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紡ぎ合う世界の救世主  作者: 綿時 緋沙
聖なる集い編
205/256

第187話 聖騎士専属護衛騎士任命


 朝の鐘を前に、闘技場の中央には騎士団の兵たちが各部隊隊長を先頭にずらりと並んだ。

 この時間だけは魔術師団が帝都内の警備を全面的に引き受けて、帝都や近隣に駐在する兵たちを集めた。

 

 周囲を囲うギャラリー席の中に特別区切られた皇族用の一画には、ミルネアを除く皇族がずらりと並んだ。レスティオも正装でユリウスの隣に座る。

 セルヴィアはなんでそんなに朝早くからと渋い様子だったが、聖騎士絡みのことに参列できるのに参列しないわけにはいかないでしょうと側仕えのオルージェに窘められながら連れてこられた。

 ギャラリー席に護衛騎士任命の話を聞きつけて各所から人が集まって来ると、皇族たちは表情を引き締めて始めるように指示を出した。


 朝の鐘が鳴り響くと同時に、エルリックが部下を引き連れて姿を見せた。

 兵たちの前に用意された演壇へと立つと同時に鐘の音が終わり、静まり返った場内の雰囲気を見渡して、召喚の儀の翌朝を思い出させるとユリウスが小さな声で呟いた。

 こちらには当時のような緊張感はないですがねとディットが闘技場を見下ろしながら応じる。


「朝早くから良くぞ集まってくれた。聖騎士専属護衛騎士任命に先立ち、帝国軍総帥として皆に伝達事項を伝える!まずは、フランドール隊所属ロゼアン・ダイナ!」


 名前が呼ばれるとロゼアンは腹から声を張って返事をして、エルリックの前へと出る。

 その腕には特待生のジャケットが掛けられている。

 

「聖騎士認定特待生としての働きを認めるとともに、カーストンに伝わる聖女の力を受け継いでいることを認め、この者を我が元へ養子に迎えることとなった!名を改め、ロゼアン・カーストン!聖騎士認定特待生は返上となるが引き続きの活躍を大いに期待する!」


 ロゼアンが特待生でなくなる事を周知するための呼び出しだ。

 どよめきが起こる中、レスティオが拍手すれば皇族、ギャラリー席へと拍手が広がっていく。

 拍手を受けながら、ロゼアンはレスティオを見上げて一礼し、聖騎士認定特待生のジャケットをエルリックの部下へと渡して下がっていった。

 

「続けて、ジンガーグ隊所属ガヴリール・ヴァルナフ!」


 ガブリールには部隊長として皇室警護の任を委ねることが発表された。

 これまでは突然のダイナ隊解体に伴う仮任命に過ぎなかった。

 というのも、レスティオが護衛騎士に誰を選ぶか分からず、部隊編成直後に再編成となることも考えられたが故。副隊長を務める実力があるガヴリールを選択肢として残すために、部隊長の立場を確立させるのは今日まで見送られていた。

 

「フランドール隊所属ライネル・パドロン!」

 

 続けて名前が呼ばれたライネルも部隊長就任が発表される。

 名前が呼ばれた瞬間、フランドール隊を中心に兵たちは表情を強張らせた。悔しそうな批判めいた視線がレスティオへと向けられる。


「そして、部隊長クォート・フランドール!」


 ライネルと入れ替わりで前に出たクォートはいつもと変わらない表情でエルリックの前に立った。

 

「聖騎士レスティオ・ホークマン様帰還の折、重傷の御身体に更なる傷を負わせたとの報告が挙げられた。間違いはないな」

「はっ!確かに御座います。言い訳はありません。無礼を心より謝罪するとともに、如何なる処分も受け入れる所存にございます」


 動揺の色もなくエルリックの問いかけに応じた。

 途端に事情を知らない者たちがざわめきだす。

 レスティオは向けられる視線に胸が痛む思いで目を伏せた。

 

「レスティオ様より必要な処置の一環であったとの言葉添えを賜っている。しかし、如何なる理由があろうと聖なる御方に傷を負わせることはならぬ!よって、部隊長の任を剥奪するとともに騎士団からの除籍を命じる!」

「寛大な御処置に感謝し、謹んで罰を受けさせて頂きます」


 クォートが一礼する姿に耐えかねたようにソリッズが前に出た。


「場を乱すご無礼をお許しくださいっ!聖騎士レスティオ・ホークマン様に部隊長ソリッズ・ジンガーグより嘆願申し上げます!クォート・フランドールは部隊長として非常に優秀であり、厄災の折、騎士団に欠かせぬ存在にございますっ!処分の撤回……いえ、猶予だけでも認めてはいただけないでしょうかっ!」

「おいっ、やめろ」


 声を上げたソリッズを止めようと腕を伸ばしたクォートだったが、手が届くより先にソリッズは深く頭を下げた。

 そして、後ろに並ぶ兵たちも次々と頭を下げていく。

 その光景に場内が一層ざわめいた。


「レスティオ。少し早いが行け」

「あぁ、そうさせてもらう」


 ロデリオと頷き合って、レスティオは立ち上がりギャラリー席から降りていく。

 振り返ったエルリックと視線を交わすと、エルリックの部下たちが動き出す。運ばれてきたトレイのひとつから聖剣を手に取った。

 エルリックは演壇をレスティオへと譲って降りるとすぐそばに控えた。

 顔を上げた兵たちの訴えかける視線に目を細めて、ヴェールが邪魔だなと思いながら、演壇に立つ。

 正面に鞘に入ったままの聖剣を立てて強く足元に打ち付けると響き渡った硬い音に周囲が黙る。

 騎士団の兵たちは、一斉に姿勢を正してレスティオに注目し直す。


「ソリッズ。この度のクォート・フランドールに対する処分は、皇帝陛下の名の元に決定された。嘆願を聞くことはできない」

 

 ソリッズを見てはっきりと言うと、苦しそうに表情を歪ませる。

 改めて騎士団の兵たちを見渡せば、大半が納得していない顔をしていた。

 せがむような視線を早く宥めようと一呼吸おいて気合を入れ直す。


「しかし!これほどに人望高く、優秀な人材を捨て置くことも本意ではない。よって、クォート・フランドール。志があるならば、我が前へ」

「……はっ」


 探るような表情でクォートは一歩前に出る。クォートにだけ聞こえる声で、膝を、と言えば演壇の前に膝をついて首を垂れる。

 レスティオは聖剣を持ち上げ横に抜くと、日差しに輝く剣先をクォートの鎧の左肩に置く。

 息を呑み緊張した様子を感じながら見下ろし、口元に笑みを浮かべた。


「クォート・フランドール。騎士としての誇りを胸に、その身を賭す覚悟はあるか」

「……はい」

 

 ゆらりと剣先を右肩へと移す。

 

「我が信念に従い、忠誠を誓うか」


 何か言いたげに眉が揺らされた。

 単に覚悟を尋ねた訳ではないことを察した様子に、小さく首を傾げて答えを待つ。


「聖騎士様の御心のままに」

 

 はっきりと返された声に満足して剣先を上げ、顔を上げるようにいい、彫り込まれた名が見えるように翳す。


「聖騎士レスティオ・ホークマンの名の元に、クォート・フランドールを我が筆頭護衛騎士と認め、聖剣クラトスを授ける」


 鞘に納めてクォートへと差し出すと、驚いた顔で口元を震わせていた。

 唇で、はやくしろと促せば、両手を伸ばして聖剣を手に取った。


「身に余る光栄と存じます。有難く頂戴致します」

「罪を犯しても我が身を案じ行動したこの者以上に、筆頭護衛騎士に相応しき者はいないと私は願った。騎士団は除籍となるが、我が筆頭護衛騎士として、私が赴く先には常に共に在ることになる。異論のある者はいるか!」


 部隊長をそう簡単に引き抜くことはできない。

 しかし、丁度良くクォートに処罰を求める声が上がり、騎士団を除籍させることになったのだから使わない手はない。

 騎士団にとっても、クォートが常に最前線に出てくるようになれば、前線の戦力を底上げ出来る。

 日頃の部下への教育が徹底していることもあって、ライネルへの引継ぎも十分であると道中確認出来たこともまた大きい。


 歓声と拍手で筆頭護衛騎士就任が祝われると、クォートはどこか苦い表情でエルリックの部下に促されるまま演壇の横へと下がった。

 既に筆頭護衛騎士を拝命した以上、騎士団の列に戻るのは相応しくない。

 聖剣の腰帯を巻き付けて、新たに用意された筆頭護衛騎士のジャケットを纏う凛々しさを確認して、エルリックに進行を促す。


「では、引き続き、聖騎士専属護衛騎士の任命式を進める。ジンガーグ隊所属、シルヴァ・ハルヴァーニっ!」


 そこからは略式で両肩に聖剣ケルビンの剣先を当てて、忠誠の誓いを問いかけるだけで流れていく。

 護衛騎士は後に魔術師も加えることを考慮して総勢10名を任命した。


 筆頭護衛騎士:クォート・フランドール

 上位護衛騎士:シルヴァ・ハルヴァーニ、ジェウ・ロレアン

 中位護衛騎士:ベスティナート・グロム、ヘルムート・ツァンパッハ、ブノワ・ダールマイヤー

 下位護衛騎士:アロウ・トータン、レアム・ハームズワース、ケヴィン・シュレーゼマン、ハロド・ライリー


 筆頭と上位はさておき、中位護衛騎士はファビス隊で帝都の警備を中心に行っている者たちから選んだ。臨時の護衛に加わった経験があり、いずれもゾフィー帝国派遣団にも同行している実力者だ。

 下位護衛騎士はアロウを筆頭にトータン小隊から実力者と成長に期待できるものを引き抜いた。あまりに引き抜きすぎるとガヴリールがつらいだろうと思い、気持ち控えめにしたつもりだ。


 護衛騎士の任命が終わると、引き続き魔術師団からの護衛魔術師選定の流れが発表された。

 今後の活躍に期待するというエルリックの言葉で場は締められ、解散する。


「さて、アロウ。トータン小隊はもう護衛に就く準備は問題ないだろう」


 護衛騎士を引き連れて私室に戻ったレスティオは、ヴェールを脱いで彼らに向き直った。


「はっ!」

「では、クォート。暫し護衛はトータン小隊に委ね、他の者たちを連れて護衛騎士として任に就く準備を済ませて来い」


 側近同士の挨拶は選定期間のおかげで最早不要。

 これから聖騎士専属護衛騎士には、宿舎の移動や皇族の護衛による心構えの叩き込みなど短期での教育が予定されている。

 案内役としてエリザがにこやかに現れて、時間が無いのだからとクォートたちを有無言わせずに引っ張っていった。


「そういう訳でアロウは警護をよろしく」

「かしこまりました。では私とケヴィンを室内に、レアムとハロドを部屋の外に配備しましょう」


 気合が入った表情で頷くアロウに部下たちも威勢よく返事をした。

 





 各自皇族の側近用の部屋を割り当てられると、すぐに騎士団に籍を置いている半端な状態はいけないからと宿舎から荷物を移動するように指示された。

 護衛騎士就任の賛辞を受けている余裕もなく、手の空いている者の手を借りて荷物を運び出して割り当てられた部屋に放り込む。

 その間に宿舎の会議室では各種手続きの準備を整えて関係者が待ち構えていた。

 

「私の名はダスティン・オーガ。皇室の側近管理を担っている為、側近たちには管理官と呼ばれることが多い。まぁ、好きに呼んでくれ」


 壮年の男が名乗るのに合わせて、クォートも名乗ろうとしたが、既に把握していると断られる。

 

「宿舎では22時に筆頭を始めシフトの無い側近が集まり共有会を開いている。クォート・フランドールが参加出来ない場合は護衛騎士の各位筆頭から代理人を立てるように」


 レスティオの私室警備を考えれば遠征とあっても全員連れていくことはない。

 大陸会議派遣団など各位筆頭が全員城を離れる場合に限り護衛部隊のいずれかでよいとされる。

 また側近全体の共有会の他に、朝の6時から聖騎士専属の側近による共有会が行われる為、休暇を得ている場合を除き原則参加。その間の警備はヴァルナフ隊が引き受ける。

 他の時間帯については筆頭護衛騎士の采配で護衛達のシフトを組んで行動するように言われるも、筆頭護衛騎士が必須とされる予定は多い。

 食事などはすぐに取れるようにレスティオの部屋の隣に控えが用意されているが、随時任命されていた時よりも護衛としての責任が明確にのしかかり、離れるタイミングには慎重にならざる得なくなる。


「筆頭としての振る舞いについては、共有会の後、歓迎会を催すのでその際に、とのことだ。存外堅苦しいことを好まない者が多いが、側近の矜持を示す為にもその点口外はせぬように」


 一週間の護衛計画は既にエリザとダスティンの方で作成しており、以降の計画はクォートに委ねられるが、婚姻の儀までの予定と実務状況を踏まえて相談していくことになった。


「それと、この中で城下に家があるのはクォートとベスティナート、ブノワだな。ジェウの実家は聖騎士御用達故今は置いておくが希望があれば共に見ておけ」


 ベスティナートとブノワの前に紙束が置かれる。


「其方らの身辺は調査済みだ。単刀直入に言えば、今の住居は聖騎士専属護衛騎士に相応しくない。その資料から新居を選ぶように。引っ越しに伴う費用は就任祝いついでにこちらで負担する」

「え、この屋敷のどこか一室を借りられる、という……?」

「馬鹿を言うな。その屋敷ひとつを与えると言っている。こちらが不相応と今の住居に文句を付けるなら用意して然るべきだろうとレスティオ様の御言葉である」


 生憎筆頭から中位まで護衛騎士全員庶民である。

 聖騎士専属護衛騎士と言う地位と共に屋敷を突然与えると言われて思わず震え上がる。


「各々の位に見合った心付けの用意もある。1週間以内を目途に家族の身にまとうものや家財を全て改めてもらうのでそのつもりでいろ。家族へのマナー教育にはイグラムの妻を紹介しよう」

「そ、そこまでして頂いてよろしいのでしょうか」


 クォートも思わず表情が険しくなる。

 部隊長として迎年祭に妻を同伴させると告げた時ですら卒倒されかけたのだ。

 それに、昨晩、聖騎士に不敬をしてしまったが故、不遇な暮らしを余儀なくされるかもしれないと謝ったばかりだった。

 不遇どころか家格が急に上がるなどどう伝えたものか。そう考えたところで、クォートは自分には屋敷の資料を与えられていないことに気づく。


「オーガ管理官。私はどうすればよいですか?」

「其方は筆頭護衛騎士としてレスティオ様の屋敷の隣に既に邸宅を用意している。あぁ、正しくは特待生寮だな。レスティオ様の屋敷は新たに用意を進めることになっているが、まぁ、近辺に変わりはない」


 各屋敷には城仕えから一人以上使用人として派遣する手配も済んでいる。

 クォートに用意された屋敷は元より筆頭護衛騎士用に備えられていたので、既に使用人が隅々まで掃除を済ませて移住を待ちわびている。

 城仕えから聖騎士と名のつく肩書きを得ることはそれが護衛騎士の世話であろうが誉れなのだと、ダスティンは尤もらしく語った。


「あ、あの、妻にも相談したいのですが、この場で決めた方が良いですか?」

「構わん。これより外出を認める。それぞれに文官を付けるので、昼の鐘までに移住の手筈を整えて申告するように」


 昼の鐘までは2時間もない。

 既婚者たちが文官と共に出ていくのを見送った未婚者たちは自室の整理をすべくのんびりと動き出した。






 文官のニルカ・フランベスカを連れて城下に出たクォートは真っ直ぐに妻のリッシェが務めるシュクナ工房へと向かった。

 両親も務めている工房ということもあって朝早くから顔を出すのは気が引けるが致し方ない。


「フランドール隊長。屋敷には御両親を迎えられる用意もあります。付け入ろうとする者を抑えるなら迎えることを考えられてもよろしいかと」

「進言感謝する。あの人たちが長年住んだ家を離れるかどうかはわからんがな」


 工房街に入ると資材など大荷物を運搬する人通りが増える。

 今日は走ってないの?と気安い声掛けに、所用がありましてと手短に応じて通り過ぎる。

 目的の工房の看板を見つけると、丁度リッシェが顔を出してクォートに手を振った。


「旦那が来てるって声を掛けてもらったんだけど、どうかしたの?」

「すまないが、聖騎士様に関わる用件だ。数日の間休みをもらってもらえるか?俺の両親にも手伝ってもらいたい」

「え?なに急に。今繁忙期なんだけど……もぉ、ちょっと待ってて」


 リッシェと両親、そして道中で娘のテトラに声を掛けて自宅へと帰る。

 末娘のトリスは魔術学院の最終学年で卒業に向けて学科試験に勤しんでいる最中なので、ひとまず声を掛けることを諦める。

 

「私は立会いなのでどうぞお気遣い無く」


 ニルカは手帳を手に壁際に立った。

 家族は緊張した顔をするが致し方ないとため息をついて、クォートは作り置きの冷茶を一口飲む。

 

「急に呼び立ててすまない。突然だが、俺は聖騎士様より筆頭護衛騎士の任を賜ることになった」

「え?」

「は?」

「ほぉ」

「まぁ」


 昨晩に話をしているリッシェとテトラは驚き、両親は感嘆しただけだった。

 部隊長になると告げた時も両親は良く頑張ったと褒めるばかりだったことを思い出しながら、クォートはダスティンから預かった屋敷の資料をテーブルに置いた。


「筆頭護衛騎士就任に伴い、相応の住居へ引っ越すように言われている」

「ぇ、引っ越しっ!?ここじゃ駄目なの?」

「ここは聖騎士様の筆頭護衛騎士には相応しくないそうだ。家族が身に纏うものや家財も全て1週間以内に整えるように言われた」


 ちょっと待って、とリッシェがクォートの説明を止める。


「聖騎士様に不敬をして、処罰が下るんじゃなかったの?」

「それによって騎士団から除籍となった。そこをレスティオ様が拾ってくださったんだ」

「不遇どころか大出世じゃないっ!そんな、私、部隊長の妻として迎年祭に出るのだって緊張して大変だったのに!聖騎士様の筆頭護衛騎士ってそんなっ」


 頭を抱えてテーブルに突っ伏したリッシェにクォートは心底申し訳なくなった。

 テトラは、はっとしてテーブルを強くたたいてクォートに詰め寄った。


「それって、私の結婚相手とかもちゃんとした人じゃなきゃダメとか言われたりするのっ!?困るんだけどっ!」

「お前、そういうことを考える相手がいたのか?」


 顔をしかめたクォートに、リッシェは両腕を伸ばして落ち着きなさいと宥める。

 

「失礼ですが、立会人として発言をよろしいでしょうか」

「あぁ、構わん」


 ニルカが口を挟むと、クォートはすぐに冷静な顔で頷いた。


「ご家族の婚姻および交友関係についてですが、聖騎士専属筆頭護衛騎士の親族と周囲に知られることによって、クォート殿や聖騎士様にお近づきになりたいと考える者たちから接触を受ける可能性が考えられます」

「それが?」

「最悪の場合、聖騎士様やクォート殿の暗殺を目論む者が貴方がた家族を足掛かりに接触を図ってくるやもしれません」

「ぇ、暗殺って……そんな……」

「幾分改善されているとはいえ、騎士が聖騎士様護衛の筆頭を務めることに懐疑的な者はいます。クォート殿は家格が高い訳でもありませんから、筆頭交代を狙っての暗殺や、なにかしらの失態を演出してその地位を貶めようとする輩は多いと考えた方が良いでしょう。そのような謀略に当たって、警戒心の無い庶民が利用できるとなれば、利用しようと考える不届き者は必ずいます」


 テトラは押し黙って、リッシェの腕を擦り寄るように抱きしめた。


「相応しいか否か以前に、こちらが用意した屋敷に移り住むことは皆様の警備を確実にすることに繋がります。加えて、テトラ様に進言させて頂くならば、婚姻をお考えの相手がいるのならば、今すぐにそちらへ籍を移すことでクォート殿の娘として狙われる可能性を下げることはできるでしょう。もし御相手が軍の方であれば、ご家族の護りを固め、今後フランドールを騎士の家系として繁栄させるべく、婿に迎えることも考えられます」


 急に言われても、と困った顔をする家族にクォートは申し訳なさを覚えて唸る。

 ニルカの言うことはクォートには理解出来ても、家族はこれまでそんなこととは無縁だった。


「ねぇ、この家にある物は大概、きっと次の屋敷には相応しくないわよね」

「ん?あぁ、そうかもしれんな。向こうには既にある程度の家財は揃えられているそうだ」

「そう。じゃあ、とりあえず私は貴方についていきます。テトラは荷物をまとめるか、ここで家庭を作るかもう少し考えなさい。お義母さん、お義父さん、テトラの事頼めますか?」

「トリスのことはどうする?」

「あの子はきっと、城で働くことを考えても付いてくるでしょう。夕飯の支度までには一度戻ってきて私から話をします」


 リッシェはそう言って立ち上がると、自分の服装を見て小綺麗な服に替えて来ると部屋に入っていった。

 戸惑いはしても意を決したら強い妻にクォートは心の中で感謝を告げて娘をみる。

 

「テトラ、すまない」

「言っておくけど、私がお父さんの娘って教えてないから。名前しか言ってないし」

「ということは騎士団の誰かと言う訳か」

「聖騎士様は応援するって言ってくれたんだから!絶対大丈夫な人だもんっ」

「なっ、レスティオ様といつの間に!?レスティオ様には誰と付き合っているのか話したのか」

「違う。貰った髪飾りを見ただけで誰って気づかれたの。相手がいないとか、そういう話を聖騎士様としたことがあるみたいよ」


 誰とは言わずに大丈夫な人だと言い切るテトラにクォートは頭を抱えた。

 レスティオが話したことがある人物なんて騎士団の大半が該当すると言っても過言ではない。

 娘を持つ親は大変だと笑う両親に、屋敷に移り住むかと念のため尋ねれば、上等な屋敷は柄じゃないと断られた。

 時間が無いこともあり、クォートはリッシェの準備が整うとニルカを連れて家を出た。



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