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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春原沙羅
第三章 タラリア<翼のブーツ>

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あしあと

 次の日。

 環は服屋を訪れていた。


「ポイットさん」

 忙しそうなポイットの隙を見て声をかける。


「わあ、環さん!見て見て、朝からお客さんいっぱいだよ!」

「実は、影から見てました」

「そうだったの。全然気づかなかった!」

 人のよさそうな顔でにっこりする。


「私、今日でお別れなんです。最後に着替えたいなと思って」

「お別れかあ、さみしいな」

 翼をぺしょりと下げる。


「この町では当たり前のことなんだけど、なかなか慣れないなあ」

「私は、また来ますから」

 冗談めかして環が笑う。

「そっか、そっか!」

 泣きそうな顔でポイットが手を差し出す。環はアンパンのような手をぎゅっと握った。


「環さんのことは忘れないよ。ファッションショーも、ソウラス様に褒められちゃったから、またやるかも!」

「ぜひ!私が次に来たとき、パワーアップしてるの期待してますよ」

「うん!頑張るね!」

「店員さーん、ちょっといいですか?」

「あ、ごめん、呼ばれちゃった。それじゃ、またね!」

 ポイットが弾ける笑顔で手を振った。


 環が選んだのは、最後に土壇場で用意したガンマンの服だった。

 ファッションショーの光景を、忘れたくない。これから辛いことがあっても、この服なら乗り越えられるような気がした。


 環は店を出て、神殿に向かう一本道を進む。「ファッションショー見たよ!」と声をかけてくれる人もちらほらいて、感慨深くなる。


 昨晩、環は愛莉の部屋に泊まらなかった。颯と二人で過ごしたいだろうからと、ホテルに帰らなかったのだ。打ち上げの酒場にずっと残っていた。


 眠らないことにも慣れて、人が少しずついなくなる酒場でずっと考えていた。

 この世に戻っても、人を喜ばせるような仕事がしたい。日常の延長線上ではなく、むしろ日常を忘れられるような出来事の提供。それに、モデルになって人前に出る華やかさよりも、裏方の楽しさをかみしめていた。


 ――モデルになりたいなんて、本気で思ってないくせに。のうのうと生きてるだけのお前が、浮気されたぐらいでわめくな


「私は、のうのうと生きてるだけなんかじゃないんだから」


 この世に帰ったら、ガツンと言ってやろう。愛莉のようにしっかりと。


「あ、来た来た!」


 神殿の近くのホテルの前、愛莉が大きく手を振る。横に立つ颯が頭を下げた。

「お待たせ」

「昨日の、最後のコーデだよね、すごい似合ってる!かっこいい!」

 愛莉が目を輝かせる。

「ありがと」


「環さん、はじめまして」

 隣の颯が会釈する。

「環のことは、昨日話しておいたよ」

「私も、颯さんの話は聞いてます」

「誇張されてないか不安ですけども」


 と照れ笑いを浮かべる。颯は三白眼で眉が細く、一見すると神経質そうなタイプに見えた。しかし物腰がやわらかく、表情も穏やかだ。愛莉同様心中したときの服装なのか、ネイビーのピシッとしたオーダースーツを着ていた。

 三人はそろって歩き出す。


「この町に来てから、愛莉がずいぶんお世話になったみたいで」

 親のような口ぶりに、環は思わず笑う。

「いえいえ。元々、愛莉が困ってる私を助けてくれたんだよね」

「そうなの。あの、昨日邪魔してきた天使だよ!あいつが環にひどいこと言っててね」

「天使がひどいこと言うんだね」

「めちゃくちゃなんだもん。あの天使。なんで天使やってるんだろう」


「……その天使って、もしかして髪が白くて翼が灰色の?」


 颯が恐る恐る言う。

「うん。昨日見た?」

「いや……」


 見えてきた神殿の門を指さす。そこに、ケニカがぶすっとした顔で立っていた。


「また邪魔しに来たの?」

 つかつかと歩み寄る愛莉が、ケニカを睨みつける。

「そうじゃないわ」


 姿勢を正して、頭を下げた。

 環と愛莉は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。


「悪かったわよ。意地悪しすぎて。ソウラス様におしかりを受けたわ」

 くるっと身を翻す。


「『断罪の間』まで案内してあげる。ついてらっしゃい」

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