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祈りに近いモノ、その名は 2 #ルート:S







パンクしてしまった。


ジークにあんなキスをされて、自分の中で消化しなきゃいけないものにあの場で片をつけようとして。


キャパオーバーだっけ、こういうの。


ジークが不思議そうな顔をしていたような気がしたけど、大丈夫だって伝えたからいいんだよね? きっと。


「水でも飲むか? 陽向」


アレクの部屋で脱力状態だったあたしを、部屋の方まで運んでくれたアレックス。


「着替えたかったら、ちょっとの間だけ窓の方でも見てるから着替えてもいいんだぞ?」


「……ふふ。大丈夫。…ありがと、アレックス」


癖なのか、なにかにつけて頭をポンポンと軽く叩いて笑顔を見せてくれる。


こくこくと水を飲み、傍らのサイドボードにグラスを置く。


「で。相談があったんだろ? 陽向」


部屋の端の方にあった一人掛けのイスを手に、あたしの方へとアレックスが近づいた。


「ゆっくり話していいから、俺に相談してみろ。やれることは、やってやるから」


いつものように語尾がかすれがちな、ほんのすこし高めの声。


見た目は全体的に大きくて強面で、パッと見…怖かったんだけど、こうして一緒の時間が増えるたびに安心感の方が増えていった。


(お兄ちゃんもこんな感じだったっけ)


頭にちらっと浮かんだその言葉に、ジークと柊也兄ちゃんを重ねた瞬間を思い出して、アレックスから顔をそむけた。


アレックスは、何も悪くないのに。


そんなあたしの心を知ってか知らずか、ポンポンとしたまま頭を撫でてくれていた。


「…なんか、さ。アレックスの中であたしがいくつなのか、わからないよ」


幼児扱いされているような錯覚を起こしそう。


でも、それくらい優しく丁寧に扱ってくれていると感じられる。


「陽向は、陽向だろ? いくつだろうが、可愛い陽向だ」


さらりと可愛いとか入れてくるあたり、ジークと同じで大人なんだなって感じちゃう。


(カルナークの可愛い! は、勢いがありすぎてちょっと怖い)


多分、どう言われたかよりも、誰に言われたか…で違うんだろうな。なんて思いながら、顔をアレックスに向け直した。


「――――相談、あるの。これからのことで、出来れば2~3日内で結論を出したいの」


布団をギュッと握り、視線はまっすぐアレックスへ。


味方になって欲しいと願いながら見つめて、アレックスの言葉を待つ。


わずかな間、ただ見つめあって。


ふ…と気づけば、布団を強く握りしめていたあたしの手に、アレックスの大きな手が包み込むように重なっていた。


『ああ、かまわない。陽向が望むように処理できるよう、協力をしよう。俺が持っているものをすべて使ってでも、叶えてやろう』


と、脳内に響く声。ああ、カルナークに聞かせない方がいいと判断してくれたんだと察した。


アレックスのスキル、念話だ。


こくんとうなずいて、「へへ」と笑うあたし。安心出来ちゃう、不思議なくらい。


お兄ちゃんみたいだとさっき思ったのに、今度はちょっと申し訳ないけどお父さんみたいだなと思えてしまった。


年齢的に父親なんてありえないし、ものすごく失礼だろうに。


脳内でこっそり謝りつつ、『あのね』と脳内で切り出した瞬間、アレックスが首を左右に振った。


「アレ……ック、ス?」


思わず声に出てしまったあたしを見つめるアレックスは、穏やかに微笑みながら重ねたままの手に力を込めてきてから。


『どうして、俺に相談しようと思った?』


ゆっくりと、まるで言い聞かせているように呟いてくる。


「…え」


“どうして”は、こっちが聞きたい。なんでこんな質問をされているのかがわからないよ。


戸惑いを隠せずにアレックスを見つめると、重ねた手をそのまま取ってあたしの胸へとトンとあてられた。


その位置は、心臓のあたり。


とくんとくんと手のひらに、自分の心音を感じられる。


『陽向とは、出会ってまだわずかだけどな?』


微笑みをそのままに、ゆっくりと。


『俺なりに、陽向のことを見てきたつもりだ。してやれることは、他のやつらよりも少ないだろうけど』


そして、また反対の手で頭を撫でながら。


『陽向が誰を気にしているのかを、知ってる。だから相談できなかったのだろう? ……ジークには』


ジークみたいにステータスが見えるわけじゃないのに、どうしてわかるの?


ジークへの気持ちは少し前に自覚したばかりなのに、なんでわかっちゃうの?


どう返せばいいのか困っていると、脳内に『…ふっ』と笑った声が響く。


ん? と首をかしげると、続けて『なんせ俺は、陽向の兄貴か父親らしいからな? それくらいわかるさ』と、さっき脳内で考えたことを引き合いに出されてしまった。


「ご…っ、め…」


反射的に謝ろうととしたあたしに、アレックスはまた首を左右に振ってから。


「俺は、そのポジションでいいぞ」


念話じゃなく、耳にハッキリと響くあの声で告げてくる。


ニッと笑ってみせてから、『陽向の家族になれば、なにがあっても離れることはないだろ? 一番の場所だ、そこは』なんておかしなことを言うんだもん。


「……ぷっ」


笑ってしまう。


「あはっ…あははは。家族って…っ、あはははっ」


想像しただけで面白くって、涙が浮かぶほど笑ってしまう。


『呼んでみろ? お父さん、か? それとも、パパか?』


イケボでそんな台詞を言わないでほしい。脳内でしゃべられると、思ったよりも余計に響くのに。


「やだっ…っっ、あはははっ」


涙を浮かべるほど笑うあたしをまっすぐに、あたたかいな目で見つめたまま。


『だから、さ。パパに話してみろ。陽向が誰にも話せずに抱えている気持ちも、今回の相談についても。抱えていること、吐き出せるだけ吐き出してしまえ。俺からしたら陽向はまだ幼くて、ここに喚ばれてからこんな風に笑えもせず。甘えることもなく過ごしていただろう? パパは、なーんでも知ってるんだぞ?』


って言葉をくれてから、胸にあてたままの重ねた手に少し力を込めて。


『この胸に抱えたものなんか、軽くしてしまえ。陽向が甘えることを他の誰かが許さなくたって、俺は許してやる。お前はまだ、甘えても頼ってもいいような女の子なんだ。聖女だからって、寄りかかる場所がないのが当たり前なわけがないだろ?』


な? とでも言っているように、真っ白な歯を見せて微笑むアレックス。


『ただし、手間だけど、心の中で話をしような? カルナークに聞かれると、面倒なことになりかねん。アイツは、陽向のことが好きすぎるから』


……だって。


いいのかな。そんなの、ワガママだって思おうとしたのに?


胸の中で、そうやって自分を責めようとしたのに。


『……聞こえてるぞ? それも』


って言うの。


手を離せば、カルナークに筒抜けに。手をつなげば、アレックスに筒抜けに。


『カルナークよりは、俺の方がめんどくさくないぞ?』


反対の手でアレックスが自分の胸をトンと叩いてみせる。


まかせろ! とでも言うように。


『……しょうがない、なぁ。パパに……甘えちゃお…かな』


胸の奥に、ジークへの恋心とは違うぬくもりを感じる。


このあたたかさは、好きだ。


『おう! 話せ、話せ』


手をつないだまま、アレックスへ話しはじめたあたしは、時々笑いながらも初めてたくさんの会話をした。


あっちの世界でもこっちの世界でも、一番長くて濃厚な時間になったと思う。


直接喉を使って話をしたわけじゃなかったのに、話を終えた時には喉がカラカラで。


「氷菓子は好きか?」


と子どもに聞くように話しかけてきたアレックスに、そのまま「うん!」と素直に返す。


「じゃあ、一緒に食べよう。デザートが先になったって、俺が許すからいいことにしような!」


「うんっ!」


手を振って、アレックスを見送る。


胸元に両手を広げたまま重ねて、そこに感じるあたたかさを確かめる。


嬉しいのに、アレックスがいなくなった途端、不安になった。


こんな気持ちのまま、浄化が叶えられるのかどうか…って。


聖女が満たされたままでいてもいいの? って。


完全に不安にならないなんて無理なんだろう。


アレックスの姿がもう見えないのに、ドアを開けて廊下にもたれかかるように向かった先を眺める。


足元には、さっきアレックスが持ってきていただろうプレゼントらしきものが山になっている。


誰が持ってきたかなんて考える余裕はなかった。


ただ、なにかよくわからないけどいっぱいすぎない? と思っただけで。


今後について相談したことと向き合うのは、あたしだけ。


教会とかかわるのもカルナークと訓練をするのも、どっちもあたしにしか出来ない。他の誰にも必要ないもんね。


大器晩成型の成長速度が、どこまで速められるかわからないけれど、アレックスに時々甘えながらやるしかない。


「やるしかない……ん、だよね?」


遠く眺めた廊下の先が見えない。


今後のことも、歩いていく道もその未来(さき)も、何一つ見えてこない。


「聖女、かぁ」


未来が見える聖女だったならと思いながら、そんな便利なことが起きるわけないもんねとため息をつく。


生きるのか死ぬのかもわからない、先行き不安な日々を。


(死にたくないよ…)


願うように、両手を重ねてこぶしにしてうつむいた。




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