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亡国の公子と金と銀の姫君  作者: あぐにゅん
第1章 金の姫
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第11話 セシルの救出(後編)


パリーンッ


突然窓が割れたかと思うと、何者かが部屋の中に飛び込んでくる。セシルだけが何が起こったか即座に理解する。


「シン様っ」


シンは飛び込んで部屋の中の机の上に着地した後、すぐさま中の位置関係を把握する。


セシルの後ろにいた護衛達は突然入ってきたシンに唖然としている。シンはその隙をぬって、その護衛達を剣の柄で殴り飛ばし、その刃を太った男に突きつける。


ドアの向こうからは窓が割れた音が聞こえたのか、見張り達が部屋に入って来ようとするのを機先を制して、大声を張り上げる。


「中の人間は人質に取った。中に踏み入ったら、こいつを殺す。わかったか」


外の人間はすぐさまドアを閉めると走っていく足音が聞こえる。恐らく仲間でも呼びに行ったのだろう。


「なんだ、お前は。俺にこんな事をして、どうなるか分かってるのか?」


太った男が喚きたてるので、煩わしいから一度思い切り顔を殴りつける。


「グヮッ」


太った男は、殴られた頬を抑え、押し黙る。


「うるさい、お前こそセ、いや王女殿下をこんな目にあわせて、どうなっているか分かっているんだろうな」


シンは危うくセシルと言いそうになるところを堪えて、王女殿下と言うと、セシルは不満そうな表情を浮かべる。


シンは苦笑しつつも、剣を太った男にかざしながら、セシルに自分の近くにくるように手招きする。


するとセシルはひょこひょことシンの脇までやってきて、満面の笑顔で、


「来てくれると思ってました。お待ちしておりましたわ」


と嬉しそうに言う。シンは、苦笑いを返しながら、セシルに向って言う。


「できればもう少し自重して欲しかったんだけどね。それとまだ終わってないから、御礼は終わってからね」


シンは中の人間達を警戒しつつも、そう言ってセシルの背中に手を回すと、フワッとセシルの体を持ち上げる。


セシルは野盗から助けてもらった時と同じやさしい感覚に包まれるとうれしげにシンの胸に顔を埋める。


「セシル、それじゃあ、行くよ」


「ん?シン様どこに……っきゃ」


すると突然、下に落ちる感覚。

シンが窓から今度は飛び降りたのだ。

シンはメルの時と同様にセシルに負荷がかからないように慎重に着地すると、周囲を見回す。

庭には何人か見張りが残っていたが、すぐ近くというわけではない。


「セシル逃げるよ、捕まって」


セシルは拘束された手でシンの服を掴み、その胸に身を寄せる。すると徐々にスピードが上がっていき、周りの景色がすごい勢い通り過ぎていく。


シンは正面の門の方へ進路を進めると、再び門の手前で一気に跳躍し門を飛び越える。


体が一瞬してフワァッと浮かび上がるとセシルはメルとは違い、怖がるどころかキラキラと目を輝かせて、興奮した口調で、声を上げる。


「シン様、すごい。すごいです」


そして窓を飛び出した時と同じように、慎重に着地する。

すると大声を出しながら、今度はハワードたちが大急ぎでシンの元に走ってくる。


「おーい、シン。嬢ちゃんも連れ出してきたんか?嬢ちゃんも大丈夫じゃったかい?」


「はい、この通り何の問題もありません。シン様のおかげですわ」


セシルはシンに抱きかかえられながら、朗らかに言葉を返す。


「そうかい。なんか爆発した音がしたり、屋敷の中が騒がしかったりで、いっそ踏み込もうかと話してたんじゃ。そしたらひょこっとメルが戻ってくるは、シンが嬢ちゃんを飛んで連れ戻してくるわで、正直、何が何だかで混乱してるんじゃ」


「フフフッ。細かいお話は後程にしましょう。それよりも急ぎ身支度をして、軍に連れていって下さいませんか?急ぎの用があるのです」


「軍ですかい。それは構いませんが…。というと、ボンクラ息子絡みですか」


「ええ、ボンクラ息子絡みです。私が直接軍に行って、説明させていただくのがいいでしょう。ここヤンセンの現地責任者はフィッシャー大佐でしたか?」


「ええ、フィッシャーです。奴ならいいでしょう。頭の固い堅物ですが、決めた事に対する行動は早い」


「なら、急ぎ身支度を済ませましょう」


「分かりました。でしたら、馬を用意させます。おーい誰か、馬車を用意しろ。おい、急げ」


そう言って冒険者達に指示だしをする為、ハワードはその場を離れようとすると、思い出したように、


「おい、シン。済まないが、お前はそのまま嬢ちゃんの護衛だ。悪いが軍に行くときも付き合ってくれ」


シンは話の流れから多分そうなるだろうと想定していたので、了解とかりに首肯する。それを見てハワードは手をヒラつかせながら、その場を離れる。


するとハワードと入れ替わるように今度はメルがシン達の元へやってくるが、シンがセシルを抱きかかえているのを見て、少し口を尖らせながら、


「シン君、それでいつまでそうやって、セシルさんを抱きかかえているのかしら」


そう言って、不満顔でシンを見上げると、シンではなくセシルがそれに応じて


「メルさん、よかった。ご無事だったのですね?本当に良かった...。それとすいません、今はあまり体に力が入らなくて、ついついシン様に甘えてしまって」


シンは実はだいぶ前からセシルを降ろすタイミングを見計らっていた位なので、それが嘘だと気付いていたが、セシルが中々離れない為、降ろすことができなかった。でも丁度いい頃合いである。


「セシル、もう体に力も戻っているだろう、そろそろ降ろすよ」


「フフフッ、そうですわね。シン様、ありがとうございます。本当に助かりましたわ」


そう言って、名残り惜しそうに、シンから離れる。それを聞いてメルも便乗するように、


「シン君、私も助けてくれて、ありがとう。セシルさんも心配かけて、ごめんなさい。シン君には、ちょっと恥ずかしいところも見せてしまったけど...でもシン君ならいいわ」


と顔を赤らめて御礼を言う。シンは二人からの御礼にかぶりを振って、


「正直、俺ももっと注意していればよかったので、あまり感謝されるのも居心地が悪くなるで、勘弁してください。それと二人とも無事で良かった」


シンは、もう少し警戒していれば、こんなことにならなかったとバツの悪い表情をしたが、二人を無事助け出せた事には安堵して、フッと優しい笑みを浮かべた。


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