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異世界転移者の孫娘は、シンデレラの魔法使いになりたいのです  作者: 相内 充希


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第4話 さあ、魔法をかけましょう

 月のしずく。

 それは妖精たちの大好物。

 満月の日、風の精霊が起こす湖のさざ波からほんの少しだけ採れる甘露。


 チナミおばあちゃんは精霊ではないのにそれを採ることが出来る稀有な存在でもあった。私も方法は教えてもらったけれど力がまだ足りないのだ。

 でも今回の仕事がうまくいけば、風の精霊は定期的に月のしずくをくれると約束してくれた。

 サンディーの友達だからというのは丁重にお断りして、仕事の報酬にしてほしいとお願いしたのは私。じゃないと意味がないと思ったからね。


「というわけで、明日から何日か向こうに行ってきます。ここまで話したんだから、あとのことはお願いね」

 おもにお父さんが心配しないようにとか、卒倒しないようにとか……。まあ、そういう面で。

「俺が気付かなかったら黙って行く気だったわけ?」

「あー、うーん、一応置手紙はするつもりだったわよ?」

 テヘッと笑ったら軽くげんこつが落ちてきた。うう、暴力反対。

 痛くはないけどさ、どちらかと言えば、何か他のことをしそうだったくせに。


「じゃあ俺も行く」

「なんで?」

「なんでじゃないだろ」

 苦いものでも噛んだみたいな顔になったロディオンは勝手に同行を決めて、しかもお父さんに許可をもらいに行ってしまった。

 でもって許可が取れたんだよ、びっくり。

 素材収集のために霧の向こうの世界に何日か行ってきます――なんて、絶対反対されるはずなのによ? ロディオンてば、なんて言って丸め込んだのかしら? 今度秘策を聞いてみよう。


   ★


 陽が沈み、西の空がきれいなグラデーションに染まるころ。

 空からは、お城への道が舞踏会に参加するための馬車でいっぱいなのがよく見える。

「男も参加するんだな?」

 隣を飛んでいる鳥の姿のロディオンが不思議そうにそう言った。

 彼がお父さんの魔法で鳥の姿になっているのは、人の姿だと連れて行くのが難しいのではとハリーとお父さんが言ったからだ。それはロディオンが大人だからって意味なんだろうけど、なぁんか納得いかないわぁ。ふん。


 まあ、そんなモヤモヤは「大人」なのでキレイに隠して、私は「そうよ」と答える。

「お妃さま候補以外にも、出会いの場であった方がいいでしょう? 見目麗しい殿方がたくさんいたほうがいいのよ。そちらに目移りするお妃さまはいらないからね」

 参加者的に美味しい場になるようにしたのは、やっぱりいたずら妖精の仕業だけど、今日の場合はグッジョブだ。たぶん今夜は見目麗しい紳士にでも化けて、女の子を誑かすつもりなんだろうなぁ。あいつ、ちょっと美人で意地悪な女の子が大好物なんだよね。

 そこまで教えてあげると、ロディオンは「ああ、あれか」と思いだしたらしい。


 そんな雑談をしているうちに、私たちはサンディーの家についた。

 継母とお姉さんたちが立派な馬車で出発するのを見送って、私はそっと玄関の戸を叩く。今日は鳥の姿ではなく老婆の姿だ。ロディオンは木の枝に隠れている。


「まあ、おばあさん。どうしたの?」

 みすぼらしくしょんぼりした姿の私が水を所望すると、サンディーは優しく飲み物をくれる。たまに迷い込む旅人に、いつもそうするように。そして汚れた手や顔を洗うといいと、洗面器に温かいお湯も支度してくれた。


 優しく微笑んでいるけれど、多分彼女は泣いていた。涙の跡が残っているもの。

 舞踏会に出たかったのだろう。愛する彼がニコラス王子だと気づいてしまったから、せめて最後に遠くからでもその姿を見たいと昨日言っていたものね。

 風の精霊が悲しそうな顔をしているから、今日も何かひと騒動あったのかもしれない。

 ふと部屋の奥に目をやると、端切れのようなものがちらりと見えた。

 ――あの娘たち、私のドレスをナイフで切り裂いたのよ。


 精霊の声なき声がそう教えてくれる。

 私のドレス……それはサンディーが大事に隠し持っていた母親の形見だ。

 じわりと怒りがこみ上げるけど、私は慌ててそれを飲み下す。

 負の感情は妖精には毒だ。美しい魔法を産むためには綺麗なものを思い浮かべ、楽しいことを考えなければ。


「ねえ親切なお嬢さん。お礼にあなたの願いをかなえてあげるわ」

 ガラガラ声でそう言った老婆(ナージャ)に、サンディーは「あら、どうしましょう」と笑う。みすぼらしい老婆に叶えられる願いを彼女なりに考えているのが分かり、思わず笑みがこぼれた。話し相手になってねとでもいうつもりだろう。


 だから私は答えを待たずにスッと腰を伸ばし、腕をあげて元の姿に戻る。

 黒いドレスはおばあちゃんが仕立ててくれた魔法使いの正装だ。


 突然自分よりも年下の娘になった老婆に唖然とするサンディーに、私はバチンと片目をつむって見せる。

「さあお姫様になって舞踏会に行きましょう。まずはドレスが必要ね」

 歌うようにして手のひらをくるんと返し、「リリ、ユユ、モモ!」と妖精を呼ぶ。昼間よく眠っていた妖精たちは小鳥の姿になり、サンディーの周りを飛び回る。無残だった形見のドレスを広げたときにはサンディーは息を飲んだけど、私が撫でるように魔法を施していき、形見のドレスをもとに流行の形に変わったのを見て両掌を口元に当てた。

 リリ達に手伝ってもらってドレスを着つけ、髪をまとめる。

 ロディオンがどこからか花を摘んできたらしく、ぱらぱらと降らせてくれた美しい花々をサンディーの髪に飾った。


 ハリーの力でカボチャが馬車に、ネズミが御者に変わる。私のイメージ通り! ハリー、さすが!


「さて最後に靴もなくちゃね」

 私はそう言って、こっそり作っていた靴をサンディーに履かせた。

 透き通るような素材で作った、薔薇の靴だ。

『ガラスの靴じゃないの?』

 ってロディオンは不思議そうだったけど、ガラスの靴じゃ硬くて踊りにくいじゃない(ええ、実験しましたよ)。だから試行錯誤した結果、この靴ができたのだ。サンディーの足に吸い付くようにフィットし、踊りやすい最高の靴。


 目を輝かせ言葉が出ないサンディーに「十二時の鐘が鳴り終わると同時に魔法は解けるから、それまでに帰ってくるのよ」と約束をして送り出した。

 うん、ここまでは計画通り!

挿絵(By みてみん)

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