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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
第ニ章 ソピア<知恵>
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新たな神

「それよりさ、君、神にならない?」


 ナルディラが青田の手を握る。


「神に?」

 青天の霹靂に、青田が目を白黒させる。


「僕、もう神をやめたくて」


「忙しいから、ですか」


「ううん。実をいうと僕は全然忙しくなんてないんだよ。ただもう、ここ何十年もやる気が出なくて」


 環はポカンと口を開ける。


「忙しいって、嘘ついてたんですね」


「ごめんねえ」


「本当に忙しそうに見えましたけど。嘘が上手なんですね」


「人間のときは人を騙しまくって生きてきたんだ。いつのまにか悪いことばっかりするようになって、手下を通じてものすごい数の殺人をしたよ」


 遠い過去を語るようでもなく、淡々と話す。


「人は殺したけど、自分で手を下したわけではないから、第一の町では裁かれなくてね。第二の町の神が僕をどう処断すべきか難儀しちゃって。めちゃくちゃ悩んだあげく、僕に神の役割を押しつけたんだよ。前の神も、仕事に疲れちゃってたころだったんだろうね」


 綺麗な顔で笑うが、その実相当な悪人なのだ。環も青田も、自然と身を引いていた。


「最初は、悪事も徹底すれば神になれるって思いあがったもんだよ。でも罪人を裁けば裁くほど、時間が経てば経つほど、罪悪感ってわいてくるんだ。おまけに、業務に終わりはないし。で、何もかも嫌になってしまってねえ、神なのに。やる気が死んじゃった。町が沈んでいるのもそういうわけなのさ。管理を怠り続けてたら海が町を飲み込んじゃったんだよ」


 神が立ち上がる。

「神が人格者である必要はないんだ。力だって勝手にインストールされるし。望まれる職務を自然と遂行するようになる。あ、顔もね、良くなるよ。職権乱用をすれば上位存在に消してもらえるから、間違えることってほぼないんだ。おバカちゃんには任せられないけど、君はじゅうぶん賢いから大丈夫だ」


 笑顔で青田の肩を叩く。

「いや俺はまだ承諾してませんけど」

 顔がひきつっている。


「うん。じゃあ、あとはよろしくね」


「話聞いてま……ギャーッ!!!」


 まばゆい光が炸裂した。目の奥を突き刺すような光に、環は顔を覆う。


 光がおさまったころ、ゆっくりと目を開ける。椅子に座った青田が、神の衣をまとっていた。


 頭の上には、ちゃんと後光がある。髪が少し伸び、ブリーチ後のような色になっていた。目の色も若干薄くなっている。眼鏡がなくなり、目鼻立ちが多少はっきりしていた。


「あ、青田?」


 目の前で手を振るが、微動だにしない。

 ぞろぞろと天使が入ってくる。バルコニーにはおさまりきらず、広間にまであふれていた。


 一斉にひざまずくと、無骨な天使が口を開いた。


「神の交代をお祝いします」

 天使たちが頭を下げた。


「だってよ、青田」

 環が肩を叩く。青田は宙を見つめたままだった。


「大丈夫です。聞こえてらっしゃいます。今は、神の力をインストールされている最中のため、お話ができないだけです」


「パソコンみたいですね」


「お声が聞こえるまで、しばしお待ちを」


 天使たちが、固唾をのんで見守る。怖いほどの静寂に、環は硬直する。

 青田が突然立ち上がり、一点を見つめたまま口を開いた。


「そぴあ」


 天使たちにざわめきが広がる。

「最初の言葉はソピアか」

「これは仕事がしやすい神かもしれないぞ」

「真面目そうだ」


「そぴあ、って何?」

 環は青田をのぞきこむ。彼の目の焦点が合う。眼光の宿った目で、環を見下ろした。


「第二の町の神が所持する武器の名前。ソピアを貸すよ」

 青田が右手を握る。やわらかな光が、拳を包んだ。


 結んだ手を開くと、ロングピアスがのっていた。金の円盤が連なっており、先端にはペリドットのようなしずく型の石が下がっている。


「ピアスが、武器?」

「戦闘において必要なことを、教えてくれるアイテムだよ。魔物の弱点とか、どこから攻撃がくるかとか。守るべきか攻めるべきかってことも。石に触ると発動する」


 環は目を丸くした。


「もうわかるんだね」

「不思議だよ。昔からやってたことのようにできてしまって」


 無骨な天使が進み出てくる。


「さっそくのお仕事、お疲れ様です。アリテュス様」

「アリテュス?」

「あなた様のお名前です。お顔も徐々に変わっていきますが、すぐに慣れますので」

「俺が俺のまま、俺でないものになるんだなあ」

 とひとりごちる。


 環に申し訳なさがこみあげる。神の仕事は激務のようだった。二人の人間が、業務に疲れ果ててしまった話を聞いたばかりだ。自分がここに連れてこなければ、彼が神になることもなかったのだ。


「なんかごめん」

「なんで謝るの?」

「いや、私がまきこんじゃったせいで、神になったわけだし」

 青田が首を横に振る。


「前も言ったけど、この人生でやれることはもうないと思うと、さみしかったから。大変なことは多いだろうけど、人生を引き延ばせるのは嬉しい」

 青田改めアリテュスが手を差し出す。


「夜見さんは悪いことを考えられる人じゃないって分かってる。だから武器を渡した。これからの旅路が良きものとなるよう願っているよ」


 早速、彼が神々しく見える。

「ありがとうございます……」

 恐縮しながら握手をした。

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