↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おかえり!妖精の家へようこそ ~スキル図鑑で家族が増えていく物語~  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/58

第49話 牧場の管理者



 翌朝。


 俺たちはクローバーと一緒に、冒険者ギルドへ向かっていた。


 風車小屋で与えられた猶予は一週間。


 妖精の牧場で魔物たちを保護できるようになったとはいえ、ギルドへ報告しなければ、問題が解決したことにはならない。


「皆さんまで来ていただいて、すみません」


 クローバーが申し訳なさそうに頭を下げる。


「妖精の家のことを説明できるのは、俺たちだけだからな」


「私一人では、信じてもらえなかったと思います」


 クローバーは胸元で両手を重ねた。


 魔物たちは妖精の牧場に残している。


 昨日までのクローバーなら、少しの間でも離れることを不安がっただろう。


 だが、今朝は一匹ずつ体調を確認したあと、ミルクバッファローの首を撫でて家を出てきた。


 妖精の牧場なら安全だと、少しずつ信じ始めているらしい。


「大丈夫だよ!」


 俺の肩に座っていたピクが胸を張る。


「妖精たちが見てるから!」


「ありがとうございます、ピクさん」


「さんはいらないよ!」


「では、ピクちゃん」


「うん!」


 ピクは満足そうに笑った。


     ◇


 町へ到着すると、俺たちは冒険者ギルドの奥にある応接室へ案内された。


 部屋では、風車小屋で会った監査官のバルトが待っていた。


「来たか」


「報告に来ました」


 クローバーが頭を下げる。


「魔物たちの受け入れ先が見つかりました」


「ずいぶん早かったな」


 バルトは俺たちを順番に見る。


「妖精の家という場所か?」


「ああ」


「魔物を何匹も飼育できる施設が、本当に存在するのか?」


「昨日、《妖精の牧場》が完成した」


「昨日?」


 バルトの眉が動いた。


 俺は妖精の家について、説明できる範囲で話した。


 異なる空間に存在する安全な家。


 許可された者だけが扉を通れること。


 内部には庭や泉があり、魔物を受け入れるための牧場が新しく作られたこと。


 牧場には草地と水場、雨風を防げる飼育小屋もある。


 バルトは途中で何度か質問したが、最後まで黙って聞いていた。


「話だけ聞けば、非常に都合のいい場所だな」


「嘘ではありません」


 クローバーが真剣な表情で告げる。


「広い草地があります。怪我をした子を分けて休ませる場所も、綺麗な水場もありました」


「俺たちが確認することはできるか?」


「それは……」


 俺はすぐには答えなかった。


 妖精の家へ誰を招くかは、慎重に決めなければならない。


 バルトは俺の反応を見て、小さく頷いた。


「無理に入ろうとは思わん。安全な場所であるほど、場所を隠す必要もあるのだろう」


「信用してくれるのか?」


「すべてを信用したわけではない」


 バルトは机の上へ一枚の書類を置いた。


「だから、別の方法で確認する」


 書類には、保護している魔物の種類と数を書く欄が並んでいた。


「クローバーから定期的に報告を受ける。新しく保護した魔物、野生へ戻した魔物、死亡した魔物。それらをすべて記録してもらう」


「分かりました」


「人を襲った魔物を、無条件で保護することは認められない。危険な個体を見つけた場合は、必ずギルドへ報告すること」


「はい」


「町の周辺で、勝手に魔物を集めることも禁止だ。保護が必要な場合も、可能なら先に相談してほしい」


「約束します」


 クローバーは迷わず答えた。


 バルトはしばらく彼女の顔を見つめたあと、書類へ印を押す。


「ならば、仮登録を認める」


「仮登録……?」


「クローバーを、魔物保護施設の管理責任者として登録する」


「私が、管理責任者に?」


「三か月間、問題が起きなければ正式登録へ切り替える」


 バルトは書類をクローバーへ差し出した。


「これがあれば、許可なく魔物を奪おうとする者に対して、ギルドへ保護を求められる」


 クローバーは両手で書類を受け取った。


 書かれている文字を、何度も読み返す。


「この子たちを……守れるんですね」


「規則を守っている限りはな」


「ありがとうございます」


 クローバーは深く頭を下げた。


     ◇


 手続きを終え、ギルドを出る。


 クローバーは書類を胸元へ抱えたまま、何度も確認していた。


「そんなに見ても、内容は変わらないぞ」


「分かっています」


 クローバーは少し恥ずかしそうに笑った。


「今までは、魔物を連れているというだけで追い払われました」


 怪我をした魔物を治療していると説明しても、信じてもらえなかった。


 危険なテイマーだと言われ、町から追い出されたこともあったらしい。


「初めて、私のしてきたことを認めてもらえた気がします」


「まだ仮登録だけどな」


「それでも十分です」


 クローバーは書類を大切そうに鞄へしまった。


「クローバー」


「はい」


「妖精の牧場の管理を、正式に任せたい」


 クローバーが足を止める。


「私に、ですか?」


「あの牧場について一番詳しいのは、クローバーだ」


「でも、あそこは皆さんの家の一部ですよね」


「だからこそ任せたい」


 俺たちには、魔物を飼育した経験がない。


 牧草がどれだけ必要なのか。


 どの魔物を同じ場所へ入れてよいのか。


 怪我や病気へどう対応すればよいのか。


 クローバーがいなければ、何も分からない。


「居候だから働けと言っているわけじゃないぞ」


「分かっています」


「嫌なら断ってもいい」


 クローバーは少し考えたあと、自分の胸へ手を当てた。


「任せてください」


 その声に迷いはなかった。


「私が、あの子たちが安心して暮らせる牧場にします」


「よろしく頼む」


 クローバーが嬉しそうに微笑む。


 だが、そのあとで、少し不安そうに目を伏せた。


「一つだけ、聞いてもいいですか?」


「ああ」


「牧場の仕事が終わったら、私はどこへ行けばいいのでしょうか」


「どこへって……」


「魔物たちは牧場で暮らせます」


 クローバーは指先を強く握る。


「でも私は、皆さんの仲間でも、家族でもありません」


 クローバーが不安に思っていたのは、仕事のことではなかった。


 魔物たちの居場所は見つかった。


 それでも、自分の居場所までは見つかっていない。


「昨日、一緒に食事をしただろ」


「はい」


「今日も一緒に食べる」


 クローバーが顔を上げる。


「明日も、その次の日もだ」


「でも……」


「帰る場所は、妖精の家でいい」


 クローバーの目が大きく見開かれた。


「私も、帰っていいのですか?」


「ああ」


 俺が答えた瞬間、《信頼の器》が温かな光を放った。


【《信頼の器》が新たなつながりを確認しました】


【クローバーを家族として認めますか?】


 目の前に、光の文字が浮かぶ。


 俺は迷わず答えた。


「認める」


【クローバーが新たな家族として認められました】


 クローバーの身体が淡い光に包まれる。


「これは……?」


「《信頼の器》が、クローバーを家族だと認めた」


「家族……」


 クローバーは胸へ手を当てた。


 続いて、《スキル図鑑》が開く。


【家族が習得している未登録技能を確認します】


【《飼育》を登録しました】


【《給餌》を登録しました】


【《魔物知識》を登録しました】


【《意思疎通》を登録しました】


【《動物治療》を登録しました】


【現在の登録率:七十五%】


 一度に五つの技能が登録された。


「クローバーの技能が、図鑑に登録された」


「私の技能が?」


「ああ」


「私は……皆さんの役に立てたのでしょうか」


「もう十分すぎるほど役に立ってるよ」


 ラベンダーが笑う。


「牧場ができたのも、クローバーがいたからだしね」


「薬の知識も教えていただきました」


 ピーチも頷く。


「これから一緒に、魔物たちの治療方法を考えましょう」


「わたしも、魔物が好む植物について教えていただきたいです」


 ローズも続ける。


 ピクがクローバーの目の前へ飛んでいく。


「クローバーは、もう家族だよ!」


 皆に囲まれ、クローバーの目に涙が浮かんだ。


「私が……家族」


「帰ろう」


 俺は妖精の家へ続く扉を呼び出した。


「みんなが待ってる」


     ◇


 扉を開くと、牧場から大きな鳴き声が聞こえた。


「モォォ!」


 ミルクバッファローが草地を駆けてくる。


 クローバーが戻ったことに気づいたらしい。


 羊の魔物たちも、その後ろを追いかけていた。


「ただいま」


 クローバーが牧場へ入る。


 ミルクバッファローは勢いを落とし、クローバーの胸へ大きな鼻先を押しつけた。


「心配をかけましたね」


「モォ」


「もう大丈夫です」


 クローバーは鞄から書類を取り出した。


「私たちは、ここで暮らしていいそうです」


 言葉の意味は分からないはずなのに、ミルクバッファローは嬉しそうに鳴いた。


 その時。


 ピクが家の前から大きな声を上げた。


「クローバー!」


 妖精たちも、窓や庭から顔を出している。


 ピクが両手を広げる。


「おかえり!」


 クローバーは驚いたように立ち止まった。


 それから、涙を拭って笑う。


「はい」


 魔物たちに囲まれながら、クローバーは初めてその言葉を返した。


「ただいま帰りました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。