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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春日野霞
第ニ章 ソピア<知恵>
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神への答え

「神様からもらったっていうその資料、全部読んだけど、君は読んだ?」


「実は読めてなくて、ていうか全然意味が分からないので、何が書いてあるかをまず教えてもらえないかなって。ジサツキョウサがどうのこうのってのも、意味が分かっておらず……」


「そういうことね。進みながら説明しようか」


 二人はボートを漕ぎ始めた。


「そもそも、自殺教唆(きょうさ)って何か分かる?」

「いや全然分かりません」

「他人を自殺に追い込むこと。SNSでの問題を聞いたことない?『死ねばいいのに』といったメッセージをくらった人間が本当に自殺してしまうという事件」

「あー。あれをジサツキョウサって言うんですね」


 胸を痛めた記憶がある。よく、人にそんな言葉をかけられるものだ。


「それを、今は第三の町で裁いているんだって。でも最近自殺教唆を犯す人が増えているから、重大案件ととらえて第二の町で裁くようにするかを考えているらしい」

「第三の町にも裁きがあるんですね」

「うん。自殺幇助(ほうじょ)とか心中とからしい」


 また難しい言葉が出てきた。環は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「自殺幇助については今分からなくてもいいよ。心中は分かる?」

 意外と、環にとって難しい部分を察してくれるようだ。


「お前を殺して私も死ぬ!みたいなやつですよね」

「そう。そもそも、あの世において罪となるのは『生命の否定』にまつわる物事だけらしい。具体的には殺人とか。あの世に入った瞬間に、各々のデータが神に送られて、魂を消すかどうかが決められるんだって」

「資料に、そんなことも書いてあったんですか」

「うん。知っちゃいけないことを知ってるみたいでゾクゾクするね」


 青年が笑う。プレゼントをもらった子供のような笑顔だった。


「人の肉体を殺していたら一発アウトだから、第一の町で裁かれる。魂を消すかどうか議論が必要な罪状ほど、下の階層でジャッジされるらしい。罪を決定するのに時間が必要だから。で、自殺教唆は心中とかと同じくらいジャッジに時間がかかる罪なのか?って話になったんだって」


「あんま違いが分かりません。なんなら、心中はどっちかが殺してるじゃないですか」


「たしかに殺人はしているんだけど、お互い合意の上で、っていうのがあの世では大事な基準らしい。殺人にまつわる出来事が即刻罪なのは、『生命の否定』をしているからなんだって。だから「子供を守るために誰かを殺さざるを得なかった」とかは助かるのかも」


 突然、青年がボートを漕ぐ手を止める。環も慌てて止まった。


「でも自殺教唆は、自殺をさせているようなものだから。『死ね』って言葉は、分かりやすく『生命の否定』だよね。確かに、被害者の精神状態とかで結果が変わってくるものではあるけど、原因はゆるぎないものだし。それで被害者が死ななかったら運が良かったってだけで、否定をしていることには変わりないんだから、心中と同列で裁く必要はないんじゃないかな。ただ、肉体の殺人よりも慎重に判断すべき部分はあると思うから、第二の町で裁くのが適切だと思うな。数が増えているとか、そういうことは関係なく」


「それ、資料に書いてあったんですか?」

「ううん。自分の考え」

「じゃあ、それでいいじゃないですか!神様に報告に行きましょう!」


 思ったよりもスムーズに解決しそうだった。環は元気に旗をつかむ。


「神に報告???」

 青年が目を白黒させている。

「何の話?」

「あ……」


 なぜこの問題を解かなければならないのか、彼に伝えていなかった。自分も大概マイペースだ。環は照れ笑う。


「実はかくかくしかじかで……」

 これまでの出来事を、青年に話した。


「それじゃあ、神へ持論を披露しに行かなければならないってこと?」

「はい。私全然理解できてないんで、ぜひ一緒に来てもらいたくて」

「神に、かあ」


 青年は腕を組み、中空をにらむ。


「何か問題がありますかね」

「一晩寝かせてもいい?」

「考えを?またどうして」

「客観的にみられるようになるから。それに、こんな単純な問題を神が解決できないとも思えないから、何かもっと重大な落とし穴があるのかも。吟味ぎんみしたい」

「いいじゃないですか。今の意見で十分」

「内容を理解していない君に、どうして判断できるっていうの」


 と真顔で言う。悪気は少しもないのだろう。環は正論にぐうの音も出ない。


「お任せします」

「じゃあ、あそこに見えてるビルに行こう。一晩落ち着きたい」


 水平線に見えている建物の影を指さす。二人はボートを漕ぎだした。

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