12 ここから出るには
「カルはそっち側に。入り口から見える位置に立ってちょうだい。ウィルは外の見張りを呼び込むの。入ってきたら、何としてでも、そいつの銃を確保して。いい?」
シャーリンは小声で命じると、先ほどまで座らされていた椅子を持ち上げて移動した。扉に向かって右側の壁に張りついてから、ウィルを見下ろして頷く。
ウィルは床に寝ころがって、扉をどんどんと足でけり始めた。しばらく外に動きはなかったが、突然、大声が響いた。
「うるさい! 静かにしろ!」
ウィルは、今度は下品な言葉をわめき始めた。ふだん聞かないような汚い言葉使いに思わず顔をしかめる。
背中と頭を壁にピタッとつけた状態で、シャーリンは椅子を頭上に持ち上げると、カレンをじっと見ていた。
見かけよりこの椅子は重い。すぐに手が震えてきた。早くして。これじゃ長くもたない。
突然、カレンが顔を上げると合図してきた。
すぐに、扉の差し金をずらす、きしんだ音がしたあと、扉が外側にさっと開いた。同時に、大きな男が頭を屈めて入ってくるのが横目に見えた。
男は、床に転がっているウィルを見下ろして口を開きかけた。しかし、すぐに顔をさっと上げてカレンのほうを向くと、右手にぶら下げていた衝撃銃を持ち上げながら怒鳴った。
「おまえ、どうやって……」
シャーリンが横を向くなり、椅子を思いっきり男の頭上に叩きつけると、その声が途中で途切れた。
両腕に激痛が走って、一瞬、立ちすくむ。
男は何も感じなかったかのように、シャーリンに向き直るなり飛びかかってきた。
慌てて椅子の残骸を投げ捨てると、男を思い切り蹴り上げた。しかし、男は勢いのままにのしかかってくる。
右手に持っている銃を振り上げるのが見えた。迫ってくる銃を避けようと、腕を伸ばして男の手や顔を押しのけるがまるで効果がない。
ウィルが後ろから男の右腕につかみかかり、カレンが反対の腕に飛びついた。男の顔を殴ろうとするが、腕がしびれたままでまるで力が入らない。
もうだめかと思ったところで、ウィルがしばし男ともみ合ったあと、何とか銃をむしり取るのが見えた。すかさず怒鳴る。
「早く! 撃って!」
衝撃銃の軽い発射音がすると、男はそのままシャーリンの上に倒れてきた。体を捻って逃れようとしたが、その前に、顔の上に男が覆いかぶさってきて下敷きになってしまった。
床に頭と背中を激しく打ちつけ、大男の体で胸が押しつぶされた。肺の空気が一気に押し出され、冷気の矢が頭を貫いた。一瞬気を失いかける。
無我夢中で手を顔の前にねじこみ、横を向いて何とか呼吸できるようにする。
カレンが廊下に出ていって左右を確認するのが視界に映った。
自分のかすれ声が聞こえる。
「こいつ、重すぎる。早くどけて」
ウィルとカレンが男をずるずると引っ張る。
シャーリンは思い切り毒づきながら体を起こした。放心状態で、ふたりが、男の手足をロープでぐるぐる縛るのをただ黙って見る。ご丁寧にさるぐつわまでしていた。
激しい動悸が治まったところで、やっと口を開いた。
「カル、ほかのやつらは?」
「あと二人。まだ気づいていないと思う。あっちのほう」
カレンは廊下の左を指差した。
「これからどうするの?」
「まず、残りのやつらを何とかして、それから、探し物ね。カル、案内してくれる?」
カレンは床に残っていたロープをかき集めると廊下に出た。
シャーリンはよっこいしょと立ち上がり、一度体を反らせてギシギシいわせたあと、ウィルに続いた。そこで一歩戻ると、部屋の明かりを消してから、扉を閉めて差し金をしっかりかけた。
ゆっくり廊下を進んでいくと、行き先が左右に分かれていた。振り向いたカレンが右側を指し示す。
奥から何の曲かはわからないが音楽が聞こえてきた。ああ、このせいでさっきの騒ぎが気づかれなかったのか。そろそろつきが回ってきてもいい頃合いだわ。
近づくにつれて、騒々しい音の出所が通路の少し先の部屋とわかった。扉が開いていた。
三人とも、中から見られないように壁に張りつく。部屋の先には外への出入り口らしきものが見える。
シャーリンはカレンの耳元に口を近づけてささやいた。
「あそこにふたりともいる?」
「うん」
「どうしようか? 何とかそのふたりを眠らせないと。何かおびき寄せるのに使えるものはないかな」
そう呟くと、手を後ろに振って合図した。全員が曲がり角の近くまで後退した。
両方の廊下を見ながら考えていると、ウィルが口を開いた。
「ほかの出口を探したほうがいいんじゃないですか? 窓とか」
「だめよ。わたしたちのレンダーは、きっとやつらがいるあの部屋にある」
「そこに作用者もいるんですか?」
カレンが反対側でささやいた。
「この建物には、もう作用者はいないわ」
「それなら、攻撃力でやつらを……」
言いかけたウィルを遮る。
「だめ。ここで、力を使うところを見られるのはまずい。それに、わたしは攻撃力を人殺しには絶対に使わない」
「じゃあ、どうするんですか?」
「それを今考えてるとこじゃない。少し黙って」
少なくとも廊下には役に立ちそうなものが何もない。衝撃銃は接近戦でしか使えないし、やつらは正式の武器を持っているかもしれない。
その時、後ろから、ドーンという音が聞こえてぎくっとなる。皆が振り返る。ちょっと間があったあと、ウィルがこちらを見ておずおずと口を開いた。
「さっきの部屋ですよね?」
「ちゃんと眠らせたの? 目覚めるの、やけに早すぎない?」
「ちゃんと撃ちましたよ。見てたでしょう?」
「わたしは、あのくそったれの大男に迫られてたからね」
突然カレンが手を差し出した。
「ウィル、その銃を見せて」
「はい、カレンさん」
左手で衝撃銃を受け取ったカレンは、右手を表面に当てて滑らせるように動かした。さっと銃をひっくり返すと、底部のスライドパネルをずらしてぱちんとあけた。
あれ? カレンは衝撃銃を使ったことがあるのかな? ウィルも彼女の手元をまじまじと見ていた。
「最低にセットされているわ。これだと、あの大男には長いおねんねは無理よ。たぶんね……」
つまみをぐるっと回し、衝撃銃はウィルに返された。
「まだ、残量は半分ほどあるから大丈夫よ。少し離れたところからでも効果あると思うけれど……」
カレンは眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
ウィルが尊敬の眼差しでカレンを見ていた。
「カレンさん、銃の扱いに慣れているんですね? 知らなかった」
「え? ああ、銃ね」
カレンは慌てたように答えた。
「前に教わったことがあるのかも……」




