体が覚えていないこと
花粉症がきついです。
日本は杉を植えすぎたよホント。
カイトとハンネルが初めて出会った翌日、散歩をしようとパイクに誘われ町外れの広場に行った。相変わらず雨は降っているので、傘を差しながら歩いている。
直径100メートルはあるようなその広場は、ジャベリンから西へ徒歩15分の場所にあり、辺りは木々に囲まれている。
「……なぁ」
「ん?」
深い意味はなく、ただ疑問に思ったことをカイトはパイクに尋ねる。
「なんでこの国はいつも雨が降っているんだ?」
「なんでって、そりゃあ……」
「……」
「……なんでだろうな?」
「いや、俺が聞いてるんだけど」
「考えたことなかったなぁ、確かに何でだろうな」
からから笑うパイクを見て、カイトはこの恩人の頭に致命的な欠陥があるのではないかと本気で疑いそうになった。 だが、今にして思えば彼だけでなく、この国の住人にとっては毎日降り続けるこの雨が日常なのだ。
日常とはあたりまえのこと。
普段生活していて何で指は五本あるんだろう、なんて普通考えることはない。そんなことを考えるのは哲学者ぐらいしか思いつかない。
(……ん。じゃあ俺はなんで疑問に思ったんだ?)
毎日変わらず雨が降る。この現象は、カイトにとって日常的ではないように思える。
「そんなこと考えるってことは、お前さんはこの国の出身じゃないのかもな」
笑いながらパイクが口を開いた。
――その時だった。
バシュッ
「うわっ」
思わずのけぞるカイト。
「えっ?えっ?」
そして、驚き慌てる。
(なんだあれは……っ!?)
カイトは口を開いたまま、通り過ぎていった物体を呆然と見つめる。
(今、確かに俺の横を飛んでいったよな……人が)
遠くなっていく影を目を凝らして注意深く見つめるが、どう見ても人である。
(何かに掴まっているように見えたのは気のせい……か?)
「気を付けろー!」
大きな声でパイクが叫ぶ。
「い、いやいや」
「ん?」
「……何あれ?」
「なにってなにが?」
「何がって、今……人が飛んで行ったよな?」
「ああ」
目を見張るカイト。……何で普通に答える。いや、人だよ人。鳥じゃないんだぞ。……もしかして、これも日常なのか?
「どうした?なにをそんなに驚いているんだ?」
怪訝そうにパイクが尋ねる。
「まだスカイウォークに慣れてないんだろう、許してやれ」
さらっと言いはなったが、カイトは聞きのがさなかった。スカイウォークって何だ。らちがあかないので、正直に尋ねる。
「パイク。あんたには普通のことなんだろうが俺には分からないんだ。」
「分からないってなにが?」
「何で、人が飛ぶ?どうなってんだあれは?」
「どうなってるってただのスカイウォークだろ」
「……スカイウォークってのは何だ?」
「えっ?スカイウォークはスカイウォークだろ」
「……」
パイクに悪気はないのは分かる。分かるが話が前に進まない……。カイトは質問を変えようと新たな疑問をぶつける。
「……パイクもスカイウォークが出来るのか?」
「当たり前だろ。からかってんのか」
あんたも飛べるのか!?
「……ちょっとやってくれない?」
「はぁ?なんでだよ。というより今日はトンクがないからできないな」
トンク……。更なる謎がカイトに襲いかかる。
感覚が違うのか。普通はカイトのように驚かないのか。彼に記憶がないからなのか。ぐるぐると思考が目まぐるしく回る。
カイトが初めて外に出た時。パイクの持つカードが傘になるところを見た瞬間、驚きはしたもののある程度自分の中で割りきれる部分があった。そういうものか、と。
加えて、食べること。飲むこと。体を拭くこと。会話もできた。これらは本能的に覚えているんだろう。記憶がなくても体が覚えている。だが、さっきの見たものはどう頭を絞ってもカイトの体は覚えていない。衝撃だった。
お前さんはこの国出身じゃないのかもな――
先ほどパイクの放った言葉が、混乱するカイトの頭に浮かびあがってきた。
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