第81話 流浪の冒険者(後編)
一旦、流浪の冒険者終了です。また出てくると思います。
シンとシンジ、新旧の英雄が対峙している。場所は先ほどまでの何もない空間ではなく、シンジが修練場をイメージした空間を作っていた。共にその手には宝刀「クサナギ」。今のシンジはあくまで宝玉が記録している存在であり、当然、本物ではない。あくまでイメージの存在である。ただし宝玉の持つその処理能力は稀有なものであり、その当時のシンジの強さをそのまま再現しているという。仮にシンがシンジを負かすことがあれば、最低でも暗黒竜を封印できる素地があるという事に他ならない。シンはいい目安と考えて、全力でまずはぶつかろうと魔力を高める。
「うん、いい気合いだなシン。気負い過ぎず、それでいて集中もしている。流石は皐月の一族か」
「そのサツキさんというのは、どういう方なのですか?」
シンはふと自分のルーツの片割れに興味がわいて、質問してみる。シンジはそれに懐かしむように答える。
「皐月は、さっきも言ったように俺の同郷の幼馴染でな、俺が偶々この世界に飛ばされた後、あの手この手を使って、無理やり追いかけてきたんだ。本来、異世界からの転移は偶然でしか発生しない。その偶然の発生条件を調べ上げて、諦めずに追ってきてくれた。俺も会いたかったから、嬉しかったよ。あいつの家は古武術の道場を立っていて、剣、いや刀か、の扱いや体術に関しては、師範代の腕前だった。魔力なしで戦ったら、俺よりも技術は上で強かった。アルナスが代々武を司っているのは、皐月の影響だろうな。どうやらアイツの家の技術はアルナスの家には伝わっているみたいだから」
「そうですね。俺の武術も父や叔父から教わりましたが、その前は祖父、曾祖父と代々伝わっているみたいですね。男女関係なく。そうですか、そのサツキ月さんから続いているのですか」
シンはそのサツキに感謝の念を抱かずにはいられない。今、シンがこうして生きているのはその武による強さをよりどころに出来るからだ。自分が頑張れば、大切なものを守れる、その力をサツキは与えてくれたのだと。
「まあそうだな。まああいつは猪突猛進だから、感情的になりやすい。そう言う意味でシン、お前はガリアのマリアの血も引いているってわけだ」
「ああ、そう言えば、奥さんが5人もいるんでしね。そのマリアさんというのは、どんな方なのですか?」
「ん、マリアか?アイツは神官だ。おまえここにくるときガリアの神殿からきただろう。あとマイセンにもあった神殿。あれは、お前の時代には残っていないが、大地母神を奉った女神の神殿だ。マリアはそこの司祭で、俺がけがをして運び込まれた時に手当てをしてもらったのがきっかけで、その後の旅に付き合ってくれていた仲間だな。治癒魔法もそうだが、それ以上に博識でな。本を読むのが好きで、旅の途中は良く本を読んでいたよ。サツキとは違って、落ち着いた腹の据わったやつだったな」
シンジの過去の妻の話は、共に相手の事を想った愛情を感じるものだった。シンはからかい半分、思わず軽口を叩く。
「シンジさんは妻が5人もいると聞いていたので、単なる女好きかと思ってましたが、ちゃんとそれぞれの相手を思いやってるんですね」
するとシンジはニヤリと笑って、シンに反撃する。
「ほう、お前の記憶を覗く限り、セシルにフィアナ、アカネ、アイシャ、ナタリア、ハル、ミリア、それにリヴィアか。お前の方が、よっぽど、女好きじゃないか、この色男」
「セシルやフィアナ、アカネはともかく、アイシャやナタリアは生徒や弟子みたいなものですし、ハルやミリアは妹分、リヴィアに至っては一方的にそう言われているだけで、そんなんじゃないですよ」
シンはそう言って、溜息をつく。しかしシンジは不吉な事を言う。
「俺も最初はそう思ってたな。家族や友人、仲間だってな。まあこればかりは成るようになる。お前は俺よりイケメンだしな。まあ頑張れ」
「イケメンですか?まあ何だかわかりませんが、大事な人達は守ります。おしゃべりはこのあたりにして、そろそろ仕掛けてもいいですか?」
「ああ、そうだな。お互い準備も良さそうだ。いつでもいいぞ」
その返事を皮切りに、シンは一気に距離を詰める。右手には宝刀「クサナギ」。そもそもシンジに初撃で倒せるような隙はない。シンはそれがわかったい上で、先手を取る。しかも牽制ではなく、全力で。シンジは牽制程度の攻撃を予測していたのか、全力で刀をあててきたので、少し驚く。極々わずかな隙とも言えない刹那、シンは0距離からの掌底を左手でシンジの脇腹に放とうとする。しかし、シンジはそれを強引に身をよじって辛うじて躱すと、再び距離を取る。
「あっぶねー。いきなり初手でやられるところだったじゃねーか。お前の戦闘センス、皐月を超えてるぞ」
「いや、今のを躱されるとは思ってませんでした。流石ですね、シンジさん」
「ちっ、それでも油断してねぇ。ならこっちも最初から全力だ」
すると、シンジから出る圧力が先ほどより増す。シンは更に油断をせずに集中を高める。そして今度はシンジが仕掛けて、右に左に連撃で剣を振るってくる。速いだけでなく上手い。時折フェイントを交え、緩急をつけ、意表を突く。シンはそれを、淡々と捌いていく。焦れば相手の思うつぼ。シンは攻撃を受けながら、反撃の機会を待つ。シンジはじれないシンにイラつく感情が沸き立つのを感じると、再び距離を取る。
「ふー。単純な武の技術だったら、お前の方が上だな。このままやっていたら、確実に俺が負ける。なら次は、違う手だな」
すると今度は魔法攻撃を繰り出してくる。シンもこれには意表を突かれる。そもそも魔法を想定していなかった。シンジは火球を複数頭上に作り出すと、それを乱れ打ちしてくる。シンはそれ自体は意表こそ付かれたが、実際のスピードは剣技に劣る為、冷静に躱していく。ただし、その一つが着弾する前に爆発をし、面を食らうと、シンジはその隙に一気に間合いを詰めてくる。シンはそれを逆に好機と考えて、更にシンからも詰め寄ろうとする。シンジはその行動を読み切っていたのか、動こうとするシンの前の火球も着弾前に爆発させて、煙幕をはる。
「くっ」
シンは視界を狭まれたことで、行動の選択幅が減ったことを悟ると、思い切ってシンジの足元目掛けて滑り込む。
「うわっ」
シンジはまさか足元から現れるとは思ってもいなかったのか、思わずその場でジャンプをしてシンを躱す。シンはシンジの背後に回った後に一気に距離を取って態勢を立て直す。
「まさか魔法を使ってくるとは思いませんでした。確かに攻撃の幅は広がりますね」
「それは俺のセリフだ。あの場で滑り込んでくる奴があるかっ」
お互いがお互いの事を呆れ交じりで感想を言う。ちなみにシンも魔法を使おうと思えば使えるが、武術に身体強化を加えれば、遅れをとる事がない為、滅多には使わない。逆にシンジは武術は極めているわけではないので、魔法も手段として使いなれていた。
「それでどうでしょう。俺で暗黒竜は倒せそうですか?」
シンは一番気になる事を聞く。ここに来たのはそれを確認する為、いやその方法を確認する為に来たのだ。しかし、シンジは呆れた顔を見せてシンに言う。
「お前、暗黒竜を封印した俺と互角以上の戦いをしているんだぞ?勝負にならないわけないだろう。封印までなら多分できるだろう。問題はそこに持ち込めるかだが、俺の時には仲間もそれなりのメンバーがいた。ただお前の場合、正直周りのメンバーが弱すぎる。リヴィアくらいだろう。まともなの。ああ、あの傀儡人形は使えるか。でもそれだけだと、正直お前が大変だぞ。竜の盟約者をあと2名くらいは引き抜かないと駄目だろう」
「やはりそうなりますか。リヴィアの話では、白の竜の盟約者はこちらについてくれそうなので、もう一人二人何とかしないといけないですね。流石にアカネもそこまで急には成長しないでしょうから」
シンはまあその回答も想定していた事なので、それに関しては、致し方ないと納得する。
「あとは他の宝具の使い方だな。クサナギは記憶を見る限り、十全に使いこなせそうだ。問題はヤタノカガミだな。最終封印するのであれば、これが使えないと話にならない。他は特に今回知らなくても問題ないだろう」
「他はいいのですか?」
「ああ、マガタマは魔力の蓄積装置だから、目一杯溜めておけ。生命の杖と支配の錫杖は今回は使い道がないだろう。お前が魔王を目指すのであれば、支配の錫杖はおすすめだけどな」
生命の杖はハルの話だと回復系の魔法効果があり、支配の錫杖は魔物の支配するものだ。確かに、魔王を目指すなら、魔物の使役はいいが、今回はむしろ、悪名を広めてもメリットは無い。
「確かに、生命の杖はそのままハルに持っていて貰った方がいいですね。支配の錫杖はずっと御蔵入りでしょうか」
ただシンジはそこで少し神妙な顔つきになる。
「支配の錫杖は確かに、使い勝手が悪いが、使い道が無いわけではないぞ。いつか使う可能性があるかもと思って残しているからな。まあ、使われない事にこしたことは無いが」
シンは何となくピンとは来なかったが、シンジがそう言うのであればと心に留めておく。
「わかりました。まあそのあたりはおいおい、教えて下さい。それよりはまず「ヤタノカガミ」ですね」
シンジはそれに頷いて、説明を始める。
「ヤタノカガミは封印術式が組み込まれた神器と言われる鏡だ。利用方法はそう難しくは無い。ただし、魔力を練り込んで鏡に注ぎ込むのに時間がかかる。その時間を誰かに作って貰う必要がある。魔力使用量は草薙の半分くらいか。クサナギは一気に魔力を流し込んでも問題ないが、ヤタノカガミは注ぎ込む口が狭いイメージだな。だから一気にとはいかない」
「実際に補充が完了するまでどの位の時間がかかるのでしょう?それと途中で注ぎこむのをやめた場合はどうなりますか?」
シンは気になる部分を端的に質問する。
「そうだな、シンの魔力操作ならざっと10分程度で補充完了はするだろう。まあ実際やってみて、そこは確認しろ。それと途中で注ぎ込むのを止めたら、一からやり直しだ。だから継続して入れ続ける必要がある」
シンはそこで考え込む。10分間継続して魔力を注ぎ込み続ける。最低でも同時に相手をするのは、暗黒竜のみにしたい。それに加えてこちらは防御に徹する必要があり、一番いいのは10分間、暗黒竜の相手をしてくれる相手がいるのが望ましい。まず一番最初に思いついたのは、偽シン・アルナス。あの傀儡人形なら、最悪暗黒竜に壊されても問題ない。後は竜の盟約者か。ただ彼らは暗黒竜との間に明確な優劣がついている。どこまで持つかどうか。
「はあ、中々の難題ですね。ここをでたら、対策を考えないと。あと俺自身のレベルアップや、宝具の練度をあげたりとやる事が一杯ですね。ただ何も手が無いわけではないので、そこは助かりましたが」
シンのそう悲観してない顔を見て、シンジは感心した顔を見せて、発破をかける。
「まあ何とかなる。俺なんか前知識なくて何とかしたんだ。むしろ恵まれていると思え。それと、守りたいものがあるんだろう。結局は、それがあるかないかが明暗を分ける、まあ頑張れ」
「ありがとうございます。ちなみにまた、こうして宝玉を使えば、シンジさんには会えるのですか?」
「多分な。俺もこの宝玉の仕組みは正直、よく分からん。これは銀竜帝に貰ったものだからな」
そこで新たな竜の名前が上がる。つくづく竜に縁があるらしい。
「銀竜帝ですか?その名前は文献も含めて聞いたことがありません」
「ん?そうなのか?お前見たことがあるぞ。マイセンの地下神殿にあっただろう、銀竜帝のレリーフが」
シンジに言われてシンは、そういえばと思い出す。
「ああ、あの竜ですか」
「ガリアの神殿もマイセンの神殿も大地母神を奉る神殿だが、その化身とされるのが銀竜帝だ。実際は別物なんだが、その二人は古くからの付き合いだそうだ。だから同一視されてたみたいだな」
シンジはさも直接聞いたかのような口ぶりでシンに説明してくれる。シンは思わず苦笑して、シンジに言う。
「まあ銀竜帝の事は別にして、また会えるのであれば、今日は一旦帰ろうと思います。一度頭を整理したいですし、仲間に報告もしたいので。ああ、秘密にしておいた方がいい事はありますか?」
シンジは少しだけ逡巡して、シンに言う。
「銀竜帝の事は今は伏せておけ。その内わかると思うが、今はまだな。それ以外は話をして構わんぞ」
「わかりました。ではまた来ます。って、どうやって戻ったらいいんでしょう?」
シンジはひとしきり笑った後、シンに目を瞑るように言う。すると暫くしてシンの精神は暗い闇の中へ落ちていった。




