[第2回]ポーション買ったから6階層/剛田力一 ①
少し短めです。
「天上天下唯我独尊!剛田力一です……」
配信を始めてすぐに口上言っても意味ないじゃん。まだ誰もいないじゃんか。
待機枠作ってないし、時間を告知した訳でもないんだから。そもそも昨日の視聴者が今日も来てくれるとは限らないよな。
"一番乗り〜"
「あ、昨日来てくれた人。今日もありがとなー」
見覚えのある名前の人が来てくれた。1人来てくれるだけで安心するし、リピートしてくれるってのは嬉しいもんだな。
「誰かさんがバカにするから、魔力ポーション3本も買っちまったよ。30万だってさ」
"gkbr"
「低級だから1本10万だけど、中級は一気に100万に跳ね上がるのな。びっくりしたわ」
"ポーションってかさばるからな"
"魔力が10回復する低級が10万円で50回復する中級が100万円……"
ほんと、探索者協会は抜け目のない商売をしていることで。
そんなふうに雑談をしていると、視聴者が10人集まったようだ。
「んじゃあ、探索始めていくぜー。剛田力一だ。夜露死苦!」
"??"
"ん???"
"初見"
「お、初見さん見に来てくれてありがとなー」
ダンジョンの壁を背景にして俺を映していたドローンカメラを、手動で反転させる。俺を追尾するよう設定しているため、こういう時は少し手間だ。
「見てみろよこれ。面倒くさそうな階層だと思わないか?」
"あ、うん"
"ねえ、口上は?"
"天上天下〜みたいなやつは?"
「恥ずかしくなった」
"漢の中の漢?"
う、うるさいやい!
そんなことより画面を見てくれよ。見渡す限り、一面の沼地だ。
俺が来ている港区ダンジョンが不人気な理由である。
6階層のほとんどが沼地と化しており、他には点々と岩場があるくらいだ。簡単に言えば、装備が汚れてしまうのだ。
そのため、港区の探索者協会では洗浄の魔法が書かれたスクロールを1つ5万円で販売していた。
消費アイテムのため、行きと帰り用に買って10万。
収入の少ない初心者には不向きなダンジョンがここである。
ただ、そんな沼地には利点もある。
探索者はこのエリアを極力急いで抜けようとする。そのため魔物が倒されることが少なく、適正レベルの俺からしたら美味しい狩場なのだ。
「うお、気持ち悪ぃ」
足を動かしていないとすぐに沈んでしまう。後で洗えるとしても、気持ち悪いもんは気持ち悪い。
この階層は有名だから知っているけど、7階層から先のことはあんまり調べてないんだよな。昨日探索をしてみて思ったんだけど、 知っていることってつまらないんだよね。
───ベシッ
沼の中から大砲のように飛んできた魚を叩き落とす。
今の魔物も、来るとわかっていたから対処できた。知らなくても反応はできていたと思うが、危なかっただろう。
もっとヒリつきが欲しいんだよな。
「てか多いな、量おかしいだろこれ」
歩き始めて5分ほど経つが、既に10匹は確実に倒している。
叩き落とすだけで終わるから楽なんだが、このままいくとレベルが上がってしまう。絶対にステータス盛れないだろこいつ。
「ちょっと逃げるわ。レベル上がっちまう」
"探索者初日で階層主倒したやつが魚から逃げとるww"
"そいつ魔物だけどギミックの認識でいいぞ"
"ゴブリンよりも遥かに少ない経験値量だったはず"
なんだ、大した経験値じゃないのか。それならこのままでもいいけど……。
いや、他の魔物を探そう。こいつを倒していても、俺も視聴者も面白くない。
駆け足で移動を始めると、魚は俺の後方を通り過ぎていくようになった。なかなかシュールな映像が撮れていることだろう。
「あ、ザリガニ」
走っていると、ザリガニのような魔物を発見する。ただ1メートル以上あり、ハサミの奥に砲身のようなものが見えている。
"シュートクレイ、泥を放ってくるよ"
"どちらかといえばシャコじゃない?"
「あ、すまん!緊急の時以外はネタバレ禁止で頼む!」
シュートクレイが放ってきた泥を躱し、接近する。
何故かむき出しになっている腹目掛け、拳を打ち込もうとする。すると、シュートクレイはハサミを持ち上げ迎撃の構えをとってきた。
「【硬化】」
拳が岩のように変化し、ガチガチに固まる。
「やろうぜ、インファイト」
まずは様子見として、ボディへと雑に打ち込む。
シュートクレイはそれを左のハサミでガードし、右のハサミを振り下ろしてきた。
「いいねぇ」
それを左手で受け流すと、低い姿勢で懐へ潜り込む。
これで終わりかと思ったが、下から尾を打ち上げてきたため回避。素早く横に移動し、尾と腹の隙間に手を差し込む。
プロレスの技ってかっこいいよね。
身体を後ろに反らし、シュートクレイを頭から地に叩きつける。
相手は魔物、足元は泥。ダメージは皆無だが、隙がでかすぎだ。
腹を押さえ、尾を踏みつけ、無理やり防御をこじ開ける。
無防備になった腹に拳を振り下ろし、戦闘は終了した。ザリガニだかシャコだか分からなかったけど、面白い魔物だったな。
"特攻服ドロッドロやん"
"なんでここでバックドロップしたww"
仕方ないじゃん。漢は急にバックドロップしたくなることもあるだろ、多分。
"スキル強い?"
「ああ、強いな。使い勝手がいいしコスパもいい。魔力を10も使うがいいスキルだ」
配信を始める前に少しだけ試してみたんだがこのスキル、関節を固めても曲げたり動かしたりすることができる。【高揚】みたいに融通の効かないスキルではなかった。
1分の制限時間があるが、これからも使えるいいスキルだ。
「そういえばあの魚襲ってこなかったな」
"ザリガニが食べ尽くしたんじゃない?"
"シャコだよシャコ"
食物連鎖はダンジョンでも健在なんだな。
とりあえず、背中に泥が入り気持ちが悪いから階段まで急ごう。
駆け足で進むこと約10分、階段の前にあるスペースに到着。ここだけしっかりとした地面があり、周りで他の探索者たちが泥を落としている。
見た目がアレなのを理解しているため隅っこの方へ。
スクロールを足元に置き広げると、直径1メートルほどの魔法陣が展開される。その中に入るとあら不思議。服や身体に付着した泥が嘘のように消え、探索前の姿に元通りだ。
「馬鹿したせいでスクロール使っちまったから、このまま7階層行くわ」
"はいよー"
"バカした自覚はあったのね笑"
「てか、ネットに6階層は狩場って書いてあったんだけどそれってさ……」
"嘘やな"
"ワザップらしいね"
やはり嘘の情報だったか。
あの魚は経験値少ないうえに魔石はゴミのような値段。ザリガニはレベル上げするには少しめんどくさい相手だ。
他にも魔物はいるのだろうが、どうせナマズやカエル辺りだろ。みんな泥を飛ばして汚してくる戦法に違いないね。
さて、気を取り直して7階層に行きましょうかね。
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