第13話 王都への招待
昨日は一日休んだシンは翌日ハワードドからの呼び出しで、ギルドに足を運んでいた。 ホールに入ると早々にメルに声をかけられ、ギルドマスターの執務室前に案内される。
「ギルドマスター、シン君がきました。お通ししてもいいでしょうか?」
メルがノックの後に確認を取ると、中から大きい声で、呼ばれる。
「おーう、シン、さっさと入ってこい」
シンはこの前と同じようにソファに腰を掛けると、今日はメルはその場を立ち去る。そして暫くすると開口一番、
「シン、お前暫く王都に行って来い」
「はぁ?ハワード何を言っているんだ?」
シンは、ハワードが突然何を言っているんだと、怪訝な表情を見せる。
「ああ、すまん。すまん。説明が足りんかった。要はお前、セシルの嬢ちゃんを助けただろ。王族のお姫様を助けて、謝礼もなしじゃ王家の威厳にかかわるからの。その恩賞を下賜するから王都に来いって話だ」
シンは手を眉間に持っていき、頭をさすると、
「それを行かないと断ることは?」
「当然できん」
「恩賞をいらないと断ることは?」
「それも当然できんが、それは内容次第じゃろう。一番手っ取り早いのは貴族に取り立てる事じゃろうからな。ただそれより金が欲しいと言えば、それはそれでそうなるじゃろう。品は良くないがな」
「ちなみに何時までにいかなければならない」
「実はセシルの嬢ちゃんが明日王都に向って出発する。それに同行して王都に向えとの事だ。安心しろ、この一向は軍が護衛する。お前は馬に乗ってついていけばいいとの事だ。セシル嬢ちゃんは馬車に乗せると言って聞かなかったらしいがの」
シンは顔を引き攣らせて、それだけは阻止しなければと心に誓う。兵士達の嫉妬の視線に殺されてしまう。
コンコンッ
ドアのノックの音が聞こえ、外からメルの声が聞こえる。
「ギルドマスターそろそろよろしいでしょうか?」
ハワードは苦笑いをすると、
「まだ話の途中じゃ、待ちきれんなら部屋に入って待っておけ」
と言って、メルの入室を促す。メルは何故が帰り支度を済ませた格好で、部屋の中に入ってくると少し顔を赤らめながら、
「そんな待ちきれないなんて事はありません。時間がたったのでお向かえに来ただけです」
と言って抗議する。ハワードはそんなメルをコロコロと笑い、シンに顔を向けると
「おい、シン。今からメルと一緒に服を買いに行って来い。金はギルドから出してやる。今回のご祝儀だと思ってくれ」
「服?って何の服だ?」
「決まっておるだろう、お前の服だ。お前どうせ王宮に行って着られるような服なんか持ってないだろう。今回の恩賞下賜はヤンセンのギルドとしても格の上がる重要な機会だからな。恥ずかしくないような恰好にせんと、ギルドとしての沽券にかかわる」
ハワードはそう言って、服についての説明をする。シンは勿論王宮に参内して恥ずかしくないような服がないので、すぐに納得する。
「それでなんでメルさんと一緒なんだ?」
「メルは服の代金の支払いと服の見立て役だ。そうせ、お前、服の見立てなんかできないだろう」
その言葉にもシンは思わず納得し、付き合ってもらうメルに御礼を言う。
「確かにメルさんの見立てなら安心です。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「まぁお手数云々は気にせんでいいぞ。何やら朝から楽しみにしてたみたいだからな」
そう言って、ハワードはメルの心情を暴露する。メルは顔を真っ赤にしながら、シンの手を引き、
「もうっ、ギルマスなんて知りません。シン君行こうっ」
シンとメルは部屋を出ると、部屋の中からカッカッカッと高笑いをするハワードの笑い声が聞こえた。
結局その日はメルとともに 服を選びに行く。
時間があれば、仕立てからお願いする方が良いものを作って貰えるそうだが、何分今回は急な話の為、既製品を選んでサイズを直してもらう形にする。
シンの体格はスラっとした細身の為、選択肢には困らない。メルは何着か選んだものを持ってきては、店員と二人でシンを着せ替えて、品評を行う。シンとしては、そうそう着る機会もない為、サイズさえ合っていれば特段要望はなく、言われるがままになっている。
メルも店員も二人して感じた意見としては、どの服を着ても、着慣れている、違和感が全く無いと言ったものだった。他の冒険者が着たならば、着られている感が出るのだが、シンにはそれが無いらしい。
シンはとしては、返事のしようもないので曖昧な笑みでお礼を返すに留めている。結局、選んだものはオーソドックスな黒のタキシードだったが、黒髪のシンにしてみれば、一番無難な色合いのものだった為、少しホッとしている。
服を買った後に今日のお礼という事でメルを夕食に誘う。メルが行きたい店があるという事で、その店に向かうと行った先でメルの同僚でギルドの受付をしているレーアにバッタリ会う。どうやらその店はレーアに聞いていたらしい。
せっかくだからと三人で食事をする事になり、今回の顛末のことで、メルがレーアに散々冷やかされて顔を真っ赤にさせていたのは、メルにとって不幸だったかもしれない。
シンはその後メルを家の近くまで送り、宿屋に返って王都行きの準備をするのだった
 
 




