表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロマンチスト・ソウル  作者: タイラ
五章 「散った桜の罪と罰」
51/51

50話 『事情聴取』


「『大量殺戮犯 嵐山 桜』だってさ〜」


 傷一つない真っ白な車は、高速道路を凄まじいスピードで駆け抜けていく。


 長い茶髪にスーツの女は、ケラケラと笑いながら、ダッシュボードに足を乗せた。


「『母体』としては中々、いいんじゃない? ちょうど人権もパーでしょ。あのいけ好かない『ガキ』も、たまにはやるじゃん?」


 運転席に座るメガネの男は、ハンドルを握りながら怪しげに笑った。


「今日も面白いモノが見られそうですね……」



 一人後部座席に座る肥った男は、大きく席を使い、堂々と鎮座していた。


─────


 皆既は、俺たちに罪を問うつもりは無いと言っていた。

 だからこそ、桜の弁解ができる場面はここしかないと分かった。


 桜のようなケースは稀だ。

 人々が『能力』を得たとて、暴力や略奪が横行したり、社会秩序が崩壊しきったわけじゃない。

 だから、『能力犯罪』に対する法律は、未だに安定しきっていない。


 桜にもやむにやまれぬ事情があった。

 それを証言すれば、情状酌量の余地があるかもしれない。


 ……でも、それは本当に桜が望んでいる事か……?

 罪から目を逸らして、生きていくことを望むのか?


─────


「もう、一人で立てるか?」


「はい。……ありがとうございます」



 車から降りると、皆既と豪千に連れられ、建物の中へと案内されていく。

 綺麗に整えられた廊下が、静かな威圧感を与えてくる。


「…………」


 やはり、『波』が読み取れない。

 ずっと当たり前のように感じられていた事が、突然分からなくなるのは、怖い。


 人は皆、他人の感情が分からない世界で生きて来たんだなと、改めて実感させられる。

 どれだけ、これまでの自分が『残響』をアテにして来たのか、身に染みて感じた。


─────


 屋敷の広間に繋がる、大きな扉の目の前まで連れられた。


「……事情聴取とは言うが、別に俺らは君たちを犯罪者として扱うつもりは無い。リラックス……はできないだろうけど、そこまで固くならないでほしい」


 皆既はさらに、静かだが強い口調で続けた。


「『質問』に答えてくれれば、分かる」


 そう言うと、扉へと向き合い、ドアノブをひねった。



「お、来た。思ってたより遅かったね」


「あぁ。……ちょっとね」


 ドアの先には、金髪にピンク色のメッシュを入れた美しい女性が、ソファの上で寝転がっていた。

 女性は身体を起こすと、俺と鋼をその目でじっくりと見据える。


「……普通の男の子二人……って感じ……」


「っ……」


 その異様に妖艶な雰囲気に、少しばかり恐怖心を覚えた。

 皆既は、招くような仕草で、女性の隣に座った。


「二人は、そっちのソファに座って。豪千は悠真と鋼のとなりに」


 皆既に指示された通りに、ソファへと座り、皆既と向かい合う。


「………………」


 豪千は黙って、静かに俺たちを見ている。

 俺たちが変な気を起こさないよう、圧をかけているようにも感じる。



「『甘夏』、能力は今は使わなくていいから」


「りょーかい」


 甘夏と呼ばれた女性は、真っ赤にネイルされた爪先を弄る。

 そして、ゆっくりと顔を上げて、微笑んでみせた。


「っ……!」


 「ゾクッ……」とした感覚が背筋を突き抜け、心臓の鼓動が速まっていくのが分かる。

 女性に耐性はあると自負していたが、これは……飲まれかねない。



「それじゃ、始めていこうか」


 皆既のその声で、さらに場の空気が締まった。

 鋼がつばを飲み込む音が、やけに大きく聞こえてきた。


「……あの、その前に一つ、いいですか……?」


「? どうしたんだい?」


「鋼を縛っている縄だけ、解いてほしいです」


「………………」


 俺の要求に、鋼は呆然と俺を眺めている。

 皆既は、静かなトーンで答える。


「その縄は能力を封じる効果があるんだ。鋼君の磁界を操る能力は、解き放ったらこちらにとって不都合なのは、分かるだろう?」


「……それでも、お願いします。鋼も、能力は使わないので」


 そう言い切ると、皆既は少しだけため息をついた。


「……らしいけど、鋼君本人はどうしたいの?」


 鋼は肩をビクッと震わせたあと、少し俯きながら答える。


「能力は、使いません……だから、お願いします」


「……わかった。信じるからな」



 鋼の縄を解きながら、皆既は静かに思考していた。


(形式だけでも、『拘束されている』という事実は、メンタルに大きな負担を与える。それに、あくまで『事情聴取』というていでの『対等』な場に持ち込んだか……やっぱり、『慣れてる』な)


 解き終わると、皆既はもといたソファへと座り直し、二人を真っ直ぐ見つめる。


「さて、そろそろ本題に入らせてもらう。まずは、嵐山 桜について、詳しく聞きたい。大量殺戮に至った動機や、その顛末てんまつなど諸々を、『君の口から』話してくれ」



 その言葉に感じた違和感。

 皆既も、妹の千夜と同じように、『心が読める』のではないか?

 だからこそ、あえて俺たちの口から語らせる事で、『それ以外』の事も読み取ろうとしている。



 浅かった息を整え、皆既の冷たい目と目を合わせる。


「桜は、幼い頃から失った両親の代わりに、三人の弟を身一つで育てていました。でも、村の人達に嵌められ、信仰されていた『神』への生贄として捧げられる事になり、殺されかけました」


「………………」


 話しているうちにも、皆既の目の鋭さが増し、鋼の表情が青ざめていくのが横目に映る。


「桜は自分の身を守るために、その場にいた人間を、自らの能力を用いて殺害しました」


「……なんでその場に『居なかった』人間まで殺したのか、分かるか?」


「っ……」


 桜を守るような言い方は、いくらでも出来る。

 でも、違う。そうじゃない。

 今の桜に、そんな生温い脚色は要らない。


「……おそらく、弟を殺された怒りと絶望で自暴自棄になり、長い間溜め込んでいたものが爆発したんだと思います」


「……なるほど」



 そこまで聞いた甘夏は、静かに足を組み変えた。


(……多分、この子の話に出てきた『生贄信仰の神』っていうのが、あの未登録の『先駆者』でしょう……ここまでなら、私は同情の余地くらいはあるんじゃないかと思うけど……でもなぁ……)


 甘夏は、静かに手を挙げた。

 そして、悠真へと視線を預ける。


「その桜ちゃんは、それ以外で人を殺したりした?」


 悠真は、甘夏を見据え、はっきりとした口調で答える。


「少なくとも、俺は見ていません。……それに、ご存じかは分かりませんが、『大蛇』についての一件で、人々を守るために身をていし、大蛇を操る術者にそそのかされ向かってくる人達にも、刃を向けることはありませんでした。そして……」


 その時、皆既が手を挙げ、悠真へと訊く。


「切っちゃって悪いんだけど、『大蛇』関連の事について、もう少しだけ説明してもらっても良いかな?」


「『大蛇』は、一人の人間の嘘により生み出された存在で、独立して行動できる『使い魔』のようなものでした。『大蛇』は『信者』によって存在を保っており、俺の能力で信者に『嘘だと伝える』事で、撃退しました」


「……それが全貌かぁ……それでごめん、続き話してくれ」


 悠真は、また軽く呼吸をすると、語り出す。


「『大蛇』は、おそらく術者を殺す事でも、消滅させる事が可能でした。それでも、桜は確実に殺せる場面で、刃を術者本人には向けなかった」



 それを聞いて、豪千は顎に手を当てた。


(一度『殺す』という行為を行った人間は、今後、何をするにも『殺す』という選択肢が過るようになる……だが、自他共に窮地の状況で、安易に『命を奪う』という決断に走らなかったのは、一考の余地があるよな……)



 皆既は、少しだけ俯いて、目元に手を添える。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「最後の質問だ。これは、悠真と鋼自身に問いたい」


 あまりにも冷徹な語り口で、皆既は切り出した。


何故なぜ、命の価値は平等なのに、虫を殺しても罪にならず、人を殺したら罪になると思う……?』


─────


 桜は、隔離施設の牢に幽閉されている。

 厳重に拘束された身体は動かせず、能力も封じられ、完全に囚人の様相を呈していた。


 ただ、黙って、眠っているかのように目を瞑っている桜を、監視役として場に残されたファザーは、冷静に見定めていた。


(『死』が迫っている状況だと言うのに、あまりにも静か……覚悟が決まっているように感じる。この方の厳罰は免れないでしょうが、その時はせめて、なるべく人道的なやり方で……)


 桜が囚われている部屋を、外から眺めるファザーは、ぎゅっと固く目を瞑った。



 ファザーが目を閉じたその瞬間、やけに乱雑な音を立てて扉が開けられた。

 ファザーは驚き、咄嗟に振り返ると、目を見開き、半歩後退りした。


「……『上層部』の方々……何用でここへ……?」

(全く気配を感じなかった……)


 茶髪の女は、軽い足取りで堂々と室内へと入っていく。


「なんでって……そりゃ、桜ちゃんと『お話』しに来たんだよ。あれ、あの『ガキ』から伝わって無い?」


「存じておりません。……なぜわざわざ……?」

(嫌な予感がします……)


 女は、部屋の奥の桜へと、指を指す。


「前々から言ってたじゃん。『産刑法案』。それに、ちょっと桜ちゃん借りたいな〜って。返さないけど」


 それを訊いた瞬間、ファザーの目が一気に血走る。


「ならばお帰り下さい……!!」


 ファザーは、手元にある縄の端を強く引いた。

 すると、部屋中に張り巡らされた黒い縄が、一気に三人へと向けられる。



「……がはっ……」


 しかし、次の瞬間に膝をついて倒れたのは、ファザーだった。


(何を……された……!? 攻撃の予備動作すら見えなかった……)


 崩れ落ちたファザーの腹を、女はさらに蹴り上げた。


「がっ……!」


 ファザーは凄まじい勢いで吹き飛び、壁へと叩きつけられる。

 そして、ひび割れたコンクリートの塵と共に、脱力しだらんと倒れ伏せた。


「おじいちゃんはおねんねしててね」



 その様子を、桜は檻の中から静かに見据えていた。

 茶髪の女は檻へと近寄ると、桜に下卑た薄ら笑いを浮かべた。


「とりま、今絶賛人権パーの桜ちゃんに、大事なお話するから、よく聞いてね」


 めつける桜を意にも介さず、茶髪の女は続ける。


「桜ちゃんには、『国のために』、た〜くさん、子供を産んでほしいんだ」



 「産刑」という名称は、村田沙耶香氏の小説『殺人出産』より着想を得て、お借りしています。

 設定や世界観は、本作独自のものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うわあぁ……グロいよぉ。ゾワゾワするよぉ……(´;ω;`) 悠真が肝座りすぎてて、どんどん一般人から逸脱してきてますね! いや、拘束されてる鋼の縄を解いてくれって自分から頼める大学生、肝が据わりすぎ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ