助け舟
行く先には九つのゲートがある。左から順番がふられており、二人は九番のゲートに向かっていた。最も人が少なく、ゲートの幅も狭い。
「第三の町は、九つの区に分けられているの。今向かってる九番区は、神殿のある町よ。一番上にあるから、エスカレーターも長いわ」
ゲートをくぐると、長い長いエスカレーターが伸びている。都会の駅でホームに向かうとき、エスカレーターが思いのほか長くて発車時間に遅れそうになったことを思い出した。
エスカレーターはチューブのようなガラスに囲まれており、外が見える。広大な赤土の荒野。分かりやすく美しい景色ではないが、人類の始まったころをぼんやり考えてしまう光景だった。
「素晴らしい景色でしょう」
ケニカが満足げに微笑む。
「私はこの町が大好き。それは、この町を作ったソウラス様が大好きだからなの」
聞いてもないのにうっとりと語り始める。
「ソウラス様ってね、とっても魅力的な方なのよ。何に対しても独自の考えをお持ちで、それでいて自分ひとりで突っ走ることはなく丁寧に説明をしてくださるの。誰にでも愛を持って接してくださるし、それでいて愛を安売りしたりはしない。あの世でナンバーワンの神になるって野心家でもあってね、日々町の改善に尽力してらしゃるわ。人間のことを救済してくださる、神の中の神なのよ」
「それなら、武器も貸してくれそうですかね」
「いいえ。ソウラス様は武器を貸したりしないわ」
あっさりと首を横に振る。
「このすばらしい町でゆっくりする特別な権利が与えられているのに、どうして危険なものを与えなきゃいけないのか、ってぼやいてらしたから」
「ぼやいてただけじゃなくて?」
「ぼやきには本心が含まれてる。違う?」
ケニカが赤い目で環を見下ろす。
「とにかく!ソウラス様は武器を貸すなんて野蛮なことしないんだから!」
「野蛮なんかじゃありません!私は武器がないと魔物に体をのっとられたままなんですから!」
「あなたが生き返るために魔物を殺すの?野蛮そのものじゃない!」
めちゃくちゃな論理に辟易する。
「だ、だって、元々私の体なんですよ」
「でも今は魔物のものなんでしょ?あなたは過去の所有者。引っ越しちゃった家にはもう戻れないのと一緒!」
環は、なぜか言い返せなかった。胸のなかでのたうち回る思いが、言葉にならない。
「それはひどくない?」
突然、澄んだ声が降ってくる。ケニカの前にいる、ツインテールの女がこちらを見ていた。
「体は家と違うじゃん」
猫のような目でケニカを見下ろす。
「同じようなものよ。人間には分からないかもだけど!」
「人間に分からないって分かってるなら押しつけるのおかしい。あなた天使でしょ?」
「うー!どいつもこいつも口答え!」
天使が羽ばたく。灰色の羽が舞い上がった。
「あんたのこと神殿まで案内してあげようと思ってたけど、やっぱやめた!じゃあね!」
ケニカは宙に浮かぶと、天井に沿うように飛び去ってしまった。




