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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第6章 魔の森の陰謀
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第58話 ニナのお留守番

「セシル、お楽しみのところ悪いのだけど、そろそろ離れてくれるかしら?」


アイシャはもう頃合いだろうと思い、セシルに声をかける。


「駄目、まだシン様成分が足りない」


セシルがそう言って、シンにしがみ付くと、アイシャは容赦なく、その頬を引っ張る。


「アイヒャ、いひゃい、いひゃいわ」


セシルはそう言うと、渋々、シンから離れる。そこでセシルは初めて部屋の中の人物達を眺め見る。アイシャ、フィアナ、小さい子、シン様。あれ?小さい子?セシルはニナの前で目を止める。ニナは突然見られて、ビクッとすると、フィアナにしがみ付く。


「アイシャ、一つ聞いていいかしら?あの子は誰?」


「シン先生の隠し子です」


するとセシルは愕然として、シンを見る。シンも流石にびっくりしてアイシャを睨む。


「嘘です。それでセシル、目は覚めましたか?」


セシルは大きく息を吐くと、アイシャに向かって文句を言う。


「あなたのお陰で今、物凄く目が覚めました。でも目が覚めたらシン様に抱き上げてもらって嬉しいのだけど、どううして抱き上げられてるの?またアイシャのいたずら?」


セシルはまず最初の疑問を質問する。アイシャがどう答えようか考えていると、フィアナが代わりに答えてくれる。


「お姉様、寝ていた時の事は覚えてないの?」


「寝ていた時の事?シン様の夢を見たと思ったら、本物だった事位かしら。勿論、そうで良かったけど」


どうやらセシルは、寝ていた時の事は全く覚えていないらしい。シンはアイシャ、フィアナと顔を合わせると、一旦、問題を先送りにする。


「まあ取り敢えずは、その事は置いておいて、色々話したいことがあるのだけど場を改めようか?」


「そうですわね。このままだと話が進まない気がしますわ。セシルもそうして下さい」


セシルは少し名残おしそうな表情をするが、アイシャの厳しい視線に晒されて、大人しく了承する。


「じゃあ、取り敢えず俺たちは一旦、席を外すよ。用意ができたら呼んでくれ」


シンがそう言って、離れようとすると、セシルがもう一回とシンにしがみ付く。シンも苦笑しながら、優しく抱き返してあげる。アイシャも今回は多めに見て、何も言わないでいてくれる。そして程無くして、


「よしっ」


と掛け声をあげてようやくセシルは、シンから離れるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「取り敢えず、その子がシン様の隠し子出なくて良かったです」


ニコニコ顔でセシルを見ているニナを見て、思わずそうこぼす。


「女王陛下、それは後回しでも良いのでは?」


アイシャがそう横槍を入れた後、セシルはアイシャに文句を言う。


「元はといえば、アイシャ、あなたが変なことを言うから、そうなったんじゃ無くて」


「それについては先程謝罪はしました。それよりも、この魔物に関して、話を進めるべきかと」


アイシャは余り悪びれもせずにそう答える。セシルは、アイシャをひと睨みしたものの、実際の緊急度では、魔物絡みの話が優先なので、それ以上は言わず、話を有るべき姿に戻す。


「シン様、失礼しました。とりあえず話を戻しますが、単独で、魔の森に入っていただくのですか?」


シンの本音で言えば、フィアナを連れて行く方が、原因究明は早いと思っている。ただ、フィアナを連れて行くのは、リスクが伴う。そう考えると、シンの答えとしては、単独での行動と言う形にはなってしまう。


「うん、それが良いと思う。俺一人なら、どうとでもなるからね」


「シン、私もついて行きます」


シンがそう言うと、フィアナが同行を申し出てくる


「フィアナ、流石に危ないと思うのだけれど、って言っても無駄なのかな?」


「はい、無駄です」


フィアナはにっこりとした笑みとは裏腹に、はっきりとした意思表示をする。シンは溜息をしつつ、その理由を確認する。


「一応、理由を確認にしてもいいかな?フィアナの事だから、ただそう言っているわけではないだろう?」


「一つは、私の感知能力が、役に立つと思うからです。もう一つは、まだ確証がないので、確証ができたらお教えします。」


「わかったよ。とは言え、フィアナを連れて行くとなると、ニナをどうしよう。ニナ、一人でお留守番できるかい?」


シンは、そい言ってニナの表情を伺う。


「ニナ、おるすばん?」


少し寂しげな表情をニナがすると、セシルがニナに優しく声を掛け、手招きする。


「ニナ、こっちにいらっしゃい。私はフィアナのお姉ちゃんですから、あなたにとってもお姉ちゃんみたいなものだわ。だから一緒にシン様達を待ちましょう」


セシルはそう言うと、近くまできたニナを抱き上げて、自分の膝の上にのせる。


「ふぃーおねえちゃんの、おねえちゃん?」


「そう、セシルおねえちゃんよ」


セシルがそう言って、優しい咲顔を見せると、ニナは喜んでセシルの胸に抱きつく。


「ニナは私とお留守番できるかしら?」


「うん、できる!」


「えらい、えらい。これで一つ問題解決かしら、シン様」


シンはセシルが側にいてくれる事に感謝をするが、それ以上に女王陛下として大丈夫かと、アイシャを見る。しかし意外にもアイシャは平然としている。


「シン先生、心配は無用ですわ。当座はシン先生の隠し子という事にして、嘘です。シン先生、セシルも睨むのはやめて下さい。まあ、シン先生の親戚の子とはさせていただきますが、彼女も女王の友人という事でいいでしょう。それよりも、シン先生とフィアナの二人だけで行かれますか?複数の敵と敵対したときは、少し危険もあるのではないでしょうか?」


確かにそこは一つ懸念材料だ。出来れば、フィアナを守る存在がいると大分楽になるか


「ならば、私に同行させていただけませんか。シン先生の技術を見るのは、自分の勉強にもなりますので」


ナタリアがそう言うと、シンは頷いて、それに同意する。


「ナタリアが来てくれるなら、助かるよ」


「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


ナタリアはニコリと笑顔になる。これで方向性は決まった。後は現地で原因を探るだけである。シンは、ヤンセンの街にいる友人達を思いながら、決意を新たにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


森の中、とある帝国の拠点にある司令官の執務室である。森の最奥にいる宮廷魔法師アロイスとは別の部隊が作戦を実行している。ここは対王国に対しての実験部隊。今のところ十分な成果を上げている部隊であるが、特にここのメンバーは、現時点で宮廷魔法師のアロイス参加に置かれ、不満を感じている旧第一皇子に組していたメンバーが指揮をしていた。今回の成功の暁にはと当人達は息巻いているが、実際は、皇帝やアロイスには、成功したら儲けもののような扱いで、失敗したら切り捨てる使い捨てのメンバーであった。ただし当人達は、それをわかっていない。


「ふん、サイクロプスがやられたか。中々王国の近衛もやるではないか」


「まあ王国にもそれなりに手練れがいるのでしょう。閣下、ここはより強力な魔物の使役をしてみたら、如何でしょう?」


その執務室には現在、三名の人物がいる。一人は帝国貴族で元々は名門と言われる家柄だったオルグ・カーネル今閣下と言われた人物である。そしてその部下でもある魔法師のベルナス。そして、アロイスから派遣されている監視役のシムカ。今は上司と部下の会話をじっと静かに聞いている。


「うむ、それは構わんが、魔力の方は大丈夫なのか?」


「ええ、それはあのアロイスめが、予め準備をしております。実際に使用するには、アロイスの許可が必要となりますが、ここまでで我々も研鑽を積みました。であれば、もう問題ないでしょう」


オルグとベルナスの二人は、シムカを気にすること無く、その上司であるアロイスの許可無く独断で事を進めるようとしている。それに対して、シムカは漸く重い口を開く。


「仮に独断で行動されて、何かトラブルでも発生した場合、アロイス様は一切の責任を負われないでしょう。私も報告がてら、この拠点より失礼をさせていただきますが、よろしいですか?」


シムカは予めアロイスから、この二人が独断で行動するようになると言われていた。その為、あえて止めたりせずに、その立場だけ、明確にする。


「ふん、構わん。逆に我らが成功しても、アロイスの功にはしないという事を、アロイスの奴に伝えておけっ」


拠点責任者である貴族が、そう言うと、シムカは、身振りで諦めた態度を示すと、そのままその場を去ってしまう。ここまでアロイスの言った通りの行動である。そんなシムカを侮蔑のこもる視線で一瞥した後、オルグは気をとりなおし、ベルナスへ指示を出す。


「おい、例のやつを使役しろ。あれであれば、倒せるものなどおらん。そしてそのまま、ヤンセンへ進軍じゃ。魔物達を大量に動員し、一気にカストレイアを落としてくれる。そのあとは、調子に乗った皇帝もろとも、一気に駆逐してくれるわ」


「御意に。その暁には私を是非、宮廷魔法師筆頭へ。宜しくお願いしますよ、閣下」


「おお、構わん。宮廷魔法師だろうが、宰相だろうが、好きなものをくれてやる」


二人は、頭の中で膨らむ妄想を抑えきれずに、高笑いをしながら、成功もしていないのに、成功の余韻に浸っていた。

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