22話 「途切れた道を繋ぐのは」
「……獬豸。お前をこの先に行かせる訳にはいかんのじゃ」
獬豸は応えることなく、次の瞬間には地蔵に向かって拳の一撃を繰り出す。
「ぐっ……!」
それを地蔵は両腕でなんとか受けるも、衝撃で大きく仰け反る。
獬豸はそのまま掌を開く。
「『壊雲』」
「がっ……」
獬豸の掌から放たれた『霧』は、一瞬のうちに地蔵の身体を破壊し、細かな石片となって散らばっていく。
「……一体目」
地蔵が破壊された直後、道に並べられていた別の地蔵が動き出し、獬豸に向かって拳を振るう。
獬豸は無言で向かい来る地蔵に『霧』を放つ。
「っ……!」
再度地蔵は粉々になって散っていく。
「……二体目」
獬豸は、次から次へと襲い来る地蔵を、淡々と破壊していく。
その様相は、「戦闘」というより、もはや「処理」だった。
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「そのナンパ、成功したことないでしょ。村のジジィ共のほうがまだ、誘い文句はマシだったけど?」
「……ぁ゙?」
迦楼羅の目に、一気に殺意が宿る。
桜も先ほどの笑みは消え、冷徹な表情で刃先を迦楼羅に向けている。
迦楼羅は燃える羽を自身の周りに浮かばせ、その先端を桜に向ける。
桜は全身の血管を「ギュリギュリ」と音を立てながら浮き上がらせていく。
それを見た迦楼羅は、軽蔑し、冷めた声色で言い放った。
「グッロ。女捨ててんね」
桜は自身の刀に手を掛け、腰を落とし、迦楼羅を見上げる。
「いいよ。代わりにアンタの命貰うから」
(相手は油断している。狙うなら今、一撃でカタをつける)
桜のふくらはぎに、血管が一気に浮き上がる。
(かつて会得し得なかった『嵐山流』の究極奥義)
それは、超速の居合。
相手に反応する暇すら与えず、一撃で屠る確殺の一閃。
桜は地面が割れるほどの凄まじい踏み込みで刀を振り抜く。
(奥義『命日桜』)
(……は……!?)
迦楼羅が桜の姿を見失った時には、既に迦楼羅の首は宙を舞っていた。
そのまま首は地面に転げ落ち、身体の方も脱力して地面に伏せた。
しかし迦楼羅が倒れたあとも、羽は桜にしっかりと向けられ、その命を狙って襲い来る。
「っ……!」
桜は向けられた羽を全て斬り伏せ、舞った火の粉が風に吹かれて飛んでいく。
桜が迦楼羅の亡骸の方に目を向ける。
「っ……!?」
そこには、確実に殺したはずの男が、目の前に立っていた。
「残念。あれで殺せたと思った? 無駄無駄」
炎の色が、先ほどよりもより紅く染まっている。
迦楼羅は両手を広げ、嘲るような声色で続けた。
「だって、俺の誘い『断っちまった』もんな?」
桜は何かを察し、刀に手を掛けたまま距離を取る。
「……そういう事かよ」
迦楼羅が全身に纏う炎が、深紅に染まる。
「覚醒能力『魔女狩りの紅炎』……!」
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覚醒能力『魔女狩りの紅炎』
発動条件『声掛けを断られる』事
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悠真はただ一人、暗い森の中に立ち尽くしていた。
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(悠真は自分から戦地に行くのは駄目だ。『出番』が来るまでとにかく生き延びる事だけ集中しろ。あ、それと、『記憶の逆流』も使っちゃ駄目だからな。)
by琉琉助
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「とは言われたけど……皆戦ってんのに俺だけ待機って……」
(ガガガガガガガガガ……!!)
突然脳内を揺らすような『波』が何処かから響いてくる。
「この『波』……敵か……!?」
悠真は警戒し周囲を見渡すが、敵の姿は見えない。
しかし、『波』の主は確かにこちらに近づいてきている。
「まさか…、地面のっ」
『波』の震源が自身の真下まで来ている事に気付き、地面を凝視する。
足元の地面が大きな「ボゴッ」という音を立てて盛り上がった。
「っ……!」
危険を察知し直ぐにそこから離れる。
その直後、地面が蹴り上げられ吹き飛び、地中から男が飛び出してくる。
「ハッハッハッハ!! 地面の中を泳いだのは初めてだ!」
(こいつは……!)
悠真はその男を見た瞬間に悟った。
(飢餓天狗と同格の強者……!)
「人の気配がしたから出てみたら……お前、仙人か?」
「違う」
奴は少し悲しそうな顔をした。
「そうか……やはりな。俺は強いやつにしか興味が無い……道を開けるなら戦わなくて済むが……?」
『波』が、奴は嘘をついていないと言っている。
実際にここで奴を見逃せば、戦わなくて済む。
「……目的は」
「『童子』が『赫阿修羅』ってのを復活させたいらしくてな。まぁ……俺はここに強い奴がいるって聞いたから便乗してきただけだ。確かにどいつもこいつも粒ぞろいだな。お前を除いて」
「……俺を見逃したらどうする」
「別の強い奴を探して襲う」
清々しい程の即答に、緊張が走る。
既に他の皆が戦闘を始めているのは『波』から分かる。
全員ギリギリの膠着状態だ。
そこにこんな奴を投入してしまったら、一気に崩されかねない。
「じゃあ……」
「……?」
「先ずは俺を倒してから行けよ」
奴はため息を付いた。
「命拾い出来たのにな」
奴は裏拳で軽く近くの木を打つ。
直後、木が大きな音を立ててへし折れる。
「……!」
「俺は『柳祭』 能力は『八砕剛拳』 一打の拳で八打の衝撃が奔る」
「そのタイプのって二打までがお約束じゃない……?」
「お前も名乗れ。能力は明かさなくていい」
「いいのか……? 不平等だけど」
俺の問いに、柳祭は軽く笑ってみせた。
「強者がハンデを渡すのは当然の事だ」
「……俺は蓮界 悠真。能力は『残響』 人の感情や記憶を読み取れる」
柳祭は困ったような顔をした。
「言わんでも良かったのだが」
無自覚な『強者の煽り』に少しイラついたので、俺もあえて煽り返す。
「負けた時の言い訳にされたくないんでね……!」
柳祭は俺の煽りを、笑って流した。
「口だけは達者なようだ」
二人は構え、向き合う。
空間に静寂が広がっていく。
先に仕掛けたのは、柳祭だった。
凄まじい速度で悠真との距離を詰め、拳を振るう。
(能力の発動が『拳』のみで、『腕』に作用しないとするなら……!)
悠真は柳祭の右腕を払い、攻撃をいなす。
そして、カウンターの左ストレートを打ち込む。
「ほぅ……」
柳祭は悠真のカウンターを、首を反らすだけの最小限の動きで躱し、払われた右腕で裏拳を入れる。
「っ……!」
悠真は裏拳をギリギリで避けるも、少し体勢が崩れる。
そこを狙い踏み込んだ柳祭は、右横蹴りで追撃を行う。
悠真は素早くステップを踏み、身体を横に反らすことで蹴りを避ける。
そして、大きく踏み込み柳祭の顔面に右ストレートを放つ。
(『層合気』……!)
「っ……」
柳祭は悠真の拳を両手でガードし、受け止める。
悠真は素早く距離を取り、構え直す。
「なるほど……基礎はそこそこか。悪いな、遊びすぎた。ここからは本気で行こう」
次の瞬間、先程とは比較にならないほど凄まじい速度で距離を詰め、悠真に拳を振りかざす。
(段違いのスピード……!)
悠真はそれを大きく後ろに下がって躱すが、さらに柳祭は連打を繰り出し追撃する。
悠真は攻撃をいなすことに集中し、猛攻になんとか食い下がる。
「っ……!!」
そして、連撃の中に一瞬だけ見えた『隙』
そこに向かって、渾身の力を込める。
(ここ……! 『層合気』!)
「わざとだよ」
柳祭は悠真の足を軽く払う。
すると、悠真は簡単に重心を崩した。
(足でも能力発動できんのかよ……!)
拳に力を込めていた悠真は、前傾姿勢で倒れ、腹部に拳が向けられる。
「ぁ゙っ………ごぉ゙ぉ゙っ……!!」
悠真は鳩尾を思い切り殴り飛ばされ、地面を転がっていき、木にぶつかって倒れ込む。
「ぅ゙っ…………っ…………ぅ゙〜…………」
(息を吸ってるはずなのに……空気が入ってこねぇ……!)
「情けないな。陸に打ち上げられた魚のようだ」
柳祭は悠真がダウンしたのを確認し、背を向け、去っていく。
「ゲホッ……ゴォッ……ま゙だだろ……」
「!」
柳祭が振り返った時には、悠真は立ち上がっていた。
肩で息をし、震えながら、なんとか立っているのが分かる。
そして、ノロノロと柳祭に歩み寄り、拳を振り上げる。
柳祭は再度悠真に向き直り、拳を叩き込む。
「ごぉ゙っ」
悠真はまたしても吹き飛び、今度は木に叩きつけられる。
「ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙…………!」
それでも、悠真の目は死んでいなかった。
倒れてもなお、その目は鋭く柳祭に向けられている。
「…………」
柳祭は困惑していた。
目の前の『弱者』が、地面を這いずってまで自身に牙を向けているこの状況に。
「ぉ゙ごっ…………」
「ぁ゙がっ……」
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙…………」
何度殴り飛ばそうと、立ち上がり、自身を倒そうと拳を振るう。
目の前にいる『弱者』は、柳祭の知っている『弱者』ではなかった。
柳祭の口角は、無意識に上がっていた。
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能力の覚醒は、些細なことがきっかけになっていることも多い。
意思、行動、感情の動き、知り得なかった新たな感覚、それらが新たな高みへと導く。
そして、『覚醒能力』には、一つ、不変のルールがある。
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吹き飛び、血を吐き、それでも立ち上がり続ける。
柳祭は『弱者』と向き合い続け、今までの闘争には無い感覚を得ていた。
(なんだ……この……悦楽は……)
倒れても倒れても、立ち上がり、それを叩き潰す。
何度でも何度でも立ち上がり続ける『弱者』を前に、初めて抱いた『一方的な蹂躙の快感』
「ハハッ……!」
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覚醒能力の、絶対不変のルール。それは、
『全ての人間が覚醒する可能性を秘めている』
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「覚醒能力『百貫魔拳』」
柳祭は悠真目掛け、宙を拳で打つ。
空が穿たれ、張り裂け、凄まじい炸裂音が響く。
「は……………」
悠真が気づいた時には、左耳は削げ、背後の木々は荒くへし折れていた。
「ぁ゙…………ぁ゙ぁ゙がっ……ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!」
「ちゃんと当てたつもりだったが……初めてでまだ勝手が分からんな」
悠真の耳からサラサラと血が流れ出ていく。
悠真は 死 を悟った。
「ほら、どうした? 立って魅せろ」
ゆっくりと歩み寄る柳祭を映さずに、悠真は走馬灯を見た。
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「意外とな、助けた人って、助け返してくれるもんなんだよ」
「それ、何回目の話?」
いつだったかもはっきりとは覚えてない、親父との晩飯の雑談。
多分、中学生くらいだったかな。
「前に、ひったくりに遭った女の子からカバン取り返してやったらよ、その子が今度は、俺が落とした財布拾って、交番に届けてくれてたんだよ! 凄くね?」
「はいはい凄い凄い」
「え、本当に結構凄いよな?」
「いや凄いけどマジで何回も聞いてるからそれ……」
うどんを啜りながら、適当に返す。
「ね? 母さん?」
「そうねぇ……それで出会ったわけだし」
「たまたま同じ学校だったんだっけ?」
「そうそう。ま、結局何が言いたいのかって言うとさ。人助けって、実質的には他の人がやるべきだったことを奪ってるわけだろ? お節介とも言うな」
「……うん」
「だから、取り返しに来るわけよ。取られた分の『出番』をさ」
「…………〈それが『助け合い』の仕組み〉でしょ。何回も聞いてるから」
でも、そんな都合良く人が動くとは思えないし、思わないほうが良いと思う。
その思考で行くと、人を助けた後に、『お返し』が発生しないと納得いかないようになってしまうから。
恩返しなんて求めてたら、無意識にも打算してしまうようになって、動けなくなってしまうから嫌だ。
俺はあくまで自分が助けたいと思ったから勝手に首突っ込んでるだけだ。
あの時の鋼みたいに。
それでも一つ、聞きたいことがあった。
「どうしようもなくなった時に、誰も助けが来なかったら、どうするの」
親父は、ちょっと考えるような素振りをしてから、向き直った。
綺麗な目をしていた。
「そりゃあ……助けが来るまで耐える。やることやってたら、いつか来るから。日ごろからできる人助けはやっとけよ」
何回も聞いてた話だけど、なんだかんだ言って割とこの話自体は好きだった。
親父と母さんの思い出話って感じでさ。
でも、走馬灯これかよ?
結局はピンチになったら他力本願ですってか?
ふざけんじゃねぇぞ!
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「立てないならもういい」
柳祭は倒れ込んだ悠真に左の拳を振り下ろす。
それを、悠真は狙っていた。
無防備な人間に放たれる、工夫の無いただの『渾身の一撃』
悠真は柳祭の左腕を掴んで引き込み、立ち上がりざまに顎目掛けて拳を振り上げる。
(『層合気』!!)
鈍い音が響いた。
「あっ……」
柳祭は悠真の拳を受けて尚、笑っていた。
「最期まで足掻いてくれて有難う」
柳祭は清々しく礼を言い、拳を悠真の顔面に放った。
呼吸が、途切れる。
バヂッ…………
バ/ギ/ャ゙/ァ゙/ァ゙/ァ゙/ァ゙/ァ゙/ン゙!!
「!?」
柳祭は轟音を聞き、反射的に身体を逸らす。
背後の木々が、粉々に砕け散った。
「重っ!」
柳祭が視線を戻すと、灰色の髪の男が、悠真を抱え、ノロノロと歩きながら連れて行こうとしていた。
柳祭は二人目掛けて拳を振るう。
「うぉわぁぁっ!?」
攻撃の軌道は地面に逸れ、二人の足元が爆発した。
二人は吹き飛び、地面に投げ出される。
悠真は涙でぼやけていた視界が段々とはっきりしてきていた。
「鋼……来てくれたのか……」
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「悠真、スマホ貸してくれない?」
「……なんでですか」
「君の友達の力がどうしても必要なんだ」
琉琉助は、俺のスマホで、事前に鋼に連絡していた。
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「急に呼ばれたから速攻バイクかっ飛ばして来たけどさ……いや……これどういう状況!?」
悠真は震える手でなんとか柳祭を指さす。
「敵……」
「見たら分かるよそんな事!」
柳祭は面白そうに笑いながら訊いた。
「なんだ? 次はお前か……?」
鋼は悠真の前に立って答えた。
「あぁ……今度は僕が相手だ。よくも僕の友達をやったなお前」
悠真は嬉しそうに笑った。
「やっぱり……俺の周りにはかっこいい奴しかいねぇわ……」
木につかまりながら立ち上がろうとする悠真に、鋼は驚愕する。
「おい……そんな怪我で……!」
「ヒーローには当てられちまうもんなんだよ……」
柳祭は再度宙を拳で打つ。
衝撃音と共に二人の背後の木が吹き飛ぶ。
「っ……!」
二人は走り出し、空を裂くような柳祭の攻撃を避け続ける。
「鋼……レールガンの充電は?」
「……もうない。さっきの一発で使い切った」
「分かった。俺が正面から殴り合う」
「……勝算は?」
「ある」
悠真は鋼に目を合わせ、にっこり笑った。
「お前がいればな」
鋼は、既に満身創痍の悠真を止めなかった。
悠真が頑固者である事を知っていたからだ。
「分かった、好きに動け。合わせるから」
鋼はポケットから3つの磁石を取り出し、投げる。
磁石がフワフワと鋼の左手の上で浮遊する。
柳祭は玩具を与えられた子供のように、恍惚とした表情で笑っていた。
「来いよ『弱者』共……死ぬまで遊ばせてくれ……!」




