時を超えたラブレター
小学校の頃、俺が玲奈に渡そうと、一生懸命書いたラブレター。
渡すには勇気がいった。
時々、沸き起こって来る勇気。
すぐにしぼんでしまう勇気。
そんな繰り返しで、玲奈に渡せないまま、無くしてしまったラブレター。
どこかで落とした?
あれを誰かに見られたら?
そう思って焦りまくったあの日の事が、甦ってくる。
「これ、どうしたの?
なんで、玲奈が持ってるんだ?」
「教室に落ちてたのよ。その手紙が入っていた封筒の宛名は私だったから、開けて読んだの。
でも、まーくんに、これ落ちてたよと言えないじゃん」
「ま、ま、まあ。そうだな」
「そんな時、まーくんがタイムカプセルに何かを入れるって言うから、これを入れたのよ。
タイムカプセルが開けられる時にも、まーくんの気持ちが変わってない事を祈って」
待て。
玲奈の言葉を聞いていると、今でも俺の事を好きだと言うようにも感じ取れる。
俺が戸惑っている内に、玲奈の表情はきつくなった。
「それなのに、まーくんは藤田さんとまーくん、のんちゃんなんて呼び合う仲になっちゃうし」
「待て、待ってくれ。
これを見てくれ」
俺はタイムカプセルから取り出した玲奈が俺に宛てた手紙を差し出した。
「何、これ?」
玲奈が手を伸ばして、俺の手から手紙を取った。
手紙を開いて、数秒後、玲奈の瞳が大きく見開いた。
「何、これぇ。なんで、まーくんが持ってんのよ」
さっき、俺が言った言葉を今度は玲奈が言った。
ちょっと声が大きかった。それだけ、驚いたんだろう。
少し遅れて、俺に目を向けてきた。
「タイムカプセルの中に入っていた俺宛の手紙」
「えー。あの時、結局、私は入れちゃってたって訳ぇ」
玲奈の顔が真っ赤になった。
入れていないと思っていたって事か?
「知らなかったの?」
「ごめん。迷いに迷っちゃって、私は入れたつもりなかったんだけど。どたばたの内に入れちゃってたって事みたいだね」
俺への気持ちが変わったから、告らなかった。
そう言う事ではなかった。
だとしたら、玲奈はどうするんだ。
そして、俺は。
このシチュエーション。玲奈が今でも俺の事を好きでいてくれているなら、玲奈は告ってくるかも知れない。
だが、待っていては卑怯な気がする。
俺は今、自分から玲奈の気持ちを確かめに来たんだ。
「玲奈」
後悔しないためにも、のんちゃんのためにも、俺からここではっきりさせる。
「さっきの答えが聞きたい。
俺はお前が好きなんだ。ずっと、ずっと前から」
玲奈の瞳が潤んだ。
「そんな事、今言われたって。
私だって、さっき言ったじゃない。
藤田さんはどうするのよ。
それだけじゃないよ。まーくんは小嶋さんにも、でれでれしてるじゃない」
「小嶋さんは関係ないだろ」
力強く否定した。
この言葉だけは自信がある。
のんちゃんと付き合っていなかったなら、飛びついたかもしれない。
でも、のんちゃんがいると言う気持ちがブレーキになって、小嶋さんにやましい感情は抱いていない。
だが、のんちゃんとの事は別だ。否定できない事実だ。
「俺、のんちゃんには振られた」
そう。俺が振られた。
それ以外、ここで言う言葉は見つけられない。
ごめん。のんちゃん。
俺は心の中で謝った。
この言葉を口にした以上、玲奈に振られたからと言って、のんちゃんに戻る事もできなくなった。玲奈に振られた後で、のんちゃんと元通りになれば、俺は玲奈に嘘をついた事になってしまう。
俺にだって理性的には分かっていた。
のんちゃんを選ぶべきだと言う事が。
だから、そのつもりで、俺は玲奈に振られるために、ここに来たはずだった。その可能性が高いとも思っていた。
が、どうやら、運命は違う方向に向かっているらしい。
そして、今、俺は全てを失うか、玲奈を手に入れるかの勝負の時を迎えてしまった。
今の俺には、この勝負、それだけの価値がある。そんな気がしてならない。
「本当に?」
俺が振られて、不幸な身の上だと言うのに、玲奈の顔には少しばかりのうれしさが浮かんでいる気がするのは、俺の願望がそう見えさせているのか?
「ああ。マジな話だ。
俺の本当の気持ちに気付いていて、俺は振られた」
「じゃあさ。藤田さんに振られたから、私って訳?」
そ、そ、それは違うんじゃね?
元々好きだった玲奈に戻ったわけだろ。と思わない訳じゃないが、この話をしてしまうと、俺が振られたと言うより、俺がのんちゃんを振った事になってしまう。
俺がのんちゃんを振った。
そんな話をすれば、玲奈はのんちゃんに気を使うかも知れないし、そんな話が広まればのんちゃんを二回傷つけてしまうことになる。
「ごめん。そう言うつもりはないんだけど」
玲奈は俺をじっと見つめている。
続く沈黙。
「告られて、浮かれてしまったばかな俺を許してくれ」
玲奈が俺から少し離れたかと思うと、さっき俺が渡したあの手紙を読み始めた。
「私、まーくんの事好きなんだ。
何年後かな?
タイムカプセルを開けた時、私の気持ちは変わっていないはず。
その時、勇気を出して大好きだって、言うからね」
玲奈が手紙から目を離して、俺をじっと見つめた。
「そうよ。あの時の気持ちは今も変わってなんかいない。
だから、よく聞きなさい」
もっとロマンチックに「好き」とか言ってくれるのかと思ったら、最後は威張り気味だ。
「私はね。まーくんの事が大好きなの。
藤田さんなんかに負けないわよ。
だって、ずっと、ずっと好きだったんだからね」
そう言い終えたかと思うと、玲奈は人差し指を立てた右手を差し出して、俺に向けてきた。
「いい?」玲奈に付きまとっていた男と出くわしたあの日、そう言った玲奈の姿と被る。
のんちゃんとは全く違うタイプ。
かわいさでいけば、のんちゃんの方が女の子らしくて、かわいいはずだ。
だが、威張りんぼで、気の強い玲奈をかわいいと思ってしまう。
どうやら、俺の好みのタイプは玲奈なんだろう。
「ありがとう。玲奈」
くすっと笑い気味に答えた。
「何がおかしいのよ」
「いや、そんな玲奈がかわいいなと思っただけだ」
「ばかにしてるんじゃないよね?」
「当たり前だろ」
そう言って、俺は玲奈の腕をとって、引き寄せた。
「玲奈の事が大好きだ。俺もずっと、ずっと好きだった」
この言葉にはちょっとだけ、嘘が混じっている気もした。
中学で接する機会が薄かった頃、俺の心の中で玲奈への想いは。まあ、今はそんな事はどうでもいい。
接近した二人。キスだ。キス。
じっと玲奈を見つめ、そっと顔を近づけはじめた。
「何する気よ。いやらしい、いやらしい」
玲奈は俺の事を両腕で押しのけた。
その顔は真っ赤だ。
「私はそんな事させないんだからね。
分かった?」
また、人差し指を立てた右手を差し出しながら、玲奈が言った。
俺は叱られている子供の気分だが、玲奈の口調がやけに早口なの事に気付いていた。
玲奈は動揺している。
ここは一つ、強引にもう一度引き寄せてみると言うのもありか?
「分かってるよ」
そう言いながら、玲奈を引き寄せて、両腕で抱きしめた。
玲奈の胸のふくらみを感じる。女の子はやっぱ柔らかい。
「玲奈。俺はもうお前を離さない」
玲奈が俺の胸の中で、頷いたのを感じた。
愛おしい。
やっぱ、俺は玲奈の事が一番好きだったに違いない。
玲奈が欲しい気はもちろんあるが、今はこのままでもいい。
こうしているだけで、俺の気持ちはほこほこと幸せになってくる。
タイムカプセルは時を超えて、俺たちに手紙を運んできた。
手紙をくるんだビニール袋の汚れは、流れて行った長い時を染みつけていた。
でも、俺たちの想いはその時の流れを超えて、結びついた。
きっと、この想いはずっとずっと続くに違いない。
そんな想いで、俺は玲奈を抱きしめ続けた。
俺はその後、のんちゃんにも、石橋にも詫びた。
石橋は「頑張れよ。俺も中里に猛攻をかけるから」と笑ってくれた。
のんちゃんは「分かっていた事なんだから」と言って、悲しげな顔を俺に向け、俺との接触を避けるようになってしまった。
ごめん。のんちゃん。
そう心の中で、何度も詫びた。
小嶋さんには「カノジョが自分よりかわいい小嶋さんに近づかないでって、言うんだよね」と言って、友達と言う間柄も解消した。
そして、玲奈。
のんちゃんに遠慮してか、学校ではいつも通り、俺に厳しく接していた。誰が見ても、付き合っている二人になんか見えやしない。
だが、外ではデートを重ねる間柄になった。
とは言え、未だキスさえしていないし、態度は学校の時と変わらず、いばりんぼだ。
でも、そんな玲奈の事が大好きでしかたないのが俺だ。
タイムカプセルに入れられていたラブレター。
俺はそれに感謝している。
きっと、俺たちの想いは時を超えて、続くに違いない。
そう信じて。
まず、はじめに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結できましたのも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださった皆様のおかげです。
私的には、ごく普通の男の子を描いたつもりです。
もちろん、「俺は好きな子がいるのに、告られたからって、他の子とつきあったりしねぇよ」とか、「女の子には簡単に手を出そうとしたりしねぇよ」とか言う方も大勢いるのかも知れませんけど。
私的イメージの中にある、ちょっと普通の男の子が色々と迷いながら女の子と付き合い、危ない行いもあったりしましたけど、最後はきらりと輝く純さを見せてくれたかな? と思っています。
ですけど、「ハッピーエンドじゃねぇよ!」と、思われたかも知れないですね。
確かに、のんちゃんの立場ではそうなってしまいます。
全員がハッピーなんて、滅多に起きえないものだと思います。
ハッピーな人もいれば、そうでない人もいる。
でも、それは最初から決まったものではないと思うんです。
もしも、玲奈ちゃんが主人公の隣の席でなかったり、中里さんと言う存在がいなかったり、あの時、のんちゃんと一線を越えていたら、結末は変わったはずです。
もちろん、タイムカプセルの中の手紙も一役買っていますし、のんちゃんが主人公の心の奥の気持ちに気づいていなかったら……。
ちょっとした事で、世界は変わって、誰がハッピーになれるかは分からない。
そして、今ハッピーでない人がずっとハッピーでないと言う事もないと思うんです。
のんちゃんには、この先、もっといい未来が待っているはずです。
感想などいただければうれしいです。
どうも、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
そして、週末にでも活動報告書きますけど、この作品で投稿の方はしばらくお休みに入ります。
色々ありがとうございました。




