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環はあの世を駆けめぐる  作者: 春原沙羅
第ニ章 ソピア<知恵>

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閑話

「あの、今更ですがお名前は?私は夜見環」

「青田《あおた》凌《りょう》」

「青田さんは、大学生とかですか?」

「うん。大学生。青田でいいよ。敬語も必要ないし」


 神経質そうな顔はしているものの、フランクなタイプらしい。


「塾でバイトしてたでしょ」

「よくわかるね」

「説明が親切だったから。あと、賢い大学出てそうなことも分かりますよ」

「そうだね。別に大学の序列とかくだらないと思ってるけど。問題は何を解き明かそうとしているかだから」

「そうかな。大学が良いと周りからも尊敬されるし、良いところに就職できるでしょ」

「そうかもね。それを知らずに死んだから、なんとも言えないけど」


「青田はどうやって死んだの?」

「事故」

「考えごとしてぼーっとしてたとかでしょ」

「そう。トラックにはねられた。ものすごい衝撃だったよ」

「痛みとかって、覚えてるものなんだ」

「覚えてるよ。夜見さんは?」

「覚えてない。っていうか、死ぬ前の記憶が全然なくて」

「ショックで忘れているのかな」

「気づいたら、橋の下にいたの。飛び降りたのかなあ」

「突き落とされたのかもよ」

「まあどっちかですよね」

「それは分からない。別の場所で死んで、飛び降りのように見せかけている可能性だってある」


「殺人事件?」


 青田がうなずく。


「正確には未遂だけど」

「誰かに殺されそうになった上に魔物に体を取られたってこと?最悪」

「史上稀に見る災難だね」

「ほんと。魔物に体を乗っ取られるって、百八年ぶりのことらしいよ」

「てことは、昔も魔物がいたんだ」


 眼鏡の奥の黒い目が、輝いている。興味があるようだった。


「魔物、どこにいたの?」

「意外と気になるんだ」

「意外かな」

「非科学的だ!とか言いそう」


「そういうことを『非科学的』って切って捨てる方がよっぽど非科学的なんだよ。どんな現象でも「見た」という人がいるのなら何かしらの原因がある。もしかしたら見間違いかもしれないけど、たとえば、それをどうして幽霊に見間違えたのか、ってとこが面白いわけで」

 青田が、早口で一気に言った。オタクなのかもしれない。


「近くの廃神社にいたらしいよ。人間に放置された神は、たまに魔物になるんだって」

「じゃあ、元は神だったものが降格したものが魔物ってこと?」

「さあ……。私にはさっぱり分からない」

「いや、こうも考えられるんじゃない。神にとって人間の信仰とはエネルギーで、それを失うと弱体化して魔物に……」


 青田は延々と持論を語る。環には彼が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、ときおりボートを漕ぐ手が止まったり、自分にツッコミを挟みながらしゃべったりする様子が面白く、見ていて飽きない。


 青田の語りをBGMに進む。太陽が水平線にさしかかろうとするころ、二人はビルに到着した。

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