アオイ・モーントシャインという女の子
「アオイ・モーントシャイン准尉、入ります」
「入りたまえ」
モリニアという国の、ある軍事基地。
その作戦司令室に、モリニア共和国軍准尉であり、『サイレン9』のコールサインを持つアオイ・モーントシャインが入って行った。
「服に着られている」という表現がこれ以上なく似合うほど、彼女は可愛らしかった。
1番小さなサイズの士官服すらもオーバーサイズになってしまう小柄な体格。基地の女性陣により短く切り揃えられたくすんだ金色の髪。小動物を思い起こされる大きな青い目。
自分より階級が下の兵にすらお人形扱いされてしまう、傍目には軍人とは思えない少女が、対テロ戦争の最前線に立ち、准尉の階級を得ているのには、二つの理由があった。
一つは、彼女の軍歴が極めて長いことだ。
5年前まで、この大陸の日常には戦争があった。大陸が東側と西側に分断し、半世紀近く続けられた『大陸統一戦争』が。
彼女はその戦争の中で、7歳で軍に入隊し、終戦後の大規模軍縮に運良く振り落とされずに済んで、今年で8年目。
少しずつ軍内にも戦争を知らない世代が増えてきていることを考えれば、彼女の軍歴は誇るべきものだった。
もう一つは、彼女の上げた戦果である。
彼女は戦時中、ティターン・ドールという兵器を駆り、さまざまな戦場を渡り歩いていた。
ティターン・ドールと呼ばれる兵器は、『大陸統一戦争』の開戦とほとんど同時期に開発された人型兵器である。それは、武器選択の汎用性と、この世界で唯一空を飛ぶことのできるアドバンテージによって、大陸最強の兵器と呼ばれるに至っていた。
当時、少年兵に操縦を覚えさせることで、足りないパイロットを補う策が取られ、アオイはそれの数少ない生き残りであったのだ。
「任務だ」
そんなアオイの所属する対テロ特別行動中隊『サイレン』の司令官、ハタエ・ウッズマン大佐は前置きもなく切り出した。
「任務……ですか?」
アオイは不思議そうに聞き返した。
モリニア共和国軍対テロ特別行動中隊『サイレン』。鈴の隊章を持つそれは、テロ行為に対してモリニア政府の指示を受けなくても独自の行動をとることのできる部隊だ。
その部隊の性質上、出撃とは緊急出撃とほとんど同義であり——このような形でのブリーフィングは珍しかった。
「取り敢えず、これを読め」
大佐は、3枚の書類をアオイに差し出した。それを受け取り、取り敢えず目を通す。
学校に通っていない彼女には少し難しい単語がいくつかあったが、意味のわかる単語だけ抽出し、読み進めていく。
「『首無し旅団が、学園都市アステルを狙っている』……?」
『首無し旅団』とは、今のモリニアを騒がせているテロ組織だ。先ほども農村を襲い、生存者1名の大惨事を引き起こしていた。
3年前の『フィオナ要塞陥落事件』から散発的にテロを起こし、モリニアに打撃を与え続けていた奴らの次の目標を掴んだのだ。
そして、2枚目の資料には、アオイにも見覚えのある少女の経歴書だ。
名前の欄には、ハタエ・サヤカと書いてある。
ハタエ・サヤカ——アオイを『サイレン』に推薦してくれた人であり、ウッズマン大佐の娘。たしか今は学園都市アステルの士官学校に……
「……ぉぁ」
「気づいたか、アオイ・モーントシャイン准尉。君には娘の……ハタエ・サヤカの護衛のため、学園都市アステルの士官学校、アステル・アカデミーに潜入してもらう」
——何を言ってるんだこいつ?
アオイは、喉元まで出かかったその言葉を必死に我慢した。
3枚目の書類はアステル・アカデミーの入学要項だ。そこには、『15歳以上の健康な男女』と書かれている。アオイはまだ14歳だ。
「なに、年齢くらいいくらでも偽装できる。それに、向こうの校長とは話をつけてあるからな」
「……でも、サヤカは2年生ですよ?」
「問題ない。あそこは軍からの推薦があれば2年時からの転入が可能だ」
「…………」
まだまだ聞きたいことはあったが、何を言っても意味はないだろう。
アオイはしぶしぶサインされた命令書を受け取った。
「わかりました、やってみます」




