第141話 カルミナ、悪ふざける
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「カルミナさん達が消えてからは大変だったんだよ? 僕達は山を探し回ったりね! 後々になって国王様から心配は無いと知らせがあったら良かったものの……それまでの間は本当に落ち着かなかったんだから」
「それはごめんなさいね。でも、タロウがいけないのよ? このままじゃ駄目だって言って、準備も無しに急に出発しだすんだから」
今ではそれが間違ってるとは思わないけど、あの時の急な宣言には本当に驚かされた。ついて行く事を決めた私も私だけど、タロウについて行けば何かが変わると思ったのよね。
「僕は心配で心配で……一日で間食を含めて五食だったのが三食になってね。それで痩せてしまったよ」
「きっちり食べてんじゃないのよ!」
それで太らないなら分かるけど、痩せられる理由が分からないわね。そういう体質なんて言い出したら叩き斬ってやろうかしら?
「でも、ハルベンデさんやキスカさんは本当に食事も喉を通らなかったみたいだよ? 手紙が届いてからは、何を決意したかは知らないけど、冒険者ギルドに入り浸る様になってたね」
「ハルベンデさんと、キスカさんが!?」
話を深く聞いていくと、今や二人ともCランクで、二人ペアならBランクにまで上がっているらしい。
ハルベンデさんが前衛でキスカさんが後衛と補助。キスカさんのその補助も強力ながら、後衛として武器となる薬品の攻撃が凶悪だと噂になっているらしい。
キスカさんの植物に関する能力がまさかの方向に開花した結果みたい。
「こんなご時世だからね……五年生は卒業の資格だけ与えられて、故郷に帰る事を許されたりしてるよ。ま、だいたいの生徒は王都に残ってるけどね」
「私……良く考えたら王族なのに学校も通ってないし、パーティーの作法も忘れたわよ?」
「それは……ハハッ」
まぁ、今気にしても仕方の無い事だったわね。パーティーは昔から嫌いだった……というか、苦手だったし。
「カルミナ様はこのまま王城へと向かうのですか?」
「えぇ、とりあえずお父様に顔を見せるわ。そしたらまたグラウェル領に戻る予定よ」
それに、ウイングさんから預かった手紙を渡す事を伝えると、気を利かせてくれたレートが乗せていってくれると提案してくれた。街に入ったら姿を消して進む予定ではあったのだけど、乗せてくれるのならその方が色々と楽ではある。
だがら私は、遠慮無く馬車の荷台にへと飛び乗った。
◇◇◇
レートの顔パスに近い検問で王都に入った私は、どこか懐かしく……それでいて少し変わって見える王都を見つめた。
そこに暮らす人、避難してきた人、帰るに帰れない人。それを目に焼き付けていた。
「ここ最近は特にね、空気が重いんだ。みんな怯えているよ、冒険者や衛兵だって怖いと思っているんだしね」
「守らなきゃ」
ポロっと出た呟きにレートは何も返さなかったが、静かに馬車を走らせて王城へと向かってくれた。
知ってるお店、知らないお店。ほとんどの人は知らない人だけど皆が大切な守らなきゃいけない人達。
手に力が入る。
「誰か!! 誰かアイツを捕まえてくれっ!盗人だ!」
「どけっ! どけどけぇ!!」
正面に見えるお店から食料を袋に詰めた男が走ってくる。
レートが操る馬車も目の前の出来事に急停車した。そのタイミングで私は馬車から飛び出し、走ってくる男の前に立ちはだかった。
どういう事情かは知らないが、今この王都で民の不安を煽るような真似は許しておけない。
「そこのガキ……どけっ!」
ナイフを片手に取り出し、脅しをかけてくるが……男の顔の方にこそ焦り、不安、恐怖が現れている。動きも単純だし荷物を持っている分バランスも悪く、速さも無い。
「盗みは犯罪……よっ!!」
「……ぐぇっ!!」
突き出したナイフを体を沈ませて回避し、そのまま足を引っ掻けて転倒させる。ついでに、下半身を土魔法で動けない様に固定して、逃げ出さない様に捕まえた。
「野菜が……勿体無いわね」
男の持っていた袋から飛び出た野菜達が地面に転がっている。
私はその一つ一つを袋に詰めて、馬車から降りてきたレートに渡した。ついでにお金を渡して買っておくように伝えた。
「ねぇ、あんた……盗みを働いた理由。あるなら聞くけど?」
「うるせぇ!! もう、終わりなんだよ! 俺の村を焼き付くした様な奴等がここにも来るんだろ!? 勝てるわけねーんだ!! 皆死ぬんだよっ!!」
その叫び声は体験したからこそ出る、真実味のある言葉だった。誰もが心の中に持っている恐怖をこの男は叫んでいた。
今さら綺麗な言葉を並べた所で響かないだろう。この男に必要なのは目に見える希望。分かりやすい奇跡。
私は決して詐欺師では無いが、世の中には良い嘘というものもあるらしい。だから、“魅”せてあげよう魔法を。
「恐怖に支配された民よ。お前の恐怖は私が振り払おう。希望を捨てるな、奇跡を信じろ、私がお前を救ってやろう」
「な……何を言って……っ!?」
タロウ流演出術其ノ一。後光を使え。
これは何か神々しい雰囲気が出るらしい。一に雰囲気、二に雰囲気と言っていた。
「お前に恐怖を植え付けた魔物より、私の方が強い」
タロウ流演出術其ノ二。話し方は威厳たっぷりに。
普通に話していたら心に残らないらしい。だから話すときは、大袈裟気味に尊大でいる事が重要らしい。
「だ、だけどアイツ等は火を吐き、空を飛び、風で全てを吹き飛ばす……そんな奴等に人間が勝てるわけ……」
「勝てる!! 人は決して弱くない!! 見ろ!!」
私は空に浮かぶ。シェリーフと訓練してようやく形になった技。そして、右手から火の玉、左手には圧縮した風の玉を作り出す。
「この火の玉は地面を溶かす。この風の玉は周囲の建物を全て吹き飛ばす。そして私は空を飛び……人間だ!! もう一度言う、不安に押し潰されるな!! 人は弱くない。決して弱くない!! 魔王は私が倒してやる。だから、生きることを諦めるなっ!!」
周囲も巻き込んでちょっとした演説になってしまったが、人が集まったならそれはそれで良い。
私は両の手にある玉を空に打ち上げ、衝突させると同時に綺麗な花へと変化させた。
タロウ流演出術其ノ三。最後は派手に。
「やり過ぎたわ!」
流石に自覚はある。遠くから衛兵が走ってきているのも見えてるし。さて、どうしようかしら? タロウならどうするかな?
「うん! 逃げましょうかねっ。レート、その野菜はここまでの運賃よ! 助かったわ」
「あ、うん! うちの店に買い付けに来てくださいね!」
「おい! 貴様、何者だ!! 降りてこいっ!」
私はその言葉を無視して、王城へ一直線に飛び出した。
――後で聞いた話によると……土魔法の解除を忘れた事により、高位の魔法師が来て救出するまでに半日も掛かったらしい。頑丈にし過ぎたかしらね?
◇◇◇
当然の事ながら、空を行くとかなり目立つ。
ピヨリがアトラスを背負って私の後を追いかけて来たのも騒ぎの原因になった。
「タロウが飛ぶときはキラキラを撒くって言ってたけど……」
私の足元から光が出てる演出をしているが……何かが違う気もする。見た感じはこの光のお陰で速さが増してる風になっている。実際はただの光でしか無いのだけど。下に居る人達は眩しく無いかしら?
そんな事を思って数分後、私は今、王城の一番上にある展望所に降り立っていた。
ここに来た事はバレているだろうし、すぐに優秀な王直轄の騎士団や魔法師団が来ると思う。だけど、私はそこから動かなかった。
一番高いという事は、それだけこの街を見渡せるという事。この綺麗な街をずっと見ていたかった。
「ピヨリは何度か来たことあるのよね、アトラス……ここが私が生まれた場所よ。綺麗でしょ?」
「凄いな~建物も人もいっぱいだぞ~!」
聞こえて来る足音を背に、私は変わらずに景色を眺めていた。そうだ、お父様に会うのに服はどうしましょ?……ローブのままで良いかな? 結構な代物だし。
「何者だ? ここを王城だと知っての狼藉か?」
殺気が凄いわね。しかも一人一人がちゃんと強い。Aランク冒険者と遜色無いと思う。少しだけイタズラしちゃおうかしら?
「勿論、知ってるわよ?」
「女……しかも子供だな。悪いが大人子供関係なく仕事をさせて貰う。その鳥と小さき者も同様に」
前にお使いを頼んだ時から更に大きくなったものね、ピヨリのこの姿じゃピンと来ないのも当然か。
私はローブの内側にある針を指に挟み、振り返ると共に投げ付ける。
「当たるかよっ!!」
一人が開戦の合図と受け取ったのか、勢い良く詰め寄ってくる。この空間だと乱戦は難しい。一対一、それ以外は退路を断つ作戦だろうか。まぁ、やり易くて私的にはありがたいけど。
「殺しはしねーが……覚悟しろっ!!」
「甘い」
殺さずに捕らえて尋問するつもりなのだろうが、子供相手だからと言ってその甘さはいけない。王直轄なら尚更に。この人は気絶して貰おうかな。
「がぁっ!? …………っ……」
「マクルート!? 死ななければそれで良い、本気でかかれ!!」
「「はっ!!」」
今指示を出した壮年の男がリーダだろうか。まぁ、それは後で良いとして……どうしようか。今度は二人、槍使いと剣使い。間合いが面倒な槍からかしらね。
「くそっ、ちょこまかと!!」
「ハーク! 呼吸を乱されるな、二人で攻め続けるぞ!!」
「うん。良いペアね。気絶は無し、とりあえず動けない様にちょっと固定するわね」
片方を掴み、もう片方にぶつけて壁際に転がす。そのまま土魔法で固定して完了。あと二人ね。
「おい、ミオン……全員連れてこい。時間は稼いでおく」
「は……はい!!」
「させないわよ。ま、通れるなら通っても良いけど」
上がって来た階段に土魔法で蓋をする。あの女の子は魔法師だろうか、魔法で攻撃しているが、壁に軽いヒビが入るだけで壊すには至っていなかった。
「……目的は何だ?」
「国王の顔を見に来たのよ?」
お父様に会って、手紙をネルド兄様に渡したらすぐタロウの元に帰るけど。
「貴様は……魔王の配下なのか?」
「はぁ? 私のどこが魔族に見えるのかしら!?」
「フードの下の顔だ。何かの模様が見えた……恐らく魔術的な何かを刻んでいるのだろう!!」
あぁ……そうだったわ。ペイント、消しておけば良かったかしら? そうよね、お父様に会うのにこの顔じゃマズイものね。
「まぁ、もうお遊びは良いか……な?」
「ちっ、本気を出すと言うことか!? ミオン、集中しろよ」
「は、はいぃ……」
凄い泣きそうだけど大丈夫なのかしら? あと、お遊びってそういう事じゃないんだけど……。
私は顔のペイントを水魔法で取り除いて、フードを外してエクストラスキル王族の威厳を使いながら告げた。
「私の名は、カルミナ=ルールト」
その一言で十分だったみたいで、気絶と固定された三人を除く、目の前の二人は片膝を着いて頭を下げた。
「第二王女、カルミナ様……帰還、嬉しく思います。どうか私の首で部下を含めたご無礼をお許しください」
「罪は負けたこと。罰を言い渡します。今後も父の為に働きなさい研鑽しなさい。より強くなりなさい。以上です」
タロウが居たら色々と言ってきそうだけど、悪ふざけをした私もより研鑽するから良い筈……よ。たぶん。
「「はっ!!」」
「はい、じゃあ今の戦闘での反省会をするわよ。そしたら、父の元に案内してよね」
リーダらしき男はサントと言って、私も会ったことあるらしいが覚えていなかった。
サントさんは私が反省会を開いた事に驚いて居たが、すぐにやるのが普通だと言ったらすんなりと受け入れてくれた。
「正直、あの第二王女様がどのような道を進めばこんなに強くなるのか疑問が絶えません」
「五年もの歳月を死ぬ気で修行したのよ。それじゃあ反省会ね。気絶君は全部駄目。強さはあるのかもしれないけど他の部分も含めてね……と、伝えて頂戴」
「うちの期待の新入りなんですがねぇ……」
それから一人一人を駄目だしして行った。第二王女という立場のお陰もあって、誰からも不満な声は上がらなかった。上がったらまた戦えたと言うのに……少し残念ね。
反省会が思ったよりすぐに終わってしまい、私は投げた針を回収して、階段に使った土魔法を解除してサントさん達を連れて階段を降りていった。
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