ない話をしているように、穏やかな時間を一緒に過ごす。
生きるか死ぬかの話をしているなんて、パッと見わからないほどに心は穏やかだ。
涙はシファのところで出し切ってきた。
泣くよりも、顔を上げるための話を。
もう…揺らがないための準備への協力を。
そして、なによりも。
「ずっと……一緒にいるための話をしようよ」
彼の願いはあたしの願いでもある。
願いは叶えるためにある物で、強く願えば祈りにも近くって。
(願う向きや願い方を間違えば、それは呪いにもなってしまうのかもしれないね)
ここにはいない誰かを思い出しながら、ジークに話を切り出す。
「最初にね、やめたいことがあるの」
終わりにしよう。もう、十分助けてもらったんだから。
(――いろんな意味でね)
「カルナークとの訓練を、やめようと思うの」
優先順位に従って、最初の話をはじめた。




