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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第5章 北の地での決断
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第42話 北方諸国の噂

まだ章分けしていないですが、ここから新章の予定です。タイトル考え中なので。それと別で違う話も出します。こっちは大分ゆるい感じになると思います。リンクもそのうち貼りますので、合わせてよろしくお願いします。

シンは結局、フィアナと一緒に旅に出る事になった。思えば、恩賞もフィアナの旅を円滑にする為のものだと思うと、合点もいく。元々シンは、この海路の話が無ければ、魔の森を抜ける腹積もりだった。しかし流石にフィアナと一緒に抜けるには、過酷過ぎる行程である。海路であれば、天候次第ではあるが、そう大きな危険もない。セシルなりの配慮なのだろう。


シン達は取り敢えず王都の店で旅支度をする。フィアナの着ていた服はドレスであったし、装備類や食料など、必要なものを買い集めていく。フィアナは、思ったより自分の事は自分でできる。服や装備は流石に目が見えないのでシンが選んであげるが、服などは自分で脱ぎ着できるようで、そこの手伝いはしなくて良さそうな事に少し安心する。防具はこちらも重量重視で重すぎないものを選ぶ。フィアナは魔法は使えるようで、武器はワンドを選び、もう一つ護身用でナイフを買って、持たせてやる。 結局、その日は買い物だけでおわり、シンは今日ぐらいはと、高めの部屋をとる。ちなみにシンとフィアナは同室で休む事になる。単純に一人は何かあったら大変なのと、目が届かないところにいられると心配というのがある。ただ、ベットは当然別で、眠りについた時は確かに別で寝ていた筈なのだが…。


シンは目を覚ますといい香りがするのを感じる。女性特有の甘い香りである。そして目を開いて正面に綺麗な顔立ちで銀色の髪をした少女がスヤスヤと幸せそうに眠っている。シンは正直、驚くべきかどうかで悩んだが、なんとなくこうなりそうな気もしていたので、フィアナの顔にかかった銀色の髪を払ってあげて、しばらくその綺麗な顔を眺める。


思えば、数奇な縁である。シンの昔を知る少女。彼女と出会ったのは偶然で、その会った時間もそう長いものではない。それでも一目ででシンの事を見抜き、シンの事ををずっと慕ってくれている。シンも素直に愛おしいと思うし、守ろうと思っている。本当なら連れて行かない方が良いのかもしれない。でも連れて行くと決めた以上、守り抜けばいいのである。シンはフィアナの顔を見ながら、決意を新たにするのであった。


その後、程なくして起きたフィーの準備を手伝って、朝食をとった後、いよいよ王都を出発する。二人は馬にフィアナは横向きに、シンは馬にまたがって二人乗りをする。馬は軍馬という事もあり、二人を乗せても悠々としており、時折、運動がてら走らせても、へこたれるところも見せなかった。予定の宿場町には、夕方になる前には着いており、二人で町を散策したりして、のんびり過ごしていた。


「この分だと、港町に着くまでは、特段、問題なさそうだな」


「ええ、楽しいです」


フィアナは本当に楽しそうで、町の人たちとも気軽に話しかけていたりする。町の人々も若い旅の夫婦という認識で、仲のいい二人を優しく祝福してくれる。


「そう言えば、悪意のある人の気配とかは感じないのかい?」


「王都には流石にそういう方もいましたが、ここは皆さん暖かくて、のんびりされてますね」


フィアナはそう言うと嬉しげにシンの腕に抱きつき。


「それに私達の事も夫婦って。私、若奥さんもいい男が旦那で良かったねって言われました」


「それなら俺も美人のかみさんで羨ましいって言われたよ」


「フフフッ、お姉様が聞いたら、羨ましがりますね」


シンは困った顔で、率直な気持ちをフィアナに伝える。


「フィー、俺は今はまだセシルの気持ちもフィーの気持ちにも応えることができないんだ。まだ、自分の事さえ、はっきりしないんだから」


「分かってますわ。お姉様も私も。今回の旅でそれを探しにきたことも。だから、私は側で、お姉様は待つことで、シンの気持ちが定まるのを待っています」


「うん、ありがとう。セシルにも感謝しないとな。まあセシルは女王様だから、ほかに優先すべきものが出来るかもしれないけどね」


「あら、シンたら本気でそんな事思ってるの?お姉様が聞いたら、絶対怒りますよ」


「セシルの気持ちは分かってるよ。でもセシルの意思に関係ないところで国が動く事もあるからね」


「ならその時はシンがお姉様を助けてあげてください。それが英雄よ」


「アハハッ、フィーは厳しいね。別に英雄を気取るつもりはないけど、セシルが必要とするなら、助けるよ、勿論、フィーもね」


「はい、私達の英雄様」


そんな会話をしながら、シンとフィアナは仲良く、町を歩きながら楽しいひと時を過ごした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


シンとフィアナの安全な旅の行程も最後をつげる。港町のドルマンに着いたのだ。ドルマンでは、まず領館に赴き、船の手配状況を確認する。既に宰相のテオドールから話がきており、船の準備は進んでいるとの事だったが、天候と帝国側の情勢も睨みながらの出航となる為、日付はまだ確定していなかった。シン達は、領館側で用意してくれた宿屋に滞在することにして、暫くドルマンの町に待機する。そして、ドルマンの町に滞在して5日目の朝に、領館から出航の知らせが届く。


「昼には船を出航させますので、それまでに港の方までお越しください」


「承知しました。わざわざご報告いただき、ありがとうございます」


領館の役人は、いえいえ仕事ですから、と言って退席をする。役人が出て行ったあと、シンはフィアナに向き直って話を始める。


「いよいよカストレイア王国を離れる事になる。これからは本当に何が起こるかわからない、危険な旅になる。フィーの事は俺が守るけど、守り切れる保障は出来ない。それでもついてくるかい?」


フィアナもシンが最後の確認で聞いてきているのだろうと察して、揺るがない決心を伝える。


「勿論、ついて行きます。私にとって、シンの側が一番幸せな場所です。一番安心できる場所です。シンが私を守れないときは、シンも自分の事を守れないときでしょう。シンのいない世界にいても意味がありません。だから、二人で共に生きましょう。シンならできるわ。大丈夫」


シンはフィアナの言葉に思わず苦笑して、ふと肩の力を抜く。


「うん、二人で帰ってきて、セシルに会わないといけないしね」


「はい」


シンとフィアナは、お互いの決心を確かめあった後、荷物をまとめて港に向かう。港には中型の商船が止まっている。今回、シンとフィアナは商家の若夫婦という立場が偽装される。二人は、北方諸国への商品の買い付けで、北方諸国を回る予定で、商業ギルドの紹介状も携えている。元来は、帝国経由で入国するのが、正規ルートなのだが、当然、そのルートは使えない為、商業ギルドがよく使う裏のルートが今回採用されている。勿論、その分、リスクも伴うのだが、それも込みで安全性では上との判断が下されている。


「どうも初めまして、船長のゲーリックです。おやおや、随分お若いご夫婦ですね。奥様もお美しい。既に聞いていると思いますが、今回の船旅は、港町を出て何処にも寄らずに約一週間ほどの予定です。現地では商業ギルドの手のものが、帝国役人に話を通してますので、上手くやって下さい。港町を出て諸国を回るときは、紹介状もありますが、役に立たないケースもありますので、言い方は悪いですが、自己責任でお願いします」


「私の名はシンだ。妻はフィアナ。船の事はよろしく頼む。一応、半年程で戻る予定だが、君達の船は定期的に港にいるのかい?」


「まあ、場所が場所ですので、定期的とまでは行きませが、時々はいます。その時は声をかけてくだされば、帰りに乗せる事は出来ますので、おっしゃって下さい」


「ありがとう。そうさせてもらう。それと最近の向こうの様子はどうなんだい?」


「まあ行ってみればわかりますが、酷いもんですよ。正直、買い付け出来るような商品があるかも疑問です。確かに商売になる特産品も有りますが、その辺の利権は、帝国が抑えてますし」


「ハハハッ、その辺はこっちでなんとかするよ。向こうのものをこっちに持ってこれれば、ひと財産になるのは間違いないからね」


「そう言えば、反帝国みたいな輩が最近出てきているみたいですよ。帝国の圧政に堪りかねてる連中が集まっているみたいで」


「ほう、それは危ないね。特に北方のどの辺が危ないんだい?この通り妻も連れて行くのでね。面倒事は避けたいんだ」


「ああ、それは当然でしょう。どうやら噂では旧メルストレイル公国の公都あたりが、一番ヤバいみたいですよ」


「ああ、帝国に併呑されるときも一番抵抗していた国らしいからね」


「ええ、なんでも鬼人が出るとか」


「鬼人?」


「ええ鬼人です。なんでも、以前、鬼人と称えられたメルストレイル公国の英雄、ユーリ・アルナスの出奔していた息子、シン・アルナスが戻ってその名を継いだとか。なんでも偉い強いみたいで」


シンはそこで面を食らう。一応、フィアナを見つめると、首を横に振り、嘘をついていないと暗に示してくれる。船長は何が気になるのかと、怪訝な表情を見せる。


「いやすまない。話の腰を折ってしまったようだね。私の名前と一緒だったからビックリしてしまってね」


「ああ、そういやそうですね。場合によっては、北方諸国を回る時は偽名を使った方がいいかもしれない。へんに勘ぐられても困るでしょうから」


「うーん、そうだね。ならば、私は祖父の名前を借りようか。船長、私の事はヤマトとよんでくれ」


「ヤマト、変わった響きのお名前ですね」


シンは肩をすくめて、自分の頭を指差す。


「私の祖父は北方諸国の出身でね。そちらの地方に良くある名前だそうだ。これから向こうを旅するには都合がいいだろう、あらためてよろしく頼むよ、船長」


「ええ、こちらこそよろしくお願いします、ヤマトさん」


船長はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべて、右手を差し出すと、シンもそれに答えて笑顔でその手を取った。





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