21話 「分断点」
「琉琉助、俺、千秋楽山を降りるよ。……もう、帰ってくる気は無い」
「えっ……」
突然あいつはそう言った。
風が生温い夏の夕方だった。
蝉の鳴き声がひどく遠くに聞こえる。
「琉琉助。お前は『仙人』として、これからも山の上から人を見守っていくんだろう。俺は、『強者』として、人々を纏めて、導いていきたい」
「なんでだよ、そんな、急に……」
「『赫阿修羅』に皆、殺された。仙人達全ての力を結集しても、封印がやっとだった」
「っ……」
「その未来は避けられなかったのか?」
言葉に詰まった。
何を言えばいいのか分からなかった。
「……ああ。避けられなかった」
「……いつか『赫阿修羅』は復活するんだろ? その時、俺達だけで勝つことなんて到底できない。人間達の力が必要なんじゃないのか?」
人間達の力……!?
俺たち仙人は、『能力者』は、人と関わらない事で均衡を保ってきたはずだ。
それを、まさか。あり得ない。
「本気で言ってんのかよ……」
「未来視れば分かるだろ。俺は本気だ。『強者』だけが責任と犠牲を払うだなんてごめんなんだよ」
「…………」
「俺は人々を導く」
駄目だ。
そんな事はしてはいけない。
『強者』が力を見せびらかせば、必ず世界は崩れる。
『強者』と『弱者』の世界が出来てしまう。
「今後、復活した『赫阿修羅』に勝つ算段はある……! だから……!」
「……〈それ〉をお前に実行する勇気があるのか? 琉琉助」
「っ………!」
またしても何も言い返せない。
当然だ。■■■■■■するだなんて、そんな事……できるわけがない……!
大勢の為に、一人を犠牲にするのは正しい事なのか……!?
「……だから中途半端なんだよ。俺は意思を曲げない」
「待てよ『金華』……! 俺は……!」
俺はお前とだけは、未来じゃなく、イレギュラーに変化し続ける『今』を生きたかった。
その言葉が、口から出ることは終ぞ無かった。
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「相手は初手で俺達をランダムな場所に飛ばしてくる。準備しておいて」
「はい」
ついにこの時が来てしまった。
1秒1秒に、緊張が走り、冷や汗が伝う。
「悠真」
それを察したのか、桜が俺に声をかけた。
「あぁ」
覚悟はもう、決めてある。
今日の夕焼けは、不気味なくらい紅かった。
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「相手は未来視えてるから、ここは迷わず、堂々と行こう! 導鏡、準備は出来てる?」
「はい。術を発動します」
『童子』が合図を送ると、浮かぶ大きな鏡のうえに座る銀髪の女が答える。
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「皆、そろそろだよ」
「!……はい。」
琉琉助が未来を予知し、カウントダウンを始める。
「10……9……
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『童子』は導鏡に合図を送りながら、カウントダウンを始める。
「8……7……
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「6……5………
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「4……3…
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「2……1……
「2……1……
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「「0」」
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「能力『天功鏡』」
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悠真は、山の何処かに転移させられた。
「っ……!」
ここ……何処だ?
一瞬周りが光ったと思ったら、次の瞬間には飛ばされていた……
琉琉助の言う通り、転移させる能力……
いつ敵襲が来るか分からない、警戒しておかないと……
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「転移は完了しました。『童子様』はどうなさいますか?」
導鏡は、鏡の上で座禅を組みながら、『童子様』に問う。
「俺は琉琉助に久しぶりに会いに行ってくるよ。あ、それと……後で菊ちゃんにも連絡しておくから……」
「随分と用意周到なんですね?」
二人の会話を遮るように、男の声がした。
「びっくりさせんなよ……『森主』 久しぶり。元気してt」
言い終わる前に、キュピーは地面から先端が尖った木を生やし、『童子』に向けて繰り出す。
その木を、『光線』が焼き飛ばす。
「チッ……」
「『童子』様に無礼ですよ」
(あの女の光線……鏡から放つ感じですか。)
キュピーはさらに木を伸ばし、『童子』を捉える。
「『童子』様、ここは我々に任せて下さい」
「あぁ。頼んだよ」
『童子』は導鏡に軽く手を振った後、軽々と木の間を飛び越えて逃げていく。
「……どういうつもりですか? 私に一対一で勝てるとお思いで?」
「……いえ。貴方に一対一で勝てる確証は有りません。ですから……」
導鏡の周囲に、大量の鏡が出現する。
「ここから一気に叩かせてもらいます」
大量に浮かべられた鏡の中から一人ずつ出て来る。
やがてそれは、先駆者の軍勢へと成る。
「なるほど。そうやって大軍を移動させるのですね」
「逆に、貴方はこの人数相手に一人で戦うつもりですか?」
導鏡は顔色一つ変えずに、鏡の上からキュピーを見下ろす。
「皆様、あの男を倒し、山の中へと攻め込みましょう」
導鏡の合図とともに、大軍は山の中へと足を踏み入れていく。
キュピーは、導鏡を見てニヤッと笑った。
「貴女は大変な思い違いをしていますね」
「……なんですか」
「こんな羽虫共、いくら用意したって何の意味も無い」
「……!?」
導鏡は何かを察知し、声を荒げる。
「皆様! 戻って! これはっ……」
「遅ぇよ」
次の瞬間、山に踏み入った大軍を、大量の蔦が襲い、地面の中へと引きずり込んでいく。
先駆者達の必死の抵抗すら、もはや何の意味も成さなかった。
「な……え……」
導鏡が目を開け唖然としているうちに、大軍の悲鳴はやがて聞こえなくなった。
「何が……起きて……」
「土に還ってもらいました。山の養分として有効に再利用させてもらいます」
「ふ、ふざけないで下さいっ!!」
導鏡は大量に浮かべた鏡から、無数の光線を打ち出す。
それをキュピーは木を生やして簡単に防ぐ。
「貴女も養分になって下さい」
「……舐めないで下さい……貴方程度、私一人で十分ですっ……!」
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時は全員がランダムな場所に飛ばされたときまで戻る。
(……ここは……山の麓? 随分な距離飛ばされたな……)
桜は刀を抜き、自身に向けて飛ばされる『燃える羽』を叩き落とす。
そして、その『羽』を飛ばしてきたであろう張本人のいる方へと目を向ける。
「随分と手荒じゃない?」
「あぁ、ごめんごめん。女の子だったか! 俺、迦楼羅。よろしく〜」
赤い髪に、燃える大きな翼を生やした男は、自身の羽を指先で弄りながら、こちらへと歩いてくる。
「てか君めちゃくちゃ可愛いね。どう? 全部忘れさせてあげるくらい良い思いさせてあげるからさ、俺と遊ばない?」
桜は迦楼羅に刀を向け、額に青筋を浮かべながらニヤリと嗤った。
「そのナンパ、成功したことないでしょ。村のジジィ共のほうがまだ、誘い文句はマシだったけど?」
「……ぁ゙?」




