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前世殺し屋令嬢が今世では魔物を殺しまくっていたら魔物専門騎士団長に見初められました  作者: よしゆき


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 リベリオの屋敷へと帰ってきた数日後。オルガは彼の部屋を訪ね、頼み事をする。


「リベリオ様、私と一緒に写真を撮っていただけませんか?」

「写真? 何かに必要なのか?」

「お義母様にプレゼントして頂いた服を着ているところを写真に撮って送りたいと思いまして」

「なるほど。それは両親も喜ぶと思うが……それならオルガが一人で撮った方がいいんじゃないか?」

「いいえ、きっとリベリオ様と一緒の方が喜んでいただけます。だからお願いします」

「君がそう言うのなら、俺は構わないが……」

「ありがとうございます、リベリオ様」


 そんなわけで、オルガはリベリオが休日の日に一緒に写真を撮る事になった。


「今日は私にお任せください! お二人の最高のツーショットを撮ってみせますので!」


 ベルティーナは眼鏡を光らせ胸を張る。彼女に写真を撮ってほしいとお願いしたら二つ返事で引き受けてくれた。

 撮影場所は屋敷内の広い客間だ。

 オルガの衣装は義母からプレゼントしてもらった十数着のドレスやワンピースだ。それならリベリオもそれに合わせた方がいいとベルティーナのリクエストにより、彼はスーツ姿だ。


「では撮りますよー」


 最初は普通に二人並んで写真を撮った。

 ベルティーナはいつも元気だが、今日は特に生き生きしているように見えた。


「では次は腕を組んでくっついてください!」


 ベルティーナの指示が飛ぶ。

 リベリオはたじろいだ。


「い、いや、それは……」

「さあ早く! お二人は夫婦なんですから、仲睦まじい姿を見せてください!」


 ベルティーナはカッと目を見開き、有無を言わせないオーラを醸し出している。

 引き下がってはくれなさそうなので、オルガは彼女に従う事にした。


「よろしいですか、リベリオ様」

「あ、ああ……」


 恥じらうリベリオの腕に腕を絡ませる。

 シャッター音が響いた。


「では次はお姫様抱っこしてください!」

「いや、さすがにそれは……」

「夫婦ならそれくらいできるでしょう!?」


 ベルティーナの勢いに押され、リベリオは何も言えなくなる。


「いいだろうか、オルガ……?」

「はい、お願いします」


 オルガは軽々と彼の腕に抱き上げられた。


「重くありませんか?」

「あ、ああ……」

「いい! いいですよ、お二人とも!」


 ベルティーナは息を乱しながらシャッターを押す。


「今度はオルガ様を片腕に抱える感じでお願いします!」

「こ、こうか……?」

「バッチリです!」


 シャッターを押しながらベルティーナは次々と指示を出してくる。


「次はオルガ様を肩に座らせてください! オルガ様はリベリオ様の頭に抱きついて!」

「すみません、失礼します、リベリオ様」

「っ……」


 顔を赤くして硬直するリベリオの頭をそっと抱き締める。


「お二人とも視線はこっちに!! いい! 素敵です!」


 ベルティーナはパシャパシャとシャッターを切った。

 オルガは別の衣服に着替え、再び撮影する。

 今度はオルガが椅子に座り、リベリオが傍らに立った状態で撮る。


「次はリベリオ様が座ってください! そしてオルガ様はリベリオ様の膝に座ってください!」

「えっ!? いや、だが……」

「夫婦ならそれくらいします!!」


 リベリオはやんわりと拒否しようとするが、やはりベルティーナの勢いに押し切られる。


「すみません、では座りますね」

「う……あ、ああ……」


 リベリオの膝の上にそっと座る。彼はガチガチに固まっていた。


「リベリオ様表情が固いです! もっとリラックスして!」

「ぐっ……」

「でもまあそれも初々しい感じが出てていいでしょう!」


 それからもベルティーナの指示はとめどなく飛び出してきた。


「次はリベリオ様がバックハグです!」

「リベリオ様、跪いてオルガ様の手を取って!」

「リベリオ様は椅子に座って、オルガ様はリベリオ様の肩に肘をついてください!」


 リベリオはポーズを変えるたびにダメージを受けたように消耗していっている。オルガは彼に一緒にとお願いしたのが申し訳なくなってきた。

 しかしベルティーナの勢いはもう止まらない。

 オルガは衣服を変えながら、彼女の指示に従っていく。

 三、四人掛けのソファの上に移動すれば、再びベルティーナは容赦なく指示を出してくる。


「リベリオ様は正面を向いて座って! オルガ様はリベリオ様の肩に頭を預ける感じに横向きで座ってください!」

「今度はリベリオ様がオルガ様の肩に凭れて! 甘えるような雰囲気を出して!」

「オルガ様はソファに横になる感じで! ソファに座るリベリオ様の膝に脚を乗せてください!」

「オルガ様は床に座って、ソファに座るリベリオ様の脚に腕を絡めて! 体を密着させて!」


 リベリオは何か言いたそうだったが、ベルティーナの圧におされて最早何も言えなくなっていた。


「ああ! いい! すごくいいですよ!! リベリオ様もオルガ様も最高です! さあもっとお二人の素敵な姿を見せてください!!」


 ベルティーナは興奮に眼鏡を曇らせ何十枚と写真を撮っていく。ちゃんと見えているのだろうか。


「はあっ、はあっ……素晴らしい! 完璧です! お似合いです、お二人とも! ああ、もっともっと絡み合うお二人が見たい……!」


 ベルティーナは涎を垂らしていた。

 そんなメイドの姿を見て、オルガは彼女に撮影役を頼むべきではなかったかもしれないと思った。

 ベルティーナが満足するまで撮影は数時間に及び続けられた。終わる頃にはリベリオはすっかり憔悴していた。


「お二人のお陰で、バッチリいい写真が撮れました!」


 ベルティーナはいい笑顔で親指をグッと立てる。


「この中から、送る写真を私が選んでオルガ様に渡しますね」


 そういえば義父母に送る為の写真を撮っていたのに、何故かベルティーナの為に撮っていたような気持ちになっていた。義父母に送るには多すぎる枚数の写真を撮られた。


「お願いします、ベル」

「お任せください! 折角ですから、リベリオ様とオルガ様の部屋にも飾りましょう」


 ベルティーナはほくほくした笑顔で片付けをはじめる。

 予定とは大分違う感じになったが、いつもお世話になっている彼女が楽しそうだからまあいいか、とオルガは思った。

 だがもしまた写真を撮る事になったら、今度はベルティーナ以外の人に頼んだ方がいいかもしれないとも思った。






 その日の夜。入浴を済ませたオルガは寝巻き姿でリベリオの部屋を訪ねた。


「どうしたんだ、オルガ?」


 彼も既に寝巻き姿だった。


「少しお時間よろしいでしょうか?」

「あ、ああ……」


 リベリオは戸惑いつつもオルガを部屋に招き入れる。


「今日はお疲れ様でした。折角の休日に申し訳ありませんでした。長い時間付き合わせてしまって」

「いや、悪いのは暴走したベルティーナだろう……」

「それもそうなのですが、リベリオ様と一緒に撮りたいと言ったのは私なので。だから、リベリオ様の疲れを癒したいのです」

「別に、気にする必要はないぞ」

「そうおっしゃらずに。私がリベリオ様に何かしたいのです」

「君が、そう言うのなら……。だが、一体何をするんだ?」

「マッサージです」

「マッサージ? 君が俺にするのか……?」


 リベリオは驚いている。マッサージなんて言われるとは思わなかったのだろう。


「そうです。ベッドにうつ伏せに寝てください」

「え、本当にするのか……?」

「リベリオ様が嫌だとおっしゃるならしませんが」

「い、嫌ではないが……」

「ではどうぞ」


 当惑するリベリオをベッドへと促す。迷いつつも彼はオルガに従いベッドに上がった。

 オルガもベッドの上へ移動し、膝立ちの状態で彼の体を跨ぐ。


「はじめますが、もし嫌だったら言ってください。すぐにやめますので」

「わ、わかった……」

「では失礼します」


 オルガは布越しに彼の背中に触れた。固くて厚くて広いリベリオの背中を丁寧に揉み込んでいく。

 彼の大きな体はなんともマッサージのし甲斐がある。オルガは鍛えられたしなやかな筋肉をゆっくりと揉み解す。


「っく……」


 リベリオの口から小さく声が漏れ、オルガは手を止めた。


「すみません、痛かったでしょうか?」

「いや、違う……。その、気持ちよくて……」


 リベリオは驚きと感心の混じった声で言う。


「知らなかった。オルガはこんな事もできるんだな」

「いつか役に立つかと思いまして、前に本を読んで勉強したんです」


 マッサージを再開しながら適当な嘘をつく。

 本当は前世で身につけた技術だ。

 とある殺しのターゲット。その人物はいつも傍に護衛を沢山つけていた。狙撃にも常に注意を払っていた。だが、行きつけのマッサージ店で施術を受ける時だけ護衛を外で待たせ無防備になる。そのターゲットを殺す為にオルガはマッサージの勉強をして技術を磨いたのだ。そしてそのマッサージ店に潜入し、時間はかかったが無事に仕事を果たす事ができた。

 それ以来マッサージの知識と経験を披露する事はなかったが、一度徹底的に身につけた技術は今でもしっかりと覚えている。

 まさか再びこうして誰かをマッサージする事になるなんて思っていなかった。


「リベリオ様、力加減は大丈夫でしょうか?」

「ああ……」


 リベリオの声は眠そうに掠れていた。

 最初は体が強張っていたが、今ではすっかり力を抜いて身を任せてくれている。

 できるなら着ているものを脱いでもらって、オイルを使ってマッサージしたかった。その方が効果がある。だがそれはきっと断られると思ったので言わなかった。オルガは全く気にしないが、彼はオルガの前で肌を晒すのは抵抗があるだろう。

 肩、背中、腰を、丹念に時間をかけてマッサージしていく。

 いつしか彼の寝息が聞こえてきた。そっと顔を覗き込めば、リベリオはすっかり眠ってしまっている。

 彼の疲れを癒す事はできただろうか。

 穏やかな寝顔。耳に心地よい静かな寝息。

 暫くじっとそれを堪能していたオルガは、やがて彼の傍らにそっと寝そべった。

 どうしてそんな事をしたのか、自分自身わからない。

 ただリベリオの寝顔を見つめる。

 はじめて見る彼の寝顔は起きている時とは違いあどけなく、少し幼く見えた。

 ぐっすりと眠る彼の寝顔を見つめ、寝息を聞いているとオルガも眠気に誘われた。

 オルガは誰かと一緒に寝た記憶がない。

 前世では家族も恋人もいなかった。心から信頼できる者などいない。自分に関わる者全てが、次の瞬間には襲いかかってくるかもしれない。

 いつ誰に命を狙われるかもわからない日々。常に警戒し、ほんの少しも気が抜けない。そんな環境で、誰かと一緒に眠るなど不可能だった。

 でも、今は違う。

 この屋敷には、使用人達が沢山いる。でも彼らは絶対、オルガを害する事はない。寧ろ何かあれば全力でオルガを守ってくれるだろう。

 そして目の前で眠る彼も。

 もしオルガに危険が迫れば、リベリオは必ず守ろうとしてくれる。

 疑いもなくそう思えた。

 前世では誰一人信用できる者などいなかったのに。今では自分を守ってくれると思える者がいる。

 つまり自分は彼らを信頼しているのだろう。

 前世では誰も信用できなかった。信用してはいけないと思っていた。いつ裏切られるかわからない。常に人を疑い、距離を保つ。それが当たり前だった。

 だから、不思議な気分だ。

 彼は決して自分を傷つけないと、確信を持ってそう思える事が。

 そしてそれはリベリオも同じなのかもしれない。彼はこうして無防備に寝顔を晒している。

 目の前で眠ってくれる事が一番の信頼の証に思えた。

 オルガはゆっくりと瞼を閉じる。

 リベリオの寝息が聞こえる。彼の気配をしっかりと感じる。

 人が傍にいるのに、警戒心は微塵も湧かない。

 寧ろ彼の存在が心地よく、オルガを眠りへと誘う。

 自分は誰かの隣で眠れる事などないと思っていた。

 それなのに、手を伸ばせば触れられる距離に人がいるのに、オルガはどんどん眠気に襲われる。

 そしてそのまま眠りに就いていた。






 翌朝。


「うわぁっ……!?」


 すぐ近くで慌てふためくような声が聞こえ、オルガの意識は浮上した。瞼を開けば、顔を赤くして驚愕の表情を浮かべるリベリオの姿があった。


「おっ、お、オルガ……!? どうしてっ……何故君がここに……!?」


 リベリオはかなり動揺している。

 寝ていた体を起こし、オルガは思い出す。そういえば自分はあのまま彼のベッドで彼の隣で眠ってしまったのだと。


「すみません、昨日、マッサージの途中でリベリオ様が眠ってしまって」

「あっ……ああ、そういえば……」

「眠っているリベリオ様を見ているうちに、私も眠ってしまいました」

「そ、そう、なのか……」


 リベリオは困惑している。それはそうだろう。朝起きたらいるはずのない人が勝手に隣で寝ていたのだから。

 今更になって自分はとても厚かましい事をしてしまったのだという事にオルガは気づいた。許可もなく、人のベッドで勝手に眠るなど、図々しいにも程がある。


「申し訳ありません、リベリオ様。大変失礼な事をしてしまいました」

「え、あ、いや……そんな、謝る事では……」

「いえ、私はしてはいけない事をしてしまいました。本当に申し訳ございません。二度とこのような事がないようにします」


 オルガは深く頭を下げ、呆然とするリベリオを残し部屋を出た。

 自室に戻り、オルガは自分の失態を反省する。

 そもそも何故自分はあんな事をしてしまったのだろう。リベリオの隣で眠るなんて、今、冷静になって考えたらあり得ない。

 考えなくてもわかる事だ。勝手に人のベッドで寝るだなんて常識はずれもいいところだ。

 だというのに、どうして自分はそんな馬鹿な真似をしてしまったのか。

 リベリオは怒らずにいてくれたが、心の中でははしたない女だと軽蔑していたかもしれない。

 同じ失態を犯さない為にも、きちんと自分の行動の理由を突き詰めなければならない。

 自分は何故あの時、リベリオの隣に身を横たえたのか。

 眠かったから? 疲れていたから?

 いや、それはない。疲れや眠気を感じていたとしても、少なくとも自分の部屋に戻れない程ではなかった。

 では何故か。

 リベリオは眠ってしまったのだ。自分は部屋に戻ればよかったのに、そうしなかった。

 彼の傍にいたかった? 離れたくなかった?

 自覚はないが、自分はそんな風に思っていたのかもしれない。彼の存在を近くに感じていたいと。

 もしかして自分は、彼に甘えたいのではないだろうか。無意識にそう思い、あんな行動に出てしまったのではないか。

 今まで誰かに甘えたいだなんて思った事などなかったから自分の気持ちがわからなかった。

 でもきっと、そうなのだ。自分はリベリオに甘えたいのだ。

 いつの間にかそんな欲求が芽生えていたのだ。

 彼への信頼からくる気の緩み。無意識に、彼に甘えたい、彼は甘えてもいい存在なのだと勘違いしてしまったのだ。

 だが、リベリオはオルガが甘えてもいい人ではない。

 結婚はしているが、それは形だけのものだ。

 仲は悪くないし、少なからず互いに信頼し合っている。けれどそれは利害が一致したパートナーとしてだ。

 リベリオはオルガに恋愛感情を抱いているわけではない。

 オルガに甘えられても彼は困るだろう。リベリオは優しいので強く拒みはしないかもしれないが、彼には迷惑でしかないはずだ。

 オルガとリベリオの関係がギクシャクして、今の円満な結婚生活が壊れてしまうかもしれない。

 そうならない為にも、今後二度と彼に甘えるような事はしてはいけない。

 今回のようについうっかり無意識に甘えてしまわないようにきちんと対策をしなくては。

 オルガは自分のすべき事を考えた。







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