第四話 アニメオタクの接着くん
これはまずった、僕はここでバレるのか? 醜態をさらさないといけないのか? さようなら、僕の高校生活。
「もしかして、九界の英雄好きなの? 私も大好きだよ!」
九界の英雄? 僕がアニメを見るきっかけになった伝説の神アニメの名前がなんで今ここででるんだ。耳付近に九界の英雄を感じさせるようなものはつけていないはずだ。
「このキーホルダーどこで買ったの? 私も欲しいな、アンタエウスバージョン!」
どう誤魔化そうか迷う必要なんてなかった。キーホルダーのことだったのだ。確かに、僕はカバンにキーホルダーを付けている。でも紛らわしすぎるぞ。推しキャラは僕と違うみたいだったし。
「アンタエウスが一番好きだったりします? 僕はボレアスが好きなんですよね。あの風を操る時の冷静さとか、本当に神で、いやぁ、それだけでなく――」
「あ……」
心の底から多幸感があふれ出てしまっていた。いきなりこんなしゃべりだしたら。僕は最初の“友達”にもきもいと思われてしまうのか。
「ボレアスもいいよね! でもでもでもね、アンタエウスが四元素を操る時の指の動かし方とか表情とか、何よりもハーフアップ男子!! もうビジュアル爆発してるんだよ!! それにヒロインのアフォディとの関係も尊――」
「あ……」
僕はアニメオタク。そして、江森さんもきっとそうだろう。今まで心にまかれていた鎖が解かれた気がした。
「ふふっ! やっぱり、陰乃くんと一緒に帰ってよかった! 九界の英雄、今度一緒に見ようね! また明日」
「うん、また明日」
僕は流れで、さっと言ってしまった。「今度一緒に見ようね! また明日」この言葉を聞いただけで明日の体育は乗り切れると思った。
僕は家に帰ると、荷物を置いてリビングへ直行した。
「どうだった? 初日の学校は」
そう聞かれると、僕は一ミリの迷いもなく答えた。
「久しぶりに、楽しかったかな。一応……友達? もできたし」
僕が言うと、母は泣きそうにも、嬉しそうにも見える顔でほほ笑んだ。そんな母に隠し事をしていると思うと後ろめたさがある。でも、そんな母だからこそ心配をかけたくない。女手一つで育ててくれた母に親孝行どころか親不孝だらけだ。
「よかった……! じゃあ明日からも頑張んないとね」
「うん、頑張るよ」
まずは明日の体育から。
◆◆◆
翌日。僕は八時半までについていればいい学校に六時半に来ていた。誰もいないだろうという気持ちで教室に足を踏み入れると、そこには江森さんがいた。それだけでお花畑にでもいるかのような感覚に陥る。ほかにも、旭野さんもいる。秘密がばれている以上迂闊にはいられない。
「おぉ! びっくりした。陰乃くん、おはよう」
「接着くんはよー。相変わらずみんなはやいねー」
それは僕のセリフだと思うのだが。それはいいとして、接着くんはまずい。ここでバレるわけにはいかない。特にオタク仲間(仮)の江森さんの前では。
「ちょ、え、あ……僕陰乃です……」
「え? もちろんしってるよ? もうクラスの全員の名前覚えたんよねー」
何というスピードなんだ。僕なんてまだ二人しか覚えてないのに。なんなら下の名前は怪しいまである。僕は、そんな旭野さんに腰を抜かしつつも自席についた。
「ちょっとー? 接着くんってなに? もうそんな二人で仲良くなってる感じなんだ? やっぱり昨日他教室に連れて行ったのは……」
江森さんの口がへの字になっている。それに細目。早く弁解しなければ。
「え、いや……その、なんといいますか…」
喉で唾が妨害していて声が出せない。
「えーとね、昨日接着剤もってたから? かな」
旭野さん気が利く! 口が堅いのは本当だったらしい。
「ま、まあそんなところです……」
「ふーん、そうなんだ」
一瞬この場が凍ったかと思った。
朝からいろいろ心臓に悪かったが、無事、ホームルームが始まった。
「おはよー。今日なんだが、二十日後に体育祭がある。だから、今日の三・四時間目はその練習だ。四人グループでやるからグループは授業前までに決めとけー」
担任である高橋は僕の、みんなに、それだけを言った。月曜日の朝のようだ。 僕……陰乃 宗太郎。グループ活動歴十年目にして、ポジションは余りだ。そう、僕にグループができるわけがなかった。




