抱えられるもの、抱えられないこと 2 #ルート:S
ここからが、ジークムントルートになります。
~ジークムント視点~
「なーにしてくれちゃってんだよ、カルのくせに」
シファルからの報告レポートを読んで、正直イラついた。
予想通りといえば予想通りなんだけどさ、初日からコレかよ! って感情がすぐさま限界を迎えそうになる。
俺にはカルのような魔力の量もコントロールもない。
どっちかっていうと、他のやつらには出来ない根回しとか頭を使うことばっかりだ。
それと、意図せず持っている武器、ルックスの良さと人当たりの良さ。
そっちを利用して、人をつないだり離したり。
感情もコントロールしまくって、本音で話せる相手を探す方が難しいくらい。
俺とアレクは、王位継承者の一位と二位。
時にはその権力を使うこともあるけれど、今回の召喚についてはそっちはほぼ使わずに進める方向性で。
遠い昔に、その権威に目がくらんだ聖女のせいで、国が滅びかけたからだ。
(まあ、今更のように俺たちが何者なのかをひなに伝えたって、あの子はきっとなにも変わらない気がする)
妙な安心感を俺にくれる唯一の女の子、ひな。
大事にしたいと思うのに、相変わらず時々ガキっぽくも意地悪をしてしまう。
どこか懐かしくもあるこの感情に、名前はとっくに付いているんだろう。
自分らの勝手な理由で、元いた世界から喚んでしまった。
したいこともあったみたいなのに、それを叶えさせられなくなった。
ごめんねと俺がいえば、いつものように「へへ」と笑ってごまかして本音を言ってくれない。
今の俺たちが出来ることといえば、ひながこの世界でわずかでもいいから笑って過ごせるようにすること。
それと、喚びつけた理由の浄化についてのサポートをして、ひなにかかるだろう負担から早めに解放してあげること。
これまでの聖女たちが浄化してきてきた方法も呪文も、似ているようですこしずつ違っていると聞く。
浄化の後の聖女についても、それぞれで違っていたという話もどこかから入ってきていた。
あいまいな言い方なのは、その記録を紐解けるのが聖女本人だけだと言われているからだ。
紐解くキッカケも方法も、今はなにも情報がない。
父親=国王からは、その時期がくれば本人に伝わるはずだとしか聞かされていない。
協力者として出せる情報があれば、ひなに知らせてあげたいのにさ。
「に・し・て・も・だ!」
このレポートはどこかの官能小説みたいな部分もあり、そういうことに免疫がないわけじゃないのに、顔が勝手に熱くなってしまう。
カルに魔力を流されて、「……気持ちいい」って、なに? 危ないって!
それでなくても、カルには下着姿まで見られているとかいうんだし。
(でも、その状態で間違いが起きていないって時点で、カルは紳士といえば紳士で。ひなは、カルにそういった感情を持っていない……って思っててよさげなような?)
うーん……と短くうなってから、カルへの訓練についての指示をメモしていく。
禁止事項が地味に増えた気がするけど、ひなのためだからってことにしておこう。
カルも、ひなのためって言っちゃえば、それ以上のことは出来ないはず。
(そもそもで、シファルがそばにいるのに、下手な手出しなんか出来るはずがないしな!)
そういう牽制も含めて、シファルをそばに置いたんだけどね。
メモを手にして部屋を出て、カルの部屋へと向かう。
ノックをしても返事がなくて、「開けるぞ?」と言いながらドアを開けた。
カルが椅子に浅く腰かけたまま、放心したように固まっていた。
「……カル?」
ここだけ時間が止まっているかのような空気に、声をかけずにはいられなかった。
「どうかしたのか?」
肩をつかんで揺すると、やっと気づいたのかゆっくりと俺だと確かめるように視線だけあげてから。
「…………ジッ! …ジークッッ」
意識をこっちに戻してからは、目を大きく見開き、動揺を隠せずにいた。
「どうしたんだよ、真っ白になってたぞ」
顔色がこれまでになく最高に悪かった。悪いのに、最高にってのもおかしな話だけど。
「ひなと訓練したんだろ? 終わったんだよな? 今日の分。何かあったのか?」
シファルが書いていなかったことでも何かあったのかを、一応確認しようと声をかける。
「訓練……ひな……と……。ひな……」
うわ言みたいな呟きを繰り返し、ふ…と止まったと思えば。
「ぎゃあーーーーーっっ。照れる! あれはダメだろ! 反則だ!」
叫び、椅子に腰かけたまま頭を抱える。耳やら首まで真っ赤になりながら。
見てて、イラッとする。
「……なぁんか、ものすっごく楽しそうだねぇ。カル」
最後に名前を読んだ時だけに、威圧をかける。
カルの肩先が一瞬ビクンと揺れて、前傾姿勢のまま固まった。
威圧を解かず、続けて話しかける。
「ねえ、カルナーク」
普段と呼び方も変えて。
「訓練の、最中。ひなと、カルに、一体何が起きたのか。ひなになにかシたのか。カルがシたのか、サレたのか。俺に何一つ隠さずに、ちゃあん……と! 説明、出来るよね?」
言葉をわざとらしく短く切って、聞き漏らせないように、確かめるように告げた。
「これは、命令だから」
立場も年齢も上の俺からの命令に逆らえるはずもなく。
「おこ……怒らないって…その……約束を……」
視線を忙しなく動かして、懇願に近いことを呟いて。
「ああ、わかった。(なるべく)怒らない(つもり)」
目を細めて微笑む俺との約束を信じて、カルが話しはじめる。
聞くんじゃなかったとこっちが後悔するなんて思わず、「うんうん、それで?」なんて相槌を打っていたのはわずかな時間。
感情を表に出さないようにして、最後まで話を聞くという苦行にも近い……短いようで長い時間が始まった。




