初陣
トリエラの機体のセルフチェックがようやく終わり、アオイのRG2-63-tが飛び出していった格納庫のシャッターから出ると、そこには、宙を舞う1機のTDがいた。
東側の第2世代機、確か名前はG-55だったか。
G-55視界の先には、東側の旧型機であるG-20の陰に隠れるRG2-63-t。おそらく、アオイのものだ。
先ほど格納庫に入ってきたG-20を倒してからまだ30秒ほどしか経っていないのに、もう2機目を撃破している。
向き合った2機からは、つい尻込みしてしまうほどの殺気を感じた。隙を見つければすぐに心臓を食い破らんとする猟犬のような殺気。
凍り付いてしまったかのような空間の中で、G-55の腰に装備されたシュヴァルベ・ユニットのジェット・エンジンの音だけが、時間が動いていることを証明している。
沈黙を破ったのは、アオイの放ったアサルト・ライフルの発砲音だった。連射された弾を潜り抜けるように回避した敵機がアオイに突貫する。
「……ッ!!」
アオイは接近してきたG-55に対し、盾にしていたG-20を足の裏で蹴り飛ばした。G-55が直撃を回避するため、突撃の勢いを殺すのと同時に、アオイのRG2-63-tはアフターバーナーを点火し、飛翔。
高度を上げてアサルト・ライフルを連射し、相手を牽制しながら、アンカーを発射。狙いは基地の送電塔。塔を軸にして機体を振り回し、さらに連射。
G-55は牽制射を盾で防ぐと、地面を滑るように飛び、連射を避けながら手近な位置にあった建物の陰に飛び込んだ。
再びの静寂。
「私に何ができる……?」
トリエラはそう呟いていた。自分だって訓練はしているのだ。こんな時に動けないでどうすると。
そう思って周囲を見渡すと、それは意外とすぐそばにあった。
格納庫の床に落ちていた、西側製TD用アサルト・ライフル。しかも、実弾が装填されている。おそらく、アリシアたちが避難誘導のために用意していたものだろう。
――アリシアさん、ごめん!!
トリエラはそれを広い、赤く染まった夜空にそれを構えた。
二度目の静寂を破ったのは、G-55だ。
盾を構え、前面のほぼすべてを覆ったまま、RG2-63-tに突貫する。アオイは銃を向けずに、ゆったりと構えた。
TD用アサルト・ライフルの40㎜機関砲は盾を破れないし、60mm銃身下滑腔砲に装填されたHEAT弾も盾を構えた相手には効果が薄い。同じ場所に連続で当てられれば違うのだろうが、そこまでの技術はアオイには無かった。
そこまで気づいていたからこそ、盾を使った突進に切り替えてきたのだろう。
しかし、盾で身を守りながらの突進には弱点もあった。それは、回避された時の反応が遅れることだ。アオイは反応が遅れやすく、反撃しずらい左後方に飛び込む準備をしていた。どっどっどっと激しく脈打つ心臓と力を開放するのを今か今かと待ちわびているシュヴァルベ・ユニットを押さえつけ、その時を待っていた。
飛び込んでみろ、その時が、お前の最後だ――
――そう思っていたからこそ、反応が遅れた。
「……ぉぁっ」
アオイの口から、本当にかすれた声が漏れる。
上空に向けられた視線の先には――G-55。
飛んだのだ。偶然ではない。その証拠に、アサルト・ライフルの銃口は下に――アオイのRG2-63-tに向けられている。
――なるほど、これは正規軍が苦戦するわけだ。
人生の半分以上の時間をTDと共に過ごしてきたアオイの経験上でも、敵のパイロットの腕はかなり上位の相手だった。
――《《あれ》》があれば。
戦争の中で様々な逸話を生んできた謎多き兵器――魔剣があれば。
アオイは心の奥底から、そう思った。盾ごとぶち抜いて、その生意気そうな顔を吹っ飛ばしてやれるのに。
その時、嵐のように飛んできた弾丸がG-55の左側面に当たった。弾が飛んできた方向を見ると、RG2-63-tが。
――トリエラか⁉
そこまで思考してすぐに、アフターバーナーを点火。
G-55はトリエラの放った弾を防ぐために、盾を構えている。アオイはせっかく作ってくれた隙をみすみす見逃すほど愚かではない……と、自負している。
足を止めたまま撃ち続けているトリエラのRG2-63-tを狙って、銃を構えたG-55に、アオイは飛んだ。左腕を伸ばし、アサルト・ライフルを持つG-55の右腕を掴み、持ち上げる。
ばらまかれた弾丸が赤い空に軌跡を描いて、それを相手の手首をつかみながら回避したRG2-63-tは、銃口を向ける。TD最大の弱点である首の付け根――装甲が薄い部位の中で、一番コックピットブロックに近い場所――。
「……喰らえッ!!」
60mm銃身下滑腔砲に装填されたHEAT弾が放たれ、装甲に着弾。メタルジェットが容易く装甲を貫き、G-55の胴体が大きな火花を上げ、動かなくなった。




