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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
第四章 サイフォス<剣>
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魔物たち

 扉の向こうの洞窟に、灯はなかった。しかし薄明るい。神の間と同じように、岩壁そのものが発光しているようだった。


 背後で鉄の扉が閉まり、高密度の静寂が降りる。ヒネをちらりと見ると、じっと環の足元を見つめていた。


「かわいい靴だね。羽生えてる」

「あ、ありがとう」

「飛べるの?」

「うん」

「ブーツに輪っかがくっついてて、そこから羽が出てるんだね」


 観察眼の鋭い子なのかもしれない。


「ピアスもかわいい!めぐるんおしゃれだね。死んだときにつけてたの?」

「これは、武器なんだ。何をしてくれるかっていうとね……」


 ――戦闘において必要なことを、脳に直接伝えてくれるアイテムだよ。魔物の弱点とか、どこから攻撃がくるかとか。守るべきか攻めるべきかってことも。石に触ると発動する


 青田の言葉を思い出す。環はそのままヒネに説明した。


「え、すごい!じゃ、さっき女神様が言ってた知恵ってことだね。羽はブーツなでしょ。じゃ、鎧は?」

「このバングルだよ」

 環は袖をめくってみせる。


「かーっこいい!」

 ヒネは目を輝かせる。

「でも、それが鎧になるの?」


「私も、使ったことがないから分からないんだけど、攻撃を跳ね返してくれるみたい」

「この石が何かしてくれるのかな」


 ヒネが、金のバングルにはまった白い楕円の石を指さす。


「どうだろう。分からないけど、武器には全部石がはまってるから、そうかもしれない」

「へえ。じゃ、そのネックレスも?」

「ああ、これは武器じゃないよ」

 すっかり存在を忘れていた。


「あの世の入り口の神様と通信できるんだ」

「すごーい!色んな神様に助けてもらってるんだ!」

「そうだね」

 改めて考えると、ありがたいことだ。


「にしても、めぐるん大変な目に遭ったんだね。月の魔物は人を食べるとかさっき言ってたけど、心配になっちゃうね」

「私の体は食べられないって言ってたけど」


 じゃあ、夏生は?

 ふと浮かんだ疑問に、怖気おぞけが走る。


 周りの人間を食べていく算段ではないのだろうか。魔物が大口を開けるイメージが浮かんで、腕をさすった。以前この世へ降りたとき、夏生は環の姿をした魔物に何の疑いも持っていないように見えた。

 まずいかもしれない。


「どうしたの?」


 表情をこわばらせた環を、ヒネがのぞきこむ。


「いや、月の魔物に、彼氏が食べられるんじゃないかと思って」

「そっか、めぐるんに取り憑いて、周りの人を食べるかもしれないってことね」

「どうしよう」

「じゃ、早いとこ剣をゲットしようよ!なんか魔物も出てこないし!」


 いつのまにか蛇はいなくなり、ただの静かな洞窟になっている。ただ、入口よりも壁から張り出す岩が増えていた。死角が多くなり、環は緊張する。


「いやいや~!お待ちしてましたよ~!」


 岩陰からぞろぞろと現れた人影に、環はギョッとした。

 皆、人間に見えた。だが、何かがおかしい。


「やっぱり神のご加護は眩しいなぁーッ!」

「あなたが夜見環さんですねえ!」

「神の武器とやらを、私たち魔物にも拝ませてくださいよ!」


 近づくごとに、分かる。魔物たちは不完全な人間の姿をしていることが。


 神が人間を極限まで整えた形をしているのならば、魔物は人間を崩した形をしているものなのだ。目が縦に並んでいる魔物、鼻がくぼんでいる魔物、単に顔色が悪いだけの魔物もいるが、笑顔には底知れぬ不自然さがある。


 単に化け物が出てくる方が、まだ良かった。環は恐怖に声が出ない。人間のようで人間でないものとは、こうも不気味なものなのか。


「あれ、どうしたんですかあ」

「まさか、我らが怖いとか」

「神に守られているのに」


 魔物たちは顔を見合わせる。


「月の魔物はこんなもんじゃありませんぞ」

「お前さんには倒せんかもしれませんなあ」

「じゃ、武器はいらんということになりますな」


 ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。


「哀れな我々に、貸してくださいな」

「あなたよりももっとうまく、使ってみせますから」

「エネルギー補給にちょいと魂も食べさせてくれませんかね」

「神の力に、人間の魂……」

「こりゃ、簡単に力を取り戻せるかもしれんなあ」


 陰気な笑い声が広がる。


「かかれーっ!」


 合図と共に、魔物たちが環に殺到した。


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