第142話 カルミナ、報告する
すいません、月曜日からえげつない残業でした……。
遅れてすいません、よろしくお願いします!
城の頂上から降りていくと、慌ただしい雰囲気が全体的に広がっている。
「何かあったのかしら? ……って、冗談よ。サントさんは先に行って場を静めておいて。危険は去ったと」
「畏まりました。ミオン、お前はカルミナ様についていろ。他の者も手分けして場を落ち着かせに向かえ」
「「「はっ!!」」」
ミオンさんに聞くと、お父様は緊急時に備えて隠し通路のある部屋に行くように言われたらしいが、結局は大広間で他の貴族達と対策を練っているみたいだ。
どうやら、このご時世で城に大きな鳥を使って着陸するのはかなりの大事らしく、急ぎで色んな人が集められたらしい。平時でも大事には変わり無いが、かなりの騒ぎになってしまっている。
その点だけは怒られるかもしれないなと思いながら、その大広間へと向かっていた。
格好が魔法師に見えなくもないが、残念ながら王国専属の魔法師が着ているローブでは無いため、かなり目立つ。
ミオンさんが賊と間違われる事を危惧するから仕方なく、少しだけ遠回りをして人となるべく会わない道を進んでいった。
私なら魔法でサクサクと行けるのだが、ミオンさんが緊急時以外の城内では魔法は禁止。というルールをやたらと押し付けてくる。
本当は見失ったら困るからっぽいが、既に色々とやらかしている私が折れて、ピヨリとアトラスだけ見えない様にして普通に忍んで進む事となった。結局、やってる事はそう変わらない。
この先を曲がれば目的地に到着するが、流石に大広間の扉の前には守衛が居るらしい。けどまぁ……ここまでくれば問題は無い。普通に挨拶をしてドアを開けて貰って、お父様に軽く挨拶をして終わりなのだから。
「行くわよ」
「へ……あ、はい! お待ち下さい」
◇◇◇
『ギィィ……』と、少しだけ立て付けの悪い扉を開くと、役職や領地持ちの貴族が普段は無いが用意された椅子に腰掛けながら、アレコレと話していた。私が扉を開いた事で一気に静まり返ってしまったが。
「何……も……の……ま、まさか!?」
「あの髪や瞳。カルミナ様ではないか!?」
貴族達が今度は一斉に騒ぎ出す。その中で一番冷静な人……つまり、お父様が貴族達に一声掛けて静かにさせる。
私は一歩、また一歩と部屋の中央に向けて歩き出す。残念ながら、ミオンさんは入ることを許されて居ないらしく、今は私一人だ。
「お父様、此度は何やら騒ぎが起きてしまったようで……申し訳ございません。只今、長旅より戻って参りました」
私は隠していたピヨリを可視化させた。一瞬、貴族達の中でも戦闘に携わっている者がピリついたが、これまたお父様が落ち着かせる。手を上げるだけで反論が来ることも無く人を制すのは、人望のある証拠だと思う。
「よくぞ戻ったカルミナよ。あと、ピヨリ……でよいのかな? 随分と大きくなっているが……」
『ッピ!』
「あと、背中の子はアトラスと言って……この子もタロウの召喚した子にございます」
「タロウ! 失礼、発言をお許しください」
そう言って、私から離れた場所に居たのはタロウのお父様……たしか、リヨン伯爵だったわね。
「カルミナ様、無事にお戻りになられた事……大変嬉しく思います。それで、タロウは今……」
「リヨン伯爵、お久しぶりにございます。タロウは今、グラウェル領にてウイング様と街の補強を行っております」
私がそう伝えると、心底ホッとした様子をみせて笑みが浮かんだ。たしか、タロウがうちの両親は親バカとか言っていたけれど、家族仲が良いだけね。だって……お互いの事を話すときの表情が似ているもの。
「タロウは、カルミナ様の足を引っ張りませんでしたでしょうか?」
「いいえ……いつも私の前に立って、行く道を示してくれていました。タロウが居なければ私はずっと子供の頃の私でしかなかったでしょう。あっ、そうそう……リヨン伯爵。タロウは私が頂戴致しますわね! うん? 違うわね……私が貰われる? ま、どっちでもいいかしら。とりあえず……結婚するから」
貴族達がまた騒ぎだしたが、今度は止める者が居なかった。何故なら、誰よりもお父様がうるさくしているから。……というか、本当にうるさいわね。
◇◇◇
「カルミナ様のご婚約、ばんざーい!!」
「「「ばんざーい!!!」」」
「リヨン!! 煽るでないっ! カルミナ……まだ早いとは思わんかね? いや、結婚自体を認めない訳ではないが……タロウは領地を持てない三男坊だ。子供の頃なら、まだ冗談でリヨンとも話した事がある……」
「お父様」
一言。たった一言でその場が凍り付く。いや、ただしくは凍り付かせた。別に殺気を振り撒いた訳ではない。ただちょっと怒っただけ。
タロウとの結婚を認めない事を私は認めない。それだけは誰がなんと言おうと認めない。例え神ハルミナだろうとも……だ。
「皆様、失礼致しました。ですが、お父様? カルミナはもう良い子では無いのです。自分で自分の道を決めさせて頂きます。この国に居ろ、社交界のマナーを覚えろ……勿論、良いです。が、タロウについては何も否定させません」
誰も……何も言わなくなってしまった。少しやり過ぎたかもしれない。だが、でも、言うべき事は言っておかないと。本当はこんな感じを想定してなかったけど……。
「失礼、カルミナ様。一つだけお聞かせください。タロウの気持ちは……タロウはちゃんとカルミナ様を守る気持ちでおるのでしょうか?」
「おそらく、この世界で一番幸せなお嫁さんになるのはこの私よ」
「そうでございますか。カルミナ様、タロウをよろしくお願いします。国王様の事は私にお任せを……」
それはありがたい提案だけど、お父様はきっと心配なだけ。確かにタロウは三男でグラウェル領はウイングさんが継いでいる。
普通の貴族の三男ならば、どこかに婿に行くかコネで騎士団にでも入ることになる。
でも、タロウは違う。一ヶ所に留まらないタイプだ。私達はお父様からみればずっと子供だろうけど、もう既に一人立ちする準備は整っている事をちゃんと知って貰わないといけない。
「お父様。何も今すぐに挙式を上げる訳ではありません。世界の危機を救った後になるでしょう。魔王を倒した折には認めてくださいますか? 必ず、倒します」
「カルミナ!? 何を言っている、魔王は国中……いや他国の強者をも集めて倒す。危ないマネはやめなさい!!」
なるほど、そういう流れになっているのね。情報が無いから他国の強者がどれ程の物か分からないが、結局参加することには変わらない。
「お父様……これを」
私はピヨリに冒険者カードをお父様の所に運んで貰う。
それを手にしたお父様が目を見開くと、今度は私とカードを見比べている。
「カルミナ……これは真か?」
「Sランク冒険者 カルミナ。それに間違いはありません、ちなみにタロウもSランクです。私達はかの有名な九重莓が師匠です。他国の強者でSランクは何名居るのでしょうか? 生半可な実力じゃ、魔王ルウィンに傷一つ付けられません。五年前の未熟者であったと言っても……一度、タロウが負けたのですから」
静寂と喧騒を繰り返している大広間だが、今はその中間くらいの話し声。
ある者は黙り、ある者は口を開く。
相手は魔王。だか、強者と呼ばれる者を大量に投入すれば倒せて、そしてまた、いつもの日常に戻れると思っていたのかもしれない。
だとしたら、甘い。これは、人類が生きるか死ぬかの戦いなのだから。ありとあらゆる準備や作戦を練っても、予期せぬ事が起こり得るかもしれないのだから。
別にここに居る人達を責めるつもりは微塵も無いけど、本当に強い人以外は無駄になる。
「だが、しかし……」
「国王様。我が子を戦場に行かせたくない気持ちはよく理解出来ます。私だってそうです。息子を死地へ行かせたがる親など居ないでしょう。ですが、不思議と……我が息子なら、と思っているのも事実です。親バカかもしれません。タロウは強くなると決意して、修行に赴いたのでしょう。それはなんの為か……きっとこの世界の為、この世界に住む人達を守る為に。だから、私はタロウを信じます。そして、そんなタロウを支えてくれたカルミナ様を信じます。私達に出来る事は帰る場所を守る事では無いでしょうか? 敵は魔王だけではありません。二人が魔王を倒すと言うなら、他は引き受けなければいけない。違いますか?」
リヨン伯爵……いえ、お義父様の気持ちは裏切れない。こんなに信じてくださっているのだから。
こうしちゃ居られない、早く戻ってタロウに伝えなければ。
「リヨン……お前の親バカぶりには驚かされる。お前の息子が魔王を倒すだと? あり得んな。魔王を倒すのは我が娘よ。カルミナ=ルールトに王命を下す。魔王ルウィンを討伐し、無事に帰還せよ!!」
「はっ!!」
ピヨリがお父様から冒険者カードを返して貰い、私の所に戻ってきた所で、大広間の扉を誰かが開いた。
「緊急です!! 急ぎの為、無礼を承知で申し上げます!! ここより南東方向にて魔物の群れが確認されました!! 魔族らしき存在も確認出来ております!!」
「……準備が整った隊から出陣させろ!! 規模はどの程度かっ!?」
「はっ!! 数が多くてまだ正確な数字は判明出来ませんが、二千を越えているのは確実です!!」
……南東ね。先程、街の民にも説教をした事だし……冒険者としてやれる事はやっておかないとね。
敵が大群ならば、私の大規模魔法が最大効果を発揮できるでしょうし。
「お父様、これはグラウェル領の当主であるウイング様よりネルド兄様への手紙となっております。渡しといて頂けますか? 私はグラウェル領へと戻るついでに戦場へと寄っていきます」
「も、もう行ってしまうのか? カルミナよ……」
「えぇ、ですがまた、必ずや元気な姿で戻って参ります。ピヨリ、アトラス!! 行くわよ!!」
『ッピ!!』
『頑張るぞ~』
私達は大広間にある窓の一つから、魔物が来ているという方向へと飛び立った。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
それと、新しくハイファンタジーを投稿しました!目指すは、ほのぼの系です!
『秘境案内人』というタイトルです、まだ1話ですがお時間があればよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n8367eq/
(マイページからの方が行きやすいかも?)