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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春原沙羅
第三章 タラリア<翼のブーツ>

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祭の後

 歓声のやまない中、キャストがランウェイからはける。


「ファッションショーは以上で終了です。皆さまありがとうございました!」


 大声の天使が告げると、再び拍手が湧き上がる。客が少しずつ動き始めた。ホテルに帰る流れ、酒場に向かう流れ。そして……。


「さっきのフラメンコの人のコーディネート、ありますか?」

「ワシもあれ着たいんじゃが、似合うかな?」

「こんな服装今まで着たことないけど、思い切って着てみたくなって」

「わ、わ!すごい!今までこんなにお客さんが来たことないよ!」

 ポイットが翼をバタバタさせる。


「やったよ環さ~ん!」

 キャストと言葉を交わす環に手を振った。


「あ、颯!」

 ひときわ大きな声が、店内に響く。環はハッとして愛莉を見る。彼女が全速力で青年のもとへ駆け寄り、抱き着いた。肩をふるわせ、わんわん泣いている。


「会えたんだ」

 環の目にも涙が浮かぶ。何かを訴える愛莉に、青年は優しい笑顔で答えていた。彼も、どこか泣きそうな顔をしている。


 環が撤収作業をしていると、愛莉がやってきた。


「私も片付ける」

「あとは任せてよ!せっかく、颯さんと会えたんでしょ」

「ううん。最後までやらせて。颯、ファッションショーを見に来たんだって。だから、環がショーをやるって言ってなかったら、もう颯に会えなかったかもしれない。本当に、ありがとう」

 涙をぬぐう。


「愛莉がいなかったら、こんなことできなかったよ。私の方こそありがとう」

「でも環、モデルはできなかったし……」

 環は首を横に振る。


「全然、もう関係ないよ。今はモデルやれなかったちょっとの悔しさよりも、なんとか成功できたことの嬉しさの方がずっとずっと強い」

「環~!」

 愛莉が環に抱き着く。環は華奢な肩を抱き返した。


 片付けが大方終わったころ、酒場の店主をしているおじさん天使がやってくる。


「打ち上げウチでやらない?お客さんたちみんなファッションショーの人たち呼んできてよって言ってて」


 残って片付けをしていた全員が賛成した。

 おじさん天使の先導で、皆が酒場に向かう。


「僕はお店にいなきゃだから、みんなで楽しんできてね、監督」

 ポイットがニコニコしながら手を振る。

「私も手伝いますよ。お客さんの相手と、服の整理があって大変でしょ」

「監督がいないと盛り上がらないよ。打ち上げもお仕事だって。ほら、行って行って!」


 ポイットに背中を押され、環は集団の後ろを歩く。追いつこうと駆け出したとき、後ろから声が聞こえる。


「顔つき、変わったね」


 ハッとして立ち止まり、振り返る。服屋の屋根に、ミニソウラスが立っていた。


「明日、浜本愛莉さんたちは七日目だから神殿に来る日だね。君も一緒に来なよ。良い物あげるから」

 片方だけの目を細める。

「ありがとうございます!」

 環が深く頭を下げる。


「それじゃあ、この町での最後の夜を楽しんで」

「あ、あの!」

 手を振って去ろうとするソウラスを呼び止める。

「ひとつだけ、聞いてもいいですか」

「なんだい」


 自分は、本当に姉の生まれ変わりなのか。ケニカがホテルに入ってきたあの夜から、心の隅にずっと引っかかっていた。


「私の前世って、どういう人だったか分かりますか」

「前世か……」


 金色の瞳が、一瞬遠くを見る。環は思わず両手を握り合わせる。もし本当に姉だったら、運命的なことだ。姉と同じものが好きになるのにも、納得がいく。


「細かいところは分からないけど、男だったみたいだよ。貧しい環境に生まれ、働きづめで死んだそうだ」

「……そうですか」


 ロマンチックな予測は、あっけなく敗北する。


「それじゃ、良い夜を」

 うつむく環を残し、ソウラスは風になって消えた。

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