タイムカプセルの中のもう一つのラブレター
一度家に帰ってから、俺はタイムカプセルの中にあった玲奈の手紙を手に、玲奈の家の前に立っている。
いつだったか、もう一通の手紙が入ったビニール袋を手に、ここに立っていた事がつい数日前の事のように思える。
一呼吸おいてから、怜奈の家の門扉の横にあるインターホンを鳴らした。
「はい」
聞こえてきたのは、あの日と同じ、玲奈のお母さんの声だ。
「秋本です」
「まーくん? どうぞ、入って来て」
「お邪魔します」
まるっきり、あの日と同じことの繰り返し。
タイムカプセル。あの日、開ききれなかった何かを、今取り出す。
そんな気さえしてくる。
今日、俺は悔いを残さないように、俺の想い全てをぶつける。
その結果、玉砕してもかまわない。それが、俺の運命なんだ。
運命の扉を開ける気分で、玲奈の家の門扉を開けて、中に進んで行く。
玄関のドアが開いて、あの日と同じ黄色のトレーナーに黒っぽいジャージ姿の玲奈が顔をのぞかせた。
「何?」
表情はめっきり不機嫌そうだ。
「ちょっと、大事な話があるんだ」
「少し前にも聞いたわ。その言葉」
「あー。中里と石橋の話の時だったな。それって。
マジ、そんな話はどうでもいいくらい、大事な話なんだ。
どこかで、二人っきりで話せないかな?」
「じゃあ、私の部屋に行く?」
「ああ」
玲奈の部屋。そこに入れるなんて、浮かれている余裕はない。
真剣なまなざしで、玲奈に頷く。
玲奈が家の中に上がって行くのに続いて、俺も上がって行く。
「すみません。お邪魔します」
「どうぞ。うちに上がるのって、久しぶりね」
玲奈のお母さんはにこやかな表情だ。
その笑顔につられて、少しは俺の表情も緩んだ。
二階に続く階段。
玲奈に続いて上がって行く。
一歩、一歩、俺が玲奈に審判を仰ぐ時が近づいている。そんな気がして、俺の胸はもうばくばく状態だ。
二階にある玲奈の部屋。
玲奈に続いて、俺が入る。
玲奈は机の椅子に座って、俺を見た。
「適当なところに座って」
壁際のベッド。
そこにはぬいぐるみが並んでいて、そこに一緒に並んで座るのもいかがなものか。って、言うか、本人から言われた訳でもないのに、女の子のベッドの上に勝手に座るのはまずいか。
俺は部屋のほぼ中央に座って、玲奈を見上げた。
「で、話って何?」
「あのさ、こんな事言っても信じてもらえないかも知れないし、ろくな奴じゃないと思われるかも知れないけど、はっきり言う」
俺の覚悟は決まっている。深い息を吸い込んで、力をためた。
「玲奈の事が好きだ」
玲奈の目が大きく見開いた。
「な、な、何言ってるのよ。ばっかじゃない。
藤田さんはどうするのよ。まーくんには藤田さんがいるじゃない」
当然の質問だ。
俺の心に突き刺さる。が、想定内の質問だ。
いや、その前に、否定的な言葉が返って来なかったと言う事は、まだ望みは消え失せた訳じゃないらしい。
とは言え、受け入れてくれる保証もまだない。
「ごめん。藤田には悪い事をしたと思っている。
藤田に告られて、俺、有頂天になってしまって、付き合う事になった。
だけど、お前の事が忘れられなくて」
初めて、玲奈の事をお前と呼んでしまった。
玲奈は真剣な表情で、俺を見つめている。
俺の言葉を信じ、何を語るのかを待っている。そう言う事なんだろう。
「藤田は俺の気持ちに気付いていて、今日、あんな事になってしまった。
このままでは、俺はお前にも、藤田にも悪い気がする。
こんな優柔不断で、少しいい加減なところのある俺だ。
振られるのは覚悟の上だ。
それでも、はっきりと言っておきたかった」
一度言葉を止めた。
「俺は玲奈の事が一番好きなんだ」
玲奈は俺から視線を逸らしたかと思うと、机の引き出しから何かを取り出した。
それを俺に差し出してきた。
一通の封筒。
表には女の子の文字で、江崎玲奈と書かれているが、字は幼く、あの日、俺が玲奈に渡したタイムカプセルの中にあったあの手紙のようだ。
「これは」
「言ったよね。タイムカプセルの中にあった手紙は、まーくんが私に宛てた手紙だって。
その中に入っているわ」
「開けていいの?」
玲奈が頷くのを確認してから、俺はその手紙の中身を取り出した。
開いた手紙の中に並ぶ、稚拙で汚い文字。
俺の子供の頃の字。
そこに書かれているものを読み始めて、これが何だか分かった。
俺が書いた玲奈宛てのラブレター。
俺の顔が真っ赤になったのを感じた。




