朝
星をいくつ数えたか分からなくなったころ、辺りが明るくなってくる。背後からの強い光に、環は振り返る。
水平線から朝日が昇ってくる。目覚め始めた人々が、朝日を眺めていた。
環は上の階に向かう。青田も窓辺に立っている。
「おはよう」
「おはよ」
青田の横に立ち、海と空のはざまを見る。
海は銀色に輝き、空はやわらなか薄紅に染まっている。さえぎるものがない朝日を、環は初めて見た。環の体がオレンジに照らされる。案外、朝焼けも夕焼けのように見える。この郷愁を誘う色は、一日を始めるのには似つかわしくないような気もした。
「あの世にいると、日の出と一緒に目が覚めるんだよね」
青田がのんきにあくびをする。
合わせて明るく振舞おうとするが、言葉が出てこない。胸につっかえた苦しみを吐き出さないと、笑顔もうまくいかないようだった。
「私さ、寝たとき、この世に行ったの。幽霊として」
「ああ、毎晩行くね」
改めて考えると、環はあの世で迎えた夜は昨晩が初めてだった。
「……私、自分で飛び降りてた」
青田の目を見れなかった。
「思い出したんだね」
彼は変わらない調子で相槌を打つ。
「うん……。正直、今日は神様のとこ行くような気分じゃないよ」
「でも、早い方がいいでしょ。俺は夜見さんに気の利いたことも言えないし。こんな所じゃ気分転換もできないし」
「……そうかも」
と落ち込んだままの声で返事をする。
「大丈夫。この話は俺に任せてよ。夜見さんは見てるだけでいいからさ」
環は青田を見る。案外頼りになることを言う。
「俺もこの世に行って、自分の意見を吟味してみたんだ。久し振りに研究室のパソコンを使ったんだけど、やっぱもっと生きてきたかったなって思った。あの世で本を読むのも楽しいけど、自分でもっと色んなことを解き明かしていきたかった。でももう、俺にそれはできない。だから、神と話す機会と、考える機会を与えてくれて、改めて嬉しいんだ。ありがとう」
思わぬ言葉に、環は辟易する。
「私はただ、困ってただけで」
「夜見さんがもっと賢かったら、誰かに頼ることもなかったでしょ」
とまた、真顔で言う。
「もう、嫌味ですかぁ?せっかくいいこと言ってくれたのに、結局マイナスだわ」
「あ、ごめん、そうじゃなくて、いやでも確かに嫌味っぽいな」
慌てる彼が、妙におかしい。環は明るい声で笑った。




