閑話 山脈と山と丘
セシルが出てこないので、書いて見ました。
とある冬の日の事である。今日もカストレイヤ王都にある王城内の王の執務室では、女王たるセシルとその相談役であるアイシャ、王付き近衛であるナタリアの3人は、かしましくも忙しく、業務をこなしていた。3人の年頃の娘が1つの部屋で黙々と仕事をする姿は中々にわびしく、時にその不満は爆発する。
「ないわ、アイシャ、ナタリア、今のこの状況は無いわ」
そして一番最初に爆発するのは、大抵はセシルである。そしてその爆発にすっかり慣れてしまったアイシャとナタリアは、顔も向ける事もなく、仕事をしながらおざなりに返事をする。
「女王陛下、今大事な計算をしているので、声を小さく願います」とアイシャが言う。
「ああ、要件なら手短に。申し少しで、軍への指示書が終わりますので」とナタリアも言う。
セシルは自分が癇癪を起しているのにもかかわらず、顔も向けずに仕事の手も緩めない二人を見て愕然とする。
「あなた達、こんな部屋の一室で黙々と仕事をこなす日々、いいの?こんなのでいいの?」
セシルは自分の事は棚に上げて、さも二人を心配するような表情で訴えかける。
「ふぅ、漸く数字が合いましたわ。これで一段落。ナタリアはどう?」とアイシャが言う。
「ええ、私も指示書の方は完成しました。これで一息つけます。お茶にでもしましょうか?」とナタリアも言う。
「あら、いいわね……って、セシルどうしたの?」
セシルは自身の熱い訴えを完全にスルーされて、涙目になっている。アイシャとナタリアはあらあらと言った表情で、セシルにフォローを試みる。
「確かにこんな美しい娘たちが、悶々とした日々を過ごしているのは、衛生上良くないですわね」
「そうですね、たまには外でハメでも外したいところです」
二人はそう言うと、セシルを覗き見る。セシルは特にナタリアの外でハメでもという部分に反応を見せる。すると二人はもうひと押しとばかりに言葉を重ねる。
「ああ、それはおもしろいかもしれませんね。後宮からの例の道ならお忍びもできるかも」
「ええ、あそこは場所が場所だけに、近衛の人間も入れません。出口に人を立たせれば人気のない場所だけに、出口だと証明しているようなものだから、置きたくても置けないみたいですし」
するとしびれを切らしたセシルが、その会話に乗ってくる。
「私、シン様とヤンセンの町でお忍びをしたときに着た町娘風の服があるわ」
最早、お忍びする気満々である。アイシャもナタリアも思わず苦笑するものの、確かにここ最近は根を詰め過ぎたところもあると思い、その提案に乗る事にする。
「私は普段着が町で歩いても問題ないものが多いので、大丈夫です」
ナタリアはそう言って笑顔を見せるが、アイシャは少し困った顔をする。
「私は服装、如何しましょう。服はない事はないのですが、自宅ですわ。王宮にあるのは、ドレスだけですし」
「なら私の服を貸しましょうか?背格好は余り変わらないでしょう?」
ナタリアは然したる手間でもないと思い、気軽にそう提案する。アイシャもそれならばとナタリアにお願いする。
「ナタリア、お願いできますか?」
「ええ、問題ありません。いくつか服を持ってきますので、後宮で試してみてください」
「なら、決まりね。一旦、ここは解散。後宮で集合しましょ」
セシルがまとめるようにそう言うと、嬉しそうに笑顔を見せるのだった。
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後宮に集まった三人はある一つの問題に直面していた。
ナタリアがアイシャの為にといくつかの服を持ってきている。確かに背丈は余り変わらない為、そこは問題なかったのだが、上に着るブラウスのボタンだけが、今にもはちきれんばかりの状態となっている。ちなみにセシルとナタリアは、既に町にいる女性のような恰好となっている。
「ナタリア、大変申し訳ないのだけれど、もう少し胸に余裕のあるシャツは無いのでしょうか?流石に、少しばかり破廉恥な恰好となってしまって」
アイシャは表情で申し訳なさげな顔をするが、その自己主張をする胸が、その申し訳なさを半減させる。
「くっ、アイシャのその山脈を計算に入れていませんでした。残念ながら、私のシャツだと、小さな丘仕様となっています。山脈は覆い切れません」
ナタリアは悔しげな表情を浮かべて、アイシャのその山脈を睨む。セシルはハハハと乾いた笑いを浮かべると、アイシャに提案する。
「アイシャ、私のシャツならどうかしら。このシャツはもう一つあるから、多少は着やすいかと思うのだけど」
そう言って、自分のシャツをアイシャに渡す。アイシャはそれを受け取って、ボタンを閉めようとするが、やはりキツイ。確かにナタリアのものよりは着やすいが、アイシャの山脈は自己主張を繰り返す。
「まあ、こちらの方が着やすいですが、やはり少しキツイですわね」
アイシャは自分の姿を姿見に移しながら、ポーズをとって確認する。まあ許容範囲か。確かに胸はかなり強調されていて、人目を引くかもしれないが、とは言え、破廉恥とまではいかないだろう、アイシャはそう判断すると、セシルとナタリアに礼を言う。
「ありがとうございます。これならばまあ許容範囲ですわ。早速ですが、町へ行きましょう。時間は有限です。この機会を逃すといつ行けるか分かりませんから、早速ですが、行きましょう」
そう言って山脈を主張させながら、笑顔を見せる。セシルもナタリアも礼自体は素直に受け入れたが、何か腑に落ちないものを感じつつ、曖昧な笑みを見せる。
「ああいいのよ、お役に立ったんなら…、ねえナタリア」
「えっ、ええ。おっしゃる通りです。むしろそれでいいのであれば、良かったです」
そう言って、三人はお忍びの城下訪問を敢行するのだった。
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町中では三人の美女が並んで歩いているのを見て、多くの人が目を見張る。一人は金髪に碧眼の美少女で、美の女神に愛されたかのような、美しい容姿である。スタイルも細すぎず太すぎず、均整のとれた体つきで、時折見せる笑顔が、少しだけ幼さを感じさせて、むしろそのギャップが愛らしい。もう一人はスレンダーな体つきながら、整った容姿とそこはかとない凛々しさを感じさせる美人である。金髪の美少女に比べれば、多少薄さは否めないが、それでもその凛とした姿は、多くの人の目を引き付ける。特に男性より女性がうっとりするものが多い。そして青い髪、青い瞳の少女。いや少女と呼ぶには似つかわしくないその山脈を誇るその女性は、他の美少女達を寄せ付けず、圧倒的な存在感を醸し出している。勿論、顔も多少釣り目がちながらも、綺麗な造形をしており、充分に美しいのだが、やはりそれ以上にその山脈が人々の注目を集めていた。
「何やら様々な視線を感じますわね」
アイシャは自分に必要以上の注目が集まっている事に小さく溜息をつく。確かに、三人も美女がそろっているのだ。注目を集めるのは致し方ないが、特に一か所に注目が集まっている事に辟易する。
「やはりその山脈に注目が集まっているようですね」
「まあその分、私には注目が集まっていないから私的にはありがたいけど」
ナタリアとセシルもそれに同調して頷く。アイシャは本当になんでこんなものにとばかりに、その山脈を上下に揺らしてみる。
たゆん、たゆんっ
「なんでこんなものに興味が集まるのかしら。女性なら誰にでもついているものでしょうに」
すると周囲の男達は、その上下に揺れる山脈を見て自分の首も思わず、上下に揺らす。
ぺしっ
「あいたっ」
セシルが揺らすアイシャの手を思わずはたく。
「止めなさい、アイシャ。流石に人前でたゆん、たゆんさせるのははしたないです。決して羨ましいわけではないです。ねえナタリア」
「くっ、なぜそこで私に話を振るのです。ええ、羨ましい…わけではありません。ありませんとも」
ナタリアは歯をくいしばるように声をしぼり出す。アイシャは小首を傾げて、おもむろにセシルの胸を上下する。
ぽよん、ぽよんっ
すると周囲の男達がざわめき出す。アイシャに比べればボリュームは小さいが、それでも可愛らしく揺れる。
ぺしっ
「あいたっ」
「ちょ、ちょっと、気安く揺らさないで。周囲の反応はまあ、満足ですが、今はそう言うのは求めていません。そう言うのはそのシン様以外にはちょっと……」
後半部分はごにょごにょと何やら照れている。シンならば、揺らしてもいいという事だろうか。
「セシル、破廉恥ね」
「確かに女王の癖にいかがわしいです」
アイシャとナタリアの容赦ない一言に、セシルは顔を真っ赤にさせる。するとセシルはおもむろにナタリアの胸を上下させようその胸に手をやるが、揺らす凹凸が低すぎて胸全体を掴んでしまう形になる。
「なっ」
思わず声をあげるナタリアに対し、セシルは手を止めずそのまま上下左右にその手を這わせたまま、動かす。
「あっ、セシルやめ…ああんっ」
何やら艶めかしいナタリアの声が周囲に響くと、周りの男達は更なるどよめきが起こる。
ぺしっ
「あいたっ」
アイシャがセシルの手をはたくと、思わずセシルが声をあげる。
「セシル、やり過ぎです。明らかに周囲の注目を集めすぎました。まあ私個人としては、ナタリアの色っぽい声が聞けたので、満足ですが、色々波紋を呼びそうなので、ここを離れましょう」
「確かに、私もやり過ぎたと反省するわ。でも小さな丘でも充分に堪能できる事を世に知らしめる事はできたので、満足ではあるわね」
そんな二人のやり取りを顔を真っ赤にして聞いていたナタリアはどす黒いオーラを漏らしながら、睨みつける。
「二人とも~。覚悟はいいですね。このような辱め、許しませんよ~」
ナタリアそう言ってワキワキと手の平を見せて、二人の前にかざす。
「ちょっ、待ちなさい、ナタリア。冗談、軽い冗談よ」
「ええ、落ち着きなさいナタリア。ここは公衆の面前、ね、落ち着いて」
その日公都の町中では、艶めかしい美女三人の声が響き渡る。しかしその後その三人娘の姿を見るものはなく、その日偶然にその姿をみた男達は、いつまでもその姿を脳裏に焼き付け、悶々とした日々に苛まれるのであった。




